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7話「移動浮遊要塞(燃える)」


「今日は疲れたでしょうから、部屋に案内するわ」


 長老達との話が終わった後、ミコナがそう提案した。

 戦闘した割にそれほど疲れてはいなかったが、たしかに自分の部屋は知っておきたかった。


「シャルちゃん、浮遊要塞の復旧率はどのくらい?」


 ミコナが少女シャルに尋ねる。


「……たぶん、二割くらい。居住区画は……六割くらい」

「ならもう部屋は使えるよね」

「……うん」


 恥ずかしがり屋なのか相変わらずシャルは小声しか出さない。

 折角だから仲良くなっておきたいのだが、会話が見つからない。ふとタケルはずっと気になってたことをつい聞いてしまった。


「そういえばシャルって耳の形がちょっと特徴的だよな?」

「……っ!」


 驚くほど過剰に反応したシャルはミコナの後ろに凄い勢いで隠れてしまった。

 ミコナは半目でこちらを睨む。


「……亜人に偏見は無いんじゃ無かったの?」

「ええ!? 別に悪意があったわけじゃないんだよ!」

「デリケートな問題なんだからもうちょっと考えて発言してよね」

「問題のある話なのか?」

「ああ、タケルの世界では普通の事だったの?」

「いや、そもそも何が問題になっているのかもわからない」

「異界って遠くの国くらいのイメージだったけど、少し考え直さないといけないわね」


 頭が痛いといった体でミコナはわざとらしくこめかみを押さえた。


「シャルちゃん、説明しても大丈夫かな?」


 ミコナに問われたシャルは、しばらく考えた後に小さく頷いた。


「ありがとう。……えっとねタケル。彼女はハーフエルフなのよ」

「ハーフエルフ」

「エルフはわかるわよね?」

「俺の世界にはいなかったけど、なぜか物語には良く出てきたな」

「そう……絶滅してしまったのね」


 ミコナは大きく誤解したが、今その辺を説明すると長くなりそうだから、今は肯定も否定もせずに無言で続きを促した。


「私も詳しくは聞いていないんだけど、彼女は帝國生まれなのよ。でも両親は共に人間だったらしいわ」

「隔世遺伝か」

「え?」

「簡単に言うとご先祖様のどっかの特徴が唐突に出る事だよ」

「……それ、本当?」


 それまで無言だったシャルがおずおずと聞いてきた。

 会話の取っかかりになるなら大歓迎だとタケルは頷いた。


「こっちの世界ほど種族が多様だったわけじゃないから絶対じゃないんだけど、例えば両親は共に黒い瞳だったのに、子供の瞳が金色だったりするんだよ。んで調べてみるとばあちゃんとか、もっと前の血縁に外人……金色の瞳をした人がいたりするんだ。珍しいけどたまに起きるらしいよ」


 シャルがタケルをジッと見つめて、ぼそりと言った。


「……呪い……じゃないの?」

「隔世遺伝だったら呪いでも何でも無いよ」


 まぁこっちの世界は魔法とかあるみたいだから、呪いじゃ無いとも断言できないが、シャルの目を覗いてしまったらそれを言う事は出来なかった。逆にタケルは言い切った。


「大丈夫だ! 呪いなんかじゃ無い! ご先祖様の特徴が出ただけだ!」


 無責任かも知れないが、タケルは断言した。

 するとシャルは小さく、とても小さくだが笑顔になり、そして一筋涙を流した。


「うをぉお!?」

「良かったねシャルちゃん……」


 焦るタケルとは真逆にミコナは優しくシャルの頭を撫でた。

 しばらくタケルは艦橋の外を覗いたりして、出来るだけシャルと距離を置いた。今はミコナに任せよう!


