3 飛行機の中で
少女の名は扇エンドルフ《おうぎえんどるふ》という。今年で一〇歳になる。
少女は、産まれながらに右目がなかった。
人間は、産まれながらになんらかの才能を授かっている。
人間だけが唯一、才能を象徴するものを、その手に持って産まれてくる。
産まれながらに、本人の持つ才能が明らかにされる。
すべての学校は専門学校であり、自らの才能をより生かすために人生をささげる。
ある者はペンを持って産まれ、ある者はスパナを持って産まれた。自らの才能を生かすことを喜びとしない者はいなかった。
化粧道具を握って産まれた者は、すばらしい容姿を手に入れることが約束されたのも同然だった。
まれに凶器を持って産まれる者もいた。
ほとんどの人間は、才能を象徴する、普通の道具を握っていた。ただ自在に出し入れできるだけで、それ自体は特別な道具ではなかった。
産まれ持った道具に、特別な能力を供えて産まれた者はごく限られていた。特別な道具を持った者が産まれると、授かり物の意味で『ギフト』と呼ばれ、赤ん坊のころから特別な存在として相応しい教育が施された。
扇エンドルフが手にもって産まれたのは、水晶玉である。中に、黒い模様が描かれている。
つまり、義眼である。
少女は、自分の目にそっくりな、天然の義眼を持って産れたのだ。
産まれるとすぐ、少女はゼロ課の監視下に置かれた。能力が判明次第、すぐにゼロ課への登録が約束され、両親には莫大な契約金が支払われていた。
まだ、能力は発動していない。
少女本人には、何ができるのか、できるはずなのか、説明されていなかった。あまりにも強力な能力を、周囲の大人たちが警戒するがゆえにである。
灰色がかった黒い髪を長く伸ばし、空洞を空けた右目を隠している。お気に入りの熊のぬいぐるみをいつも抱えているが、少女に気を遣っていのか、ぬいぐるみを手放すように言われたことは無い。
将来のゼロ課入りを約束されていても、能力が覚醒しないいまはまだ、ただ変わった水晶玉の出し入れができるだけの、片目の少女に過ぎない。
両親と共に、欧州旅行を楽しんでいた。
危険の無い旅のはずだった。
飛行機に乗り、日本に帰るはずだった。
すでに五時間、空港に釘付けにされていた。
狭い飛行機内を、銃を構えた男達が行きかっている。
両親も震えている。成すすべはないのだ。
普段は頼りにしていた両親が、口を開くこともできずにいる。その事実が、少女を恐れさせた。
どうしようもなく、怖かった。
ぬいぐるみを抱きしめた。
そのほかには、何もできなかった。




