14話「アマテラス」
「それにしても唐突だな。いきなり名前なんて」
浮遊要塞と呼ばれていた浮遊空母の作戦室らしき部屋に集まっていた、主要メンバーの代表である長老が「要塞の名前を決めよう」と言い出した。
「うむ。要塞でも空母でもいいんじゃが、せっかくだからの。お主命名しておくれ」
「え? 俺が?」
「うむ。聞いたぞ、お主、魔導鎧装を魔導武士鎧装タケミカヅチと名付けたそうじゃな」
「まぁ、ノリと勢いで」
「しかも剣の神の名と聞いたからな。縁起も良い」
「誰に聞いたんだ?」
格納庫で決めたばかりで、長老達は知らないはずなんだけどなと頭を捻るタケル。
「なに、ちょうどこの通信機というのの練習をしておってな。ゴルゴンに聞いたんじゃ」
「なるほどね……でも名前って結構大事だろ? 新参の俺が決めちゃって良いんですか?」
「かまわん。皆に決めさせたら揉めるしの。むしろ新参がさくっと決めてしまった方が後腐れがないじゃろ」
「それって俺にヘイト溜まるんじゃ……」
「へいと?」
「あー、悪感情が集まるんじゃ無いかなって」
「なに。そんな事もあるまいよ。先ほど聞いたら妙に皆が発音を気に入っておってな。何人かに聞いてみたんじゃが、お主が決めるならそれでええと」
「……手回し良すぎだろ」
「それが長老としての仕事じゃからな」
三人の長老達が声を揃えて笑った。
敵わないなぁと、タケルは頭を捻ることにした。さてどんな名前がいいか……。
折角古い神話関係の名前にしたわけだし、揃えてみるか。
「よし決めた」
「ふむ。教えてくれ」
「……アマテラス。……魔導戦闘空母アマテラス!」
「ほう」
「ぬ……」
「……格好いい」
ジングンとヘイセの反応は上々だ。以外だったのは大人しいシャルだ。まさか「格好いい」と漏らすとは。
「ふむ。何か意味のある名前なのかの?」
「うちの国で太陽の神さまの名前かな」
詳しくは知らないが、確か古い神話に出てきた神さまの名前だ。
うろ覚えだが、特に問題も無いだろう。むしろ信心深いわけでも無いのでさらっとそんな名前を命名出来たとも言える。
「それは良いな」
「良いと思うよ」
長老だけで無くミコナも賛同してくれた。てっきり褐色エルフのヘイセは反対すると思ったのだが、憮然な面持ちは浮かべつつも特に反論してこないところを見ると、悪い語感では無いらしい。
「では決まりじゃ……、ジングンよ、手漉きの住民たちを外……甲板に集めよ!」
「はっ!」
「え? 何が始まるの?」
タケルの質問に答えてくれる人はいなかった。
◆
「ここに! 我らの新しい故郷として! アマテラスの建国を宣言する!!」
ジングンの良く通る声が、だだっ広い甲板に響き渡った。
おそらく1000人を越える人間……亜人を含む人々が諸手を挙げて「アマテラス!」と三唱する。
「今まで浮遊要塞と発表していたこの要塞であるが! 今日より魔導戦闘空母アマテラスと命名することとした!」
うををををおおお!! と大地……ではなくアマテラスを揺るがすほどの熱狂が青空の甲板を覆う。
「我らの当面の目標は! 帝國から逃れつつ! かの帝國に打ち勝つ力を蓄えることとする! 反論がある場合はそれぞれの代表に伝えるように!!」
だが反論する者はいないようで、全員が”アマテラス”と力の限り叫び続けていた。
そしてタケルは一人頭を抱えていた。
「……艦の名前って話だろ……なんで国の名前になってんだよ……」
30秒ほどしゃがみ込んだ後、唐突に立ち上がる。
「まいっか。格好いいし!」
細かいことは気にしないタケルであった。
そんなこんなで集会は終了して解散となった。
「タケル」
話し掛けてきたのはジングンだった。
「なんですか?」
「これからの事だが、アマテラスはこれより海峡に向かう」
「海に出るんですか?」
