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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

馬鹿国と馬鹿女神達のせいで我が国どころか世界が滅びかけているのだが

作者: 柊 風水

『悪役令嬢とヒロインが一緒に逃げた訳』http://ncode.syosetu.com/n8286ct/

の続編です。


後半薄いながら残酷な描写がありますので嫌な方はお戻りください。

突然だが我が国は平和な国だ。

無論犯罪がないわけではない。大なり小なりの犯罪が起きるが、それの検挙率が高い。国民は温和で平和主義な人間達が多い。兵士達は中々の腕が立つ。何より戦争が我が曾祖父の時代から我が国が巻き込まれた事がない。

平和な国にするのは意外と難しい。

周辺諸国では諍いが度々と起こる。しかも我が国は豊かな資源があるので、その資源目当てに虎視眈々と他国に狙われる。曾祖父の前の時代は我が国はかなり疲弊し、大切な兵士や国民達が大勢死んでいった。

曾祖父はそんな現状に嘆き心痛めた。そしてある決意をした。


『けして襲われないように上の立場に立ち続けよう』


それからの曾祖父は策略や脅しなどの苦心をし、我がエジリアの平和の礎を作ったのだ。

それは祖父・父・私で曾祖父の意思を継ぎ、苦心続けたのが今のエジリア国だ。嬉しい事に私の三人の息子と四人の娘達は私達の意思を継いで我が国が優位な立場でいられるように策略したり、強豪国に政略結婚をしてくれたりした。(政略結婚については私は反対したが、娘達はその反対を押し切った。嫁ぎ先で愛を育んでいる事が救いだ)

幸いな事に諸外国は争い事が嫌いで愚王がおらず、皆で『数百年は安泰であろう』と笑いあっていた。

……一つの国を除けば。


正直名前も言いたくない位(なぜならその王族の名前がその国の名だからだ)レベルなので今後『彼の国』としか言わない事を了承して欲しい。


彼の国は愚かでどうしようもない国だった。

この世界の守護神は『魅力の女神』とその弟神であった。何故過去形かと言うと一つの国を残して全ての国がその信仰を放棄しつつある。

何故ならばあまりにも魅力の女神の横暴さに目に余るのだ。

その最たる例が『召喚』だ。


これは異世界からの人間を召喚とするなんとも恐ろしい術だ。これはこの世界が危機になった時に使う最終手段として活用していたのだ。最初の頃は・・・・・

確かに最初の頃は私達はこの術に頼った。異世界人の恩恵を享受して私達の世界は発展し続けたのだ。無論異世界人に感謝していたが、何百年も経てば堕落し、いつの間にか『感謝』がなくなり、当たり前と思うようになってしまった。いつの間にかどうでも良い事で彼らを呼び出し、我々で解決できる事を彼らに押し付けたりした。


いきなり自分の価値観が違う、自分の知らないモノしかない、しかも自分の知り合いが誰もいない世界。それがどんなに恐ろしく絶望的なのか我々は気付くべきだった。

我々がそれを理解したのは何百年前に起きた『異世界人の世界征服未遂事件』。とある悪徳の国を討伐する為にクラス丸ごと召喚し、若き彼らに全てを押しつけた。友人が次々と死に行く姿に発狂し、ついに破壊神にさせてしまったのだ。何とか討伐出来たのだが、その時の犠牲者は数万人という大惨事であった。

我々はその事件以降、己の傲慢さに大反省し、『召喚』の術を全て破棄したのだ。現に私の代でこの術を知っているのは彼の国しか知らない。


私達がどんなに説得しても彼の国はけして分かってくれなかった。分かってくれないのは彼の国だけではない、女神達もだ。私達がどんな思いで『召喚』を破棄したのかを説明しても『裏切られた』と頑なに思い続けて挙句の果てに加護を彼の国だけに与えて他の国は奪い取ってしまったのだ。