「……いいわよタケル。行きましょうか」

「あー、もういいの?」

「ええ。シャルちゃんも行きましょう」


 シャルが小さく頷く。

 一人我関せずを貫いていた褐色エルフのヘイセは、寄り掛かっていた壁から背を離した。


 四人はエレベーターで移動する。一度乗り換えてから降りた階は生活区画だと説明を受けた。


「小さいけど、タケルには個室を用意したわ。大半の人は大部屋だから狭くても文句を言わないでね」

「ああ、船みたいもんだろうからな。個室ってだけでありがたいよ」

「そう言ってもらえると助かるわ。私の部屋は隣だから、わからないことがあったら何でも言ってね」

「わかった」


 小さな扉がずらっと並ぶ廊下で、ミコナがタケルの部屋と自分の部屋を教えてくれる。


「向かいはシャルちゃんだから」


 シャルは小さく会釈すると、自分の部屋に入っていった。


「俺も今日は寝る」

「お疲れ様、ヘイセ」

「ああ」


 ヘイセは片手を上げると、通路の奥へとそのまま進んでいった。どうやら彼の部屋は近くでは無いらしい。


「てっきりあいつも個室かと思った」

「ヘイセは妹さんと二人部屋なのよ」

「妹がいるのか」

「ええ。彼の種族はおそらくもう二人だけだから……」


 どうもこっちの世界は割とシビアらしい。


「着替えとかは用意させておくから、今日は休みましょう」

「そんなに疲れては無いけどな」

「それは頼もしいけど、私が……私達の疲労が溜まっているのよ」

「ああ、なるほど」

「ずっと逃避行だったのよ」


 どうやらかなり大変だったらしい。


「わかった。細かい話は明日聞くよ」

「そうしてもらえると助かるわ。それじゃあお休みなさい」


 ミコナが自分の部屋に入ったのを確認してから、タケルも自室を確認することにした。

 金属製の自動ドアが開くと中は4〜5畳くらいの部屋になっていた。小さなテーブルと椅子。備え付けのベッド。それにクローゼットっぽい収納スペースだ。一人で暮らすには十分過ぎる広さだった。

 トイレやシャワーなどはついていなかった。窓も無いので少々息苦しい感じではあったが、空調はしっかりしてるのか空気が淀んでいるようなことは無かった。


「うーん。やることも無いし寝るか」


 そうえば腹減ったななどと考えていたが、気がつくとタケルは夢の世界に旅立っていた。

 この世界に飛ばされた事自体が夢見たいなものだったが。


 ◆


「タケル、起きてる?」


 扉をノックする音と女性の声が重なる。

 タケルは意識をスッと取り戻した。


「……女の子に起こしてもらうとか、異世界に来たかいがあるな」


 むくりと身体起こして、扉を開けると、中世っぽい服装のミコナがいた。


「あれ? 今日は露出少ないな」

「え……?」

「ほら昨日の服はもっとこう、薄手な感じで……」

「ちょっ! なっ! 何考えてるのよ! あれは正式な巫女服で……!」

「似合ってたのになぁ」

「こっこれだから男の子はぁ!」


 ミコナは手にしていた荷物をタケルに投げつけた。タケルは軽く受け止める。どうやら靴のようだ。

 まぁ良い。

 タケルは靴を履こうとしたが、風呂に入っていないことを思い出す。

 ちょっと身体を拭こうと濡れタオルを用意して、服をさっと脱いだ。


「そうそうこの後……きゃあああ!」


 閉まったと思った扉がすぐさま開いてミコナが顔を覗かせるが、間髪容れずに真っ赤になって再び廊下に飛び退いた。


「なんで脱いでるのよ!」

「いや、ちょっと身体を拭こうかと」

「変態!」

「理不尽だろそれ……」


 タケルは釈然としないと言いつつも、身体をさっと拭いてから廊下に出た。


「……」

「いや、そこでふて腐れても」

「わかってるわよ! 食事に行きましょう!」

「……理不尽すぎる」


 納得いかないタケルだったが腹は減っているので、早足のミコナに付いていった。

 ちなみによく見たらシャルも横にいて、こちらを一瞥する。

 顔を紅くした後そっぽを向かれた。


 解せぬ。


 それがタケルの素直な感想だった。



本日はなろうラジオ出演です


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