空母の運用としては正しいのだろうが、空を飛ぶ空母をわざわざ海に持っていく意味があるのだろうか。
「海峡を渡った先にある国は、唯一帝國と対峙しているんだ。地勢の問題もあり、現在帝國とは小康状態。そもそも帝國とは隣接していない」
「そこにいく意味はあるんですか?」
「そこならば安易に帝國は追ってこないというのが最大の理由だが、他にも補給などの問題がある」
「なるほど」
そりゃこの巨体だ。必要な物は多いだろう。
「だが、その前問題がある」
「問題?」
「ああ、海峡にはこの国、フェロー連合の港町があるのだが、当然軍も滞在している」
「そりゃ……そうですよね。避けて通る訳にはいかないんですか?」
「地形的に無理なのだ。それと食料が保たん」
「水は……魔導でいくらでも作れるんですよね」
「ああ、だが食料を積み込んでいる最中での襲撃だったからな」
ジングンが忌々しげに呟く。
「もしかして食料の入手ルートからアマテラスの場所がバレたのでは?」
「なるほど……その可能性はあるな」
顎に手をやって考え込むジングン。
「だが今それを考えても仕方が無い。まずはこの渓谷を抜けた先の港町を突破することを考えねば」
「渓谷っていっても、だいぶ開けましたよね?」
「少し幅があるだけで、アマテラスが飛び越えられるほど低い場所は、正面の海峡だけなのだ」
「厄介ですね……」
「ああ。戦闘になることを覚えておいて欲しい」
「わかりました」
伝えることを伝え終えたのか、ジングンは艦の中へ戻っていった。
わざわざ教えてくれたということは、激しい戦闘になると予想しているのかも知れない。
下方を流れる森を眺める。せめてアマテラスの移動速度がもう少し速ければと思ったところで頭にファンタジーな風景がよぎった。
「……そうだ。速度だよ。速度を増やせれば危険もその分減るじゃ無いか!」
タケルは踵を返すと格納庫に走った。
「ゴルゴンさん!」
この空母の技術責任者となっているゴルゴンに駆け寄るタケル。
「なんじゃ? どうした?」
「ちょっと意見があるんだけど!」
「ふむ?」
「この船の速度ってもっと出せないんですかね?」
「調べた限りは今の速度が限界じゃな。そもそもあまり動き回ることを想定していなかったようじゃ」
なるほど。だから対空兵器なんかが充実しているわけか。もっとも今はまだ一部しか稼働していないようだけど。
「なら、艦の後部にプロペラを付けよう!」
「……プロペラ?」
「ああ! 風を作り出して艦を押し進めるんだよ!」
ゴルゴンが無言で眉をしかめた。
「ああもう! 何か描く物はない!?」
「ん? あるぞ、そこに……」
「借りるよ!」
近くのテーブルに積んであった紙の束から、白紙の物を引き抜き、羽ペンにインクを浸す。
アクティブオタクであるタケルの趣味の一つに同人誌出版という物があった。
オリジナルの漫画を描いて売る程度には絵心があった。
凄まじい勢いでアマテラスのイラストに、巨大な風車のようなプロペラを描き加えていくタケルのまわりに、作業していた人々が集まってきていたのだが、今のタケルには気がつかない。
全体像だけでなく、可能な限り細かい仕様を描き上げるとゴルゴンに見せた。
「こう! 捻りをいれた板を回転させる事で、風を後方に作り出すんだ!」
「……ふむやってみなけばわらんが、まぁきっと出来るんだろうが……じゃがな」
「問題があるのか?」
「どうやってこれを回転させるんじゃ? 人力か?」
「まさか! それに関してはアイディアがある!」
「ほう?」
魔導鎧装の飛行システムである、大量の蒸気を生む灼熱宝珠と、水を無限に生み出す湧水宝珠。この二つがあれば出来る。
「蒸気タービン! 蒸気タービンを作るんだよ!」
それは一足飛びに新国家アマテラスの科学技術を押し上げる提案だった事に、この時タケルは気がつかなかった。