最初は私達も慌てたが直ぐにソレが落ち着いた。私達は気付いたのだ。


『アレ? 女神の加護なしでも生きていけるんじゃないか?』


良く考えれば女神の加護は大したことはない。ただ、誰かに好かれるだけ・・・・・・・・・。特別武力が強くなるわけでも、作物が育つわけでもない。……まあ誰からにも嫌われる人間には欲しいものだろうが我々には不必要なものだ。どうして私達はコレ気付かなかったのだろうか? 気づいたら何だが馬鹿らしくて信仰する気もなくなった。少しずつであったが確実に我々は信仰しなくなってしまった。コレに気付かない彼の国と女神達の姿は滑稽で、離れた場所で嘲笑いながら眺めていた。


彼の国が異世界人を召喚したのがそんな時だった。

彼の国とその周りの国で疫病が流行りだしたのだ。最初はいきなりの疫病に慌てたが、流行りだした国の共通点が衛生管理がそこまで整っていない国だった。ならば衛生管理をしっかりすれば……そう会議で決まった時に異世界人が召喚されたとの知らせが届いた。

流石に私も怒りでどうしようもなかった。確かに彼の国が一番死者が出たが、それでもまだ十人前後、それも彼の国はその周辺諸国と違って何の対策をしていない結果の死人。国によって殺されたようなもんだ!!

独身の三男に止められなければ私は一族の悲願をどぶに捨てていただろう。


彼の国が異世界人を紹介する為に実施したパーティに(嫌々)参加した。

異世界人(彼の国は『聖女』と呼んでいるが)は可愛らしい顔立ちの少女だ。三男とは四つ年下だろう。確かに聖女の様な笑顔だが、眼は笑っていなかったし、隙あれば氷の様な無表情になる事が度々見られた。心の底からこのパーティ自体楽しんでいる様な雰囲気ではなかった。それに聖女の格好は巫女服にあるまじき格好だ。露出度が高い格好など我が国の神殿にいる巫女は絶対違う。清貧清楚を謳う巫女とは思えない。あれでは踊り子か娼婦そのものではないか。

恐らくあの恰好は彼の国の人間、恐らくバカ息子が用意したものだろう。隣に立っている馬鹿は時折異世界人の格好を見て鼻の下を伸ばしている。


私が、いや、周辺国の王族が一番に怒っているのはこの馬鹿王子だ。

彼は婚約者がいる。コーデリア・イフフォード嬢は16歳にして妖艶なスタイルと美貌を持つ将来有望な少女だ。

しかし彼の国での扱いは酷い。彼女の家族でさえ茶会で彼女の悪口で華を咲かそうと勤しんでいる。残念ながらその茶会に参加した人間は彼女の家族の醜悪さにドン引いていた。その家族の秘蔵っ子であるコーデリア嬢の弟はこれまた愚かな貴族の典型的な貴族で、ちょっと能力に秀でたところがあるが、世界を向けばその程度の人間は砂の様に大量にいる。逆にコーデリア嬢は王太子妃として一国の王妃としての振る舞いや知識は素晴らしいもので、正直彼女をめぐって戦争を起きても可笑しくない逸材の方だ。

それと、これは私しか知らないのだが、彼女は魅力の女神以外の神の加護を得ている。それも上位にはいるレベルの神だ。その加護を得ている彼女を娶ればきっと繁栄は約束されるだろう。


しかし、この時コーデリア嬢は王太子の婚約者が誰の護衛も付かないで隅で立っていた。それどころか馬鹿王子が異世界人に恋人の様にベタベタ姿を無表情に見ていた姿を見たときに私は決意した。いや、彼の国以外の諸外国の王族達が一様に決意した。


