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終章

神崎が珍しく凹んでいるように見える。

 麻田がその顔にデコピンを食らわせ、大きな声で叫ぶ。

「今日、課長ご夫妻がオチビワンツーの面倒見てくれるの!ですから!弥皇も誘ってブラックカードで飲むぞ!ちなみに、ワンはさとし、ツーはさとるよっ」

「ただでさえナーバスなのに。って、子供自慢かよ。今日お礼参りするってか」

「こういう凹んだ日はパーッと楽しまないと。安心して、ブラックカードの店でお礼参り無理だから。あとでね。でも、絶対に忘れないわよ。充分鍛えておきなさい」

 神崎は麻田の男勝りな性格についていけない。

「ねえ和田くん。麻田さん、思ってた以上に男前すぎるし。弥皇さんがオネエに見えるわ」

「オネエ?ああ、弥皇さんホストクラブとか似合うかも。ねえ、麻田さん」

「誰がホストだって?ああ、弥皇くんね。神崎、あんたも似合うわよ。潜入捜査にはもってこいの相棒になること確実。ね、スーちゃん」

「で、ブラックカード目当てのおばさまが通って、それ以上にお金を落していくのか」

 麻田が高らかに笑い出す。

「それよか、ワンツーにモデルのスカウト話がくるのっ!あたしに似たのね。ベストチョイスだわっ!」

「おい。麻田。弥皇にいったら泣かれるぞ。でも、あいつのことだからステージパパやりそうで、怖い」

「須藤さん、何気に怖いこと言ってますね。麻田さん!知らなかったとはいえ、ホントにすみませんでした!さ、もう謝った」

「あーあ。始まったよ、自分の言いたいことだけ大声で話す、昔っからの、あの習慣」

 和田が皆を指差し、懐かしげな顔をして呆れたように笑う。

 神崎が皆を前に、ホスト役と思しき手付きで華麗な振る舞いを魅せる。

「では次は僕、神崎が皆さまを禁断のスペースにご招待いたします、ブラックカードは流石に無理ですが」

「神崎。貴方やっぱりホスト役できそう。あたしと弥皇くん、ワイン派。ある?」

「どのような種類でも。お任せください。ただし、盗品は扱っておりません。ご承知おきのほど」

「貴方も相当不思議な男ね、情報通だし。運動系、科学的知識、ここじゃ役不足だわねえ」

「僕に聞かないでください」

「そういや貴方、写真の撮り方、すごく上手かった。流石のあたしも半分信じた」

「そりゃあ、昔取った杵柄ってやつですよ。全裸から死体から、多数目にしましたから」

「なるほど。そういう部分もこれから役立っていきそうじゃない」


 麻田は、弥皇とは違った意味でホスト向きの神崎が気に入ったようだ。

 弥皇たちの全裸写真撮影の罪はあれど、失神の刑が実行されるのか、減刑されるのか。麻田の性格上無罪は有り得ないが、清野がスパイの罪をきせられ現世を去った今、神崎に矛先を向けたところで何が変わるわけでもない。

 麻田のこういう、さっぱりとした部分が、男性同僚から対等に扱ってもらえる所以だ。


 弥皇が来た。柄にもなく、ぼそぼそと独り言を呟いている。

「日本版FBI、或いはCIA、KGBまでいくと破壊的かな」

「何をぼそぼそ呟いてる、弥皇」

「何でもないです。課長、奥様にお願いしてきました。オチビをよろしくお願いします」

 課長が見たことの無いような笑顔で答える。

「おう、みんなで楽しんで来い。俺はやっと幸せを掴んだ、孫みたいでなあ」

「ベビーシッターさんもいるし大丈夫です。オチビも、課長や奥様のお顔をみるとご機嫌なんです」

「夢だった。子供と遊ぶのが。俺も妻も、いつも楽しみでな」

 和田が明るくいってのける。いや、あからさまというべきか。

「多分、双子ちゃんは本物の両親いなくても全然OKですよ。1週間いなかったら、生みの親のこと、他人だと思うかも」

 麻田が、さっと顔色を変える。どうせ子供の世話をベビーシッターさんとか、弥皇さんに押し付けているに違いない。みな、共通意見だったようで、麻田と目を合わせないように、そっぽを向く。

