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12 乗り込んだ飛行機内で

 月形コマチは、生きた心地がしなかった。強引に引き上げられ、本来の入り口ではない場所から搭乗を余儀なくされたのだ。

 ゼロ課には憧れた。同行を許されて嬉しかった。

 だが、死にたくはなかった。

「殺すつもり?」

「そんなつもりはない。だが、死んでも構わないとは思っている」

 心身ともに消耗し、拉致され拷問を受けた可憐な美少女に、まったく労う様子もない。七号のコードネームを持つ工作員は、通信機を懐に戻しながら闇の中に身をひそめた。

「『死んでも構わない』って、本気で言っているの?」

「もちろんだ」

 飛行機に不正搭乗したときから、まず死体を目にしていた。

 死体は嫌いだ。死ぬのはもっと嫌いだ。

「絶対に死んでなんてあげないから」

「死んで欲しいと思っているわけじゃない」

「それは朗報ね」

 実に気の利いた皮肉だと、我ながら感心する。だが、七号は聞いていなかった。

いまはまだ七号としか知らない。この任務を生き残れば、名前を教える約束をしている。つまり、正式にパートナーとなって欲しいといわれたのも同然なのだ。そのように月形コマチは理解していた。

 大型航空機の底部を歩き、整備室を移動する。

ペンライトさえ灯していない。ほぼ真っ暗なのに、どうして早足で移動できるのか不思議だった。だが、それは案外簡単にわかった。七号は特殊なゴーグルで目を覆っていたのだ。赤外線で照らしているに違いないのだ。

 その答えをぶつけると、七号はあっさりと認めた。隠すつもりもなかったかのようだ。

 七号が止まる。

 コマチは止まらなかった。暗闇で、ほぼ見えていなかったのだ。七号のマントに沈むように立ち止まった。

「ちょっ……」

 驚いて声を上げかけたコマチの口に、七号の手が強引に蓋をする。コマチは目で訴えかけたが、残念なことに七号は見てもいなかった。

「この先はもう機内だ。壁の向こうにハイジャック犯がいるかもしれない。声を出すな」

 七号の手がゆっくりと離れる。コマチもうなずくことしかできない。『死んで欲しいと思っているわけじゃない』とは言ったが、邪魔になれば殺すかもしれない。

七号がコマチを殺したいと思えば、その方法は男の手の中にいつでも出現させられるのだ。それを防ぐ方法は、何も存在しないのだ。

「行くぞ」

「えっ?」

 思わず声を上げてしまった。何より、唐突だった。

 準備すらしていない。心の準備もできていない。

 七号が、壁を蹴り砕いた。

 万が一のために逃げられるよう、壁がもろくできている。そういう事実はあれども、実際に蹴破ったりすれば、物凄い物音がするのに決まっているのだ。

 視界が突然明るくなった。光が目を貫き、何も見えなかった。

 月形コマチが目を細めると、次第に光景が見えてきた。

 人がいる。

 怒号が飛ぶ。

 目の前にいたはずの、男がいない。

 ずらりと並んだ座席の、八割から人の頭が覗いている。すべて後頭部だった。

 狭い通路に立つ男達は、いずれも武装していた。

「いきなり現場じゃないですか!」

 突然視界が晴れたもう一つの理由は、壁となっていたはずの七号の体が消えたからだ。

 壁を破り、月形コマチは、大勢の乗客と数人のハイジャック犯に向き合った。

 向き合わされた。

 実際に壁をぶち破った、七号の姿はなかった。すぐ目の前にいたはずだ。どこにもいない。

「何者だ!」

 同じ内容の、複数の声が上がった。

誤魔化せない。そう思ったわけでもない。

正義感に駆られたわけでもない。武装した男達に、一人で立ち向かえると思っていたわけではない。七号の助けを期待したわけでもない。

 ただ、恐慌に至った。

「逮捕します! 神妙にしなさい!」

 月形コマチは、手の中に生み出した薙刀を構えた。


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