この国滅ぼそうと――――


別に戦争を起こそうとしているわけではない。そんな事をすれば彼の国の国民だけではなく私の国民まで被害が及ぶ。

私達がやる事は無血革命――つまり王族達をその地位から突き落とす事にしたのだ。

一応他にも相応しい人間はいないか調べたが、残念なことに王族からも貴族からも誰もいなかった。苦肉の策として私の三男を王に差し向ける事にした。流石に自分の息子を王にするなんて侵略同然なのだが、諸外国が全員推薦されたのだがら仕方がない。三男もやる気があるし帝王学もそれなりに学んでいる。

追い出す為に何か脅迫できる物はないか裏の人間に調べてもらったが……出るわ出るわ。裏の人間の首領も「こんな馬鹿が一番のお偉いさんとは、国民は大変ですね……」と呆れ笑いが出た程の量だ。

個人の恥ずかしい秘密から国家転覆レベルなどそれはもう大量だった。調べて分かった事だが、彼の国は侵略を検討していたのだ。これには私含め他国も驚いた。正直彼の国は軍事力は最弱で国の警備だけでやっとな程だ。そんな実力なのになぜこんな大それた事を考えたのだ? 女神の加護でも無理だぞ。


「僭越ながら」

一言そう断って裏世界の首領が言う。

「恐らく彼の国は異世界人の力を頼ろうかと考えていると思います。異世界人は何かしらの特殊能力が備わっているようですから。しかし、私の眼から見ても異世界人は特に大した力を持っているようには思えないのです。それに彼の国の過剰な愛玩行為に精神的にも疲労が伴っています。このままではコーデリア・イフフォード様が処刑される前に異世界人、本条緋衣音が自殺します」

異世界人の命の危機と知っては直ぐに対策に走った。十分に奴らを潰す材料が手に入り、馬鹿王子のコーデリア嬢の婚約破棄という断罪に逆に断罪をし、異世界人とコーデリア嬢の保護に成功したのだ。

そこからコーデリア嬢をウチの息子の嫁にしたり、異世界人を信用できる部下に嫁入りするなどの色々な準備を整っている所だった。


本物の『神』が降臨したのは。



二人を安全な場所に保護をして、馬鹿王子と取り巻き達を牢屋に入れて王夫婦アンポンタンをどう料理してやろうか考えながら大広間に入った時だった。


その場にいた王族全員が、一人の男相手に傅いていた。何百人もの人間が傅いている姿は圧巻だ。


私は信じられなかった。ここにいる者は王族としてのプライドが高く、その名に恥じがない様なふるまいをしていた人間ばかりだ。その者達がこんな簡単に頭を下げるなんて一体何が!?

私は急いで傅かれている相手を見た。

そこには全身真っ黒の長身の男がそこにはいた。

唖然としている私とその男の眼が合った。

……これはダメだ。

この男は本物の『神だ』。私は直感でそう思った。


男の血の様に赤い眼を見た瞬間、絶対服従を誓いたくなったのだ。

男は人差し指で私を無言で呼んだ。すると人垣が綺麗に分けて道が出来たのだ。誰も頭を上げていないのに無言のままで行動を起こさせるとは……恐るべし。


私は急いで神の元に向かった。そして神の元に着いたら自然に神の前で傅いた。息子も最前列で傅いている。

「……初めまして。私はエジリア国の王、エスーシャでございます」

「ほう。貴様がこの喜劇の作者か。私はラキ。美伊の……ここではコーデリア・イフフォードの前世からの夫だ」

見た目は威厳のある整った顔の美青年だが、声はしゃがれた老人の様な声だ。何ともミスマッチだが、だが、そんな事は今は関係ない。

今、彼は何と言った?