「今、何か聞こえたような気がするの。誰?」

 弥皇が笑って手を挙げる。

「ワンツーは貴女に似て、豪快な性格だと言ったんですよ。本当のことでしょう?」

「そうね、豪快過ぎて、たまに末恐ろしいときがあるわ」

「あとは僕の腹黒さも備わっているんですよ。麻田さんのお腹の中、筋肉しかないから」

「弥皇くん。筋肉は余計。女はね、強かさを身に付けないと。この世で生きていけないの」

「ああ、だから天使の呟きも封印しましたか」


 先程以上に顔色を変えた麻田が、弥皇の口を閉じようと焦ったように室内をパンプスのまま走り追いかける。笑いながら机の間を逃げ回る弥皇。暴露されては一貫の終わりと、捕縛に必死な麻田。

 逃げる弥皇を尻目に、須藤、神崎、和田が麻田を取り囲む。まるで麻田の退路を塞ぐかのように。

「おい、麻田。天使の呟きって何だ。若い頃に何かやらかしたか。聞いたことねえぞ」

「去年もそんな話、聞いてないし。僕の情報網にも引っ掛かってないですよ」

「僕がこれから調べるとしましょう。麻田さん、もし僕、神崎が情報入手したら無罪放免ということで如何です?取引の対価としては、充分かと」

「か、神崎。あなたも腹黒いわね。いいわ、もし情報掴んだら無罪釈放してあげる。その代り、誰にも話しちゃ駄目よ。冥途の土産に持って行くのが条件」

 麻田は手を震わせながら、ちょっと顔を赤らめて神崎の申し出を受けた。和田も調べたいと申し出たが、対価が無いと麻田から拳骨を食らった。


 課長が皆に挨拶する。

「じゃ、御先に。みんな、気を付けろ、飲み過ぎるな。今日は酔って暴れるなよ」

「はい!サイコロ課、出動!」


 その頃、くすくすと笑ってその様子を監視カメラから見る人物数名。

 別の場所では、これまた微笑みながら何度もぬいぐるみの胸をナイフで刺す人間がいた。


 片方は警察庁の上層部だろう。

 もう片方は・・・。


◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇


 弥皇がイクメンと化し、麻田がサイコロ課に舞い戻ってから1ケ月が経った。

 サイコロ課の面々は、今日も過去の事件に関するデータを神崎が読み上げ、和田が犯人に関するプロファイルの先陣を切る。

 そこに参戦するのは麻田。

 激しいプロファイルの応酬が巻き起こり、麻田が和田に拳骨をかましそうになるのもしょっちゅう。

 須藤が麻田の暴挙を押さえる役目を担う日々が続く。

 神崎は、和田に比べて要領が良い。

 データを読み上げながらも自分なりのプロファイル感覚を養い、麻田と和田が見逃したような側面から犯人の特殊性を引き出したりする。

 これも、科警研出身ならではの技か。

 神崎の敏腕能力はこればかりではない。逆に和田は鋭い一言や切迫した時間内のプロファイルをせっつかれ、しどろもどろになるシーンもあるくらいだ。その数何度に渡ることか。

 シャーロキアンの会合にも顔を出さず、自室で一人今迄の事件をひっくり返しては自分の考えを簡潔かつインパクトに溢れたフレーズを用いて周囲にアプローチする方法を模索する和田であった。


 神崎はサイバーテロの犯人と目された人物の一人。

 科警研ではそれなりの働きをしていたものの、ただ一点、汚点を残したことによりサイコロ課へと吹き飛ばされた。

 サイバーテロの犯人が見つかったことにより、神崎を元の部署に戻す動きはあったらしい。

 しかし神崎はサイコロ課に残る道を選んだ。

 科警研との結びつきはそのままに、サイコパスは何たるかを紐解きプロファイルに役立てようとしているようだ。


 これからサイコロ課はどちらへ舵を切るのか。

 それはサイコロ課の人間にしか分り得ないことだ。

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