「おっ……と、夫、ですか?」

「正確にはラキの旦那が小さい頃の美伊さんに惚れて、無理やりに婚約者にさせたのが真相だけどね。まあ、ウチのひぃの方が一番かわいいけどね」

「黙れ。自分の恋人を監禁したりするようなヤンデレ男にだけは言われたくはない。後、一番可愛いのはウチの美伊だ」

「ヤンデレとちーがーいーまーすー。僕は一途なだーけーでーすー。それに監禁じゃなくて同居。結婚するから当たり前じゃん。……外にはめったに出さないけどね」

神の後ろから一人の少年が出てきた。

少年は茶髪で今時の若者の言葉が良く似合う姿だ。チャラチャラした格好で、初めて会った人間に『軽い性格だ』と百人中百人が思う様なファッション。現に、神の前でも軽口を叩いている。(何と命知らずな!)少し童顔だが整った顔立ちで大人になればきっと精悍な男になるだろうと思う。

しかし、私が何より目を引いたのは少年の瞳だ。少年の瞳はオッドアイ、しかも右目が赤、左目が緑。

私はこの色を良く知っている。




『特に望むものはありません。ただ、私が望むのはここに召喚された時に着けていたアクセサリーさえ返してくれればそれだけで十分です』

私が異世界人、本条緋衣音に何か欲しいものがあるか聞いたところ上の様な返答をした。直ぐに私は彼の国の専属の科学者達から彼女が身に着けていた服、靴、アクセサリーを取り返した。一度だけだが、私は彼女のアクセサリー、『ピアス』を着けているのを見た。

この世界では身体のどこかを傷つける事はしない。例外としては手術などの生命の危機になる事だけだが、その他の意図的に身体を傷つける行為はこの世界では禁忌だ。無論オシャレ目的で耳たぶに穴を開けるのは以ての外。しかし、本条緋衣音の世界では耳に穴を開ける事は許されているらしい。幾つもあるピアスを着けていく姿に驚きはした。ファッションの為にわざわざ耳に穴を開けるとは異世界は摩訶不思議である。

その時に印象的だったのは大きなルビーと翡翠の(しかも本物!)ピアス。それも右耳にルビー左耳に翡翠のピアス。私の予想が正しければ……


「自己紹介はまだだったね。僕の名前は奄美流あまみながれ。愛称はリュウ。ここのお馬鹿さん達に誘拐された本条緋衣音の結婚前提のお付き合いをしているものだよ」

流、リュウと名乗る少年は四六時中笑顔のままなのだが、眼は全然笑っていなかった。


……本当に何て奴を敵に回したんだ!!


私は心の中で心底彼の国達を呪った。


「私はずーと待っていたんだよ。あの子が寿命で死ぬまで待って待って愛でて愛でて。なのにほんの少し目を離したすきにコソ泥に奪われるとはね。しかもくだらん理由で我が妻を不幸にするなど腸が煮えくりかえる」

「それなら僕も同じだよー。僕のひぃが眼の前で消えた挙句、選ばれた理由が頭が軽そうで簡単に乗り移られるからなんて、ホント馬鹿にするのもいい加減にしろって話だよね」

「乗り移る……?」

「この馬鹿女はね、それっぽい頭の軽そうな、自分の言う事を聞きそうな女を見つけて、逆ハーを作ったら身体の魂を消して自分がその身体の持ち主になってチヤホヤされる予定だったみたい。まあ! 僕命のひぃがこんな顔だけの人間に靡くわけないし。……随分ひぃの事を馬鹿にしてくれたね」

「なっ!!」

これには私以外の王族貴族も驚かざるを得なかった。そんな身勝手な理由で二人の少女の人生をめちゃくちゃにしようとしたのか!? 女神ともあろう方が!!??

ん? 馬鹿女・・・


私は二人の足元をふと見降ろした。そこには大きなボロ雑巾が二枚あった。

……いや、ボロ雑巾ではない。これは人だ・・・・・良く見れば・・・・・魅力の女神・・・・・とその・・・弟神ではないか・・・・・・・

女神はうつ伏せになってそのお顔を見る事が出来ないが、弟神は身体の到る所が傷が大小あった。美しいその顔は呆然とうわ言の様に「姉上……姉上……」呟いている。弟神は姉神の事を何よりも愛している。だからその姉の言う事ならどんなに他人が迷惑を掛ける願いでも、ホイホイと叶え続けてる為我々としては迷惑しかたがない。


閑話休題。

それにしても弟神の様子が可笑しい。一体何が……そう言えば魅力の女神はうつ伏せに倒れたまま動かない。しかも良く見れば顔の当たり・・・・・血だまり・・・・が出来ている・・・・・・ではないか・・・・・


「しかしアレは興奮したね~。まさかリアル『もみじおろし』を間近に見られるなんて思いはしなかったよ!」

「ふん。この屑があまりにもキャンキャンと喚くからな。美伊の兄の漫画本を参考にした。いやはや骨が折れたよ。まあ、自然回復が出来る我等神でしか出来ない荒技だけどね」

『もみじおろし』? 確か大根と唐辛子を一緒におとしたモノ、又は大根おろしとにんじんおろしを一緒に混ぜたモノ……どうして食べ物の話をしているんだ?


………………!!!!


そこで私は気がついた。


この大広間・・・・・の壁に赤い線が・・・・・・・一本引いている・・・・・・・のを・・それは良く見れば・・・・・・・・血だと言う事を・・・・・・・そして壁や床には・・・・・・・・小さいながらナニカが・・・・・・・・・ある事を・・・・。あれはまさか女神の……。


考えるのを止めた。これ以上考えたらSAN値がゼロになってしまう。……そう言えば王族貴族達が妙に怯えてる様な気がしたが、眼の前でやったのだな。


「神よ。我々の都合により貴方様の愛しい人を苦しめた事は認めますし、罰を受ける覚悟があります。ですかどうか我ら国民達には慈悲を……」

息子は地に頭が着けるぐらい頭を下げた。息子は誰よりも国民を大切にしている。それは他の王族貴族も同じだ。

だが、神は冷酷で非情だ。

「どうして私が貴様等の願いを叶えなければならんのだ。正直私はこの世界を滅ぼしても構わんのだぞ?」

「あっ、それ僕も同意見。連帯責任で死ねば良いと思うの」

神とリュウはそれはもう魔王の様な極悪人な笑顔をお互いに向けた。

ああ――もう駄目だ。その時だった。


「ダメですよ――!!」

天井から声がした。上を向くとそこには天使がいた。

天使は黒い髪に黒い瞳。可愛らしい顔立ちながらどこか大人の雰囲気を漂わせる何とも不思議な少女だ。背中には12枚の翼が生えている。その天使は腰に手をつけ頬を膨らませる姿はまるで幼子の様だ。

「お二人方、私の約束忘れたのですか!? 魅力の神と弟神をコテンパンにしては良いけど、この世界の人間達は手を出してはいけないと約束しましたよね!!??」

「約束は破るものだよアーシアさん」

「コラ――ー!! そんなわけないでしょう!」

リュウのとんでも発言に怒る天使。

地上に降りた天使はまだ幼い少女の様な背丈だ。リュウの首から下までしか背がない。


「皆様初めまして。私は『異世界召喚を司る神』アーシアです」

「異世界召喚を司る神?」

そんなの初めて聞くぞ。そんな心の声を知ってか知らずか、天使、アーシア様は説明してくれた。

「最近異世界に召喚される人間達があまりにも多いので、管理する為に私が誕生しました。主な仕事は異世界召喚された人間達の安全と、召喚先でお馬鹿な事をやらかさない様に監視をしたり、無理やり召喚した挙句召喚された人間を非道な目に合した人をちょっと仕置きしたり」

「仕置き?……」

まさか私達までその仕置きに入るのだろうか?

「因みに対象者は神だけです。人間は私達の手で傷つける事は出来ませんので。まあ、この人達許可もなく勝手に召喚するから被害者の住んでいた神達はカンカン。特に一クラス分召喚された神は『楽に殺してやるか!』とキレてますし。ちゃんと申請して召喚する人間がいる神の許可がなければ、色々大変なのですよ? なのに無許可で召喚するバカが多いから私が誕生する羽目になるし」

ため息を一つ吐くとアーシア様は指を一つ鳴らすと魅力の女神と弟神がどこかに消えてしまった。


「それじゃあ、私の仕事は終わりですのでお二人方も早く自分のお嫁さんを連れて帰りますよ」

「ああ。それは当分無理だ」

「何を言って……」

「美伊とナガレのツレの女が国外逃亡したがらだ」

「「「はあ!!??」」」

神の突然の言葉に全員が驚く。何を言っているんだ。二人がいる部屋は北の塔と南の塔で離していたし、厳重に警備と鍵をしていたはずだ。そう簡単に逃げは……。

「大変です! 聖女様とコーデリア様が行方不明に!!」

衛兵の慌てた声が大広間に響いた。



「ん~どうする? このまま向かいに行く?」

リュウは神に伺っている。しかし神は慌てた様子はない。

「いや……このまま遊んであげよう。此処に来てからまったく自由がなかったからね二人共」

「あー。ひぃもカス共に弄ばれて自由になる時間がなかったからなー。てか、僕ですら着替える所を盗み見した事はないのにね」

馬鹿王子は異世界人の着替えを覗いたのか!? ここまで腐っていたのか!!

「でもまあ、あまりにおいたを過ぎた時は連れ戻すけどね」

「その案賛成。それじゃあ此処にはいる必要がないから帰ろう」

興味が失せたのか神とリュウは帰って行く。しかし神は少し足を止めた。


「ところでアーシア」

「何です?」

「お前は人間達に危害を加えてはならないと言ったよね」

「そうですけど」

「ならば危害を・・・加えない程度・・・・・・の呪い掛けるのはOKかい?」

振り返った神の顔は口元に笑みを浮かべていた。

何を言っても変わらないだろうと諦めたアーシア様は大きな溜息を吐いた。

「この世界の生き物が死なない程度です。期限は最高で5年。それ以外は絶対に認めませんからね!」

「それと、ひぃ達をイジメた国の人間はさあ。期限なしでも良いんでしょ?」

神の肩からリュウが出てきた。神は平然として自分の肩に乗っかるリュウをはたき落した。これも難色するかと思えばアーシア様は少し悩んでいるようだ。

「ん~正直ここ以外の国は改心しているから良いけど……本当に傷つけるのはダメですからね?」

「ダイジョーブ。傷つけはしないよ。ただね、この人達自分の国が大好きそうだからね……」

「ならば美伊達を苦しめた人間限定ならばどうだろうか? お前のツレは国民に対しては好感度が高かった様だからね」

「それならお宅の嫁さんもでしょ? なら、それで良いよ」

何やら大変な事を話しているようだが、神は今度は私の顔をチラリと見た。

「ところでお前さんは美伊を息子の嫁にするつもりだったな」

バレた!!

「別に怒ってはいないよ。逆にお前さんには好意を抱いているよ。君だけが私の加護を気付いたのだから。そしてその加護を利用とするその野心も私は好きだよ……ちょいっと意地悪したい位に」

ニッコリと笑った神だが、その目はけして笑ってはいなかった。そう言い残すと神とリュウは姿を消えた。

「大丈夫ですよ! あの人の事だからきっと地味な嫌がらせだけですから、きっと命の危機はありませんよ!!」

アーシア様が何とも安心できない言葉を残してまるで泡の様に消え去ってしまった。

これから起きる災難を思うと胃に痛みが走った。


「父上しっかり……」

息子の心配する声がする。その声に「大丈夫だ」と答えて立ちあがった。

「皆の衆。これから試練の日々が始まる。命の危機はないだろうが、念のためこの試練の対策の為に一度会議を開こうではないか」

私の呼びかけに戸惑いながらも他の王も応じた。

「そうだな」

「これからの事を考えなければ」

「農作物の被害か魔物の被害か。命の危機はしないと言うから後者はないと思うが……」

「いやいや。何があるか分からんからな。準備はしないと」

相談しながら王族達は大広間に出て行った。

私が最後に出た時、後ろを振り返った。


彼の国の王夫婦は顔を青ざめ唇を震わせていた。彼の国の貴族達は呆然としたり青ざめたり震えていたり泣いたりしていた。喚かない貴族がいない事が幸いだろう。

それが私が最後に見た彼の国の人間達の姿だった。














後の歴史書物には共通してこう書かれてある。


『5年間魔物が大量に出現したり、作物が育ちにくくなったり、天候が不安定な日々を送った。しかし、その暗黒の日々の中で死人が0という驚愕の記録がある。5年を過ぎた途端ピタリと天候被害も魔物の出現も作物の被害も止まった。

これを『試練の5年間』と呼ばれている。


そして神と従者の怒りを買った彼の国はというと――

国民達のほとんどと一部の貴族が脱出する事が出来たが、王族貴族達がどういう訳が自分の国から出る事が出来なかった。

食糧や水の確保は出来た為命の保証が出来たが、彼等は生涯誰として国から出る事は叶わなかった。そしてそれは外の国の人間も同じであった。

その時の彼の国に残された人間の様子については『傍観者の日記』で知っているだろう。


そして彼の国はその名と一緒に闇に放り込まれてしまった』





そしてエジリア国について詳しく書かれた歴史書にはこう書かれてある


『エスーシャ王は度々神による地味な試練イヤガラセを受け続けた。

最初は徐々に髪の量が少なくなったり、四十肩になったり、腰痛になったりと身体の不調に悩まされた。

しかも神と従者の妻達を彼の三男と信頼する部下の八男に嫁がせようとしたが、何とこの三男と八男が恋人同士になったのだ。

これも神のイヤガラセなのかはたまた息子達の意思なのか。これは分からず終いなのだが、二人が幸せならと王は二人を祝福した。(これはエジリア国が次男次女以降ならば同性愛が許されているからだ)


エスーシャ王は転んだり、急な雨に降られたりと何かと地味な不運に泣かされはしたが、王としては歴代の賢王達と肩を並べて良い位の善政であった。

そして子供孫曾孫達に見守られながら100歳というこの時代の平均寿命はるかに上回る年でその生涯を閉じた』

「あ、ラキと緋衣音の彼氏さんが今来た」

「今なの? 随分と遅かったわね」

「女神達をお仕置きをして遅かったみたい。当分の間見逃してくれるみたいよ」

「ふ~ん。もうちょっとだけ遊んでいられるね。飽きたらどうする?」

「う~ん。そこらの馬鹿そうな男達を誑かして来させる?」

「それじゃあ、馬鹿そうな男達が可哀想だよ。どうせリュウ君達が我慢できなくなるからそれまで待とう」

「どれくらい待てるか賭ける? 私は1年」

「乗った。私は半年」

そんな話をオープンカフェで話している女の子達がいたという。

因みに二人の予想とは大外れに旦那さん達は2年も我慢できたそうだ。


~蛇足~

・魅力の女神の信仰はなくなったが、新しく『異世界召喚を司る女神』が信仰するようになった

・そしてそれと同じ位に荒神としてラキとリュウが畏れ尊ばれる様になった

・又、ラキ達は恋愛の神として美伊と緋衣音と一緒に信仰されている

・↑はラキもリュウも予想外だった


続編としては『傍観者の日記』の作者が主人公です

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの三男と八男www じゅ、純愛ですねww
[一言] 地味なイヤガラセが多すぎて、エスーシャ王は小さなミスも神様のせいにして憂さばらしをしていそうだ。 それぐらいはやれそうな根性がありそうだしw
[一言] >・魅力の女神の信仰はなくなったが、新しく『異世界を召喚を司る女神』が信仰するようになった ・魅力の女神の信仰はなくなったが、新しく『異世界召喚を司る女神』が信仰するようになった 異世界を…
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