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あらすじ必読な突発短編

黒崎 幸希の勘違い

作者:

ガチで3時間クォリティ…。

期待せず、ゆるーく読んでください。


「黒崎 こうき(・・・)さん、ずっと好きでした! 付き合ってください!」


 ブレザータイプの制服を着た少女が、顔を真っ赤にしながら目の前のイケメンを見据える。

 ストレートの茶髪の中々に可愛らしい少女だ。数メートル後ろには、友人であろう三人の同じ制服を着た少女達がいる。

 近場の高校の制服であると誰もが察した。

 ちなみに、少女がイケメンを呼び止めた時点で、事態を察した周囲の人々は立ち止まり、やじ馬よろしく興味津々の面持ちでイケメンの動向を見守っていた。


 黒崎 こうきと呼ばれたイケメンは、不愉快気に眉を寄せて小さく息をついて一言。


「眼科行って視力矯正してから来い」


 苛立ちに揺れてさえいる言葉を認識できなかったのか、少女と友人達は見事に彫像と化した。

 その横を、イケメンは早足で通り抜けていく。

 あきらかに、苛立ちが伺える乱暴な足取りに、やじ馬と化していた人々はしょうがないなぁと言いたげな視線を送り、固まっている少女には憐れみの視線を向けた。


 偏差値がべらぼうに高い文武両道で有名な城聖(じょうせい)大学の正門前での出来事である。



※※※



 おしゃれなカフェのテラス席で、美女が笑いをこらえるようにうつむいて肩を震わせている。


「…遠慮せず、盛大に笑うが良い」


「ご、ごめん…」


 苦々しさを隠そうともしない唸り声の主に、形ばかりの謝罪を呟き、目じりにたまった涙をぬぐう美女はアイスティーをすすった。


 淡い栗色の巻き毛と同色の垂れ目、とどめに左目の下の泣きぼくろ。

 色気漂う美女は、長い足を組み替えて目の前のイケメンを見つめる。


「言うわねぇ、黒崎 こうき(・・・)くん?」


「お前までからかうのかよ、(あかり)


「ふふ、でも、なんでそんなに怒ってるの? 別に珍しい事じゃないでしょ? 名前を間違えられることなんて」


 そこじゃない、と小声で突っ込みつつ、数日前に大学正門前で女子高生を盛大に振った黒崎なるイケメンは、盛大にため息をついた。


「桂野宮の3年だったんだよ」


「…出身校で、在籍年が被ってるのに、か。そりゃ怒るわ」


 美女・灯が言うとおり、黒崎の名前は、こうき、とは読まない。

 間違われることは多いので、黒崎自身はそこをどうとも思っていない。自己紹介で、わざわざ繰り返し念押しするぐらいには慣れている。

 言った通り、怒っているのは、母校の生徒にも関わらず、黒崎の事を把握していなかったことだ。


 現在、黒崎は大学2年生。ちなみに、灯も同い年。

 告白して来た少女は3年生なのだから、1年は同じ高校に通っていたことになる。


 自意識過剰とかではなく、黒崎は目立つ。

 178㎝という男性平均身長を超える長身な上、ずっと陸上をして来た為にしなやかな筋肉がついた均整の取れた体つき、加えて、綺麗目に整った中性的な容姿をしている。

 服の上からではほっそりと華奢に見えるが、満員電車で遭遇した痴漢の腕をひねりあげて扉が開いた瞬間に片手で投げ飛ばすくらいは簡単にしてのける程度には、強い。

 ちなみに、告白して来た少女は、痴漢にあっていたのを黒崎に助けられたことをきっかけに恋をしたようだが、黒崎は頻繁にありすぎてそんな事覚えていなかった。

 …性格としては、男前でフェミニストである。だが、悪乗りと努力を怠らない、教師側に取ったら小憎たらしくも可愛い生徒だった。

 ファンも多く、下級生からの差し入れなんて日常茶飯事で、一種のアイドルと化していた。


 なのに、少女は黒崎の事を知らなかった。

 全員が全員知っているとはさすがに黒崎は思っていないが、陸上で全国に行き、全校集会で理事長(私立だった)から表彰もされたのに、知らないとはさすがに思わない。

 化粧をばっちり決めて、髪も綺麗に手入れをしている、今時の女子高生が、だ。


 だから、灯も深く納得する。


「お待たせ。て、どうした? えらく不機嫌だな」


「光一」


 苦笑いを浮かべていた灯は、ぱぁと輝くような笑みを浮かべる。

 やって来たのは、灯の恋人である光一だ。

 黒崎以上に長身で体格のいい光一と灯が並ぶと美女と野獣状態だが、高校時代から周りが恥ずかしくなるほどのバカップルであることを、黒崎を含めた友人及び同窓生達は嫌というほど知っている。


 うざい、という気持ちを隠さない視線を向けるものの、気付かないのか気付いていてスルーしているのか、光一は空いている席に座って灯とこれからのデートプランを話し始める。

 自然、黒崎は置いてけぼりだ。

 ちなみに、場所はテラス席なので、道に面している。


 そして、それが仇となった。


「黒崎 こうき(・・・)っ!」


 甲高い耳障りな声で名前(盛大に間違っている)を呼ばれ、黒崎は当たり前のように無視してバカップルに突っ込みを入れ始める。

 明日も授業とバイトがある身で、隣県の温泉地は候補として可笑しい。


「恋人がいるならそういえばいいじゃない! あんな公衆の面前であんな言葉でフルなんて最低!」


 怒鳴っているの先日の少女の友人の一人らしいが、黒崎は関知しない。

 カフェの客が無粋な乱入者に不愉快な視線を向けているが、少女の友人は気付かない。

 彼女の後ろには、あの日一緒にいた残り二人の友人に左右を支えられるようにして立っている告白して来た少女がいる。

 だが、黒崎は一瞥もむけない。


 というか、光一が来る前ならともかく、現時点で灯を黒崎の恋人と思うのは厳しい。

 光一の腕にべったりと張り付いている灯を見て、どうしてそう思うのか、彼女も眼科に行った方が良いかもしれない。


 ちなみに、公衆の面前を選んだのは少女であって、黒崎ではないのでその責任を負わされるいわれは微塵もない。


「ちょっと、聞いてんの?!」


 何事かを喚いていた彼女は、黒崎達三人以外からの注目には気付かないが黒崎が全く聞いていない事には気付いたらしく、テーブルを叩いて強引に視界に割り込む。


 瞬間、汚いものを見た、と言わんばかりに黒崎と灯が引き、光一が残念なものを見るように瞳を細めていたが彼女はやはり気付かない。


「至近距離であんだけわめかれりゃ、聞きたくなくても聞こえるっての。で、何か用?」


「加奈に謝りなさいよ!」


「理由が無いのでお断りします」


 食い気味に返答した黒崎は、虚を突かれて固まった彼女を放置して、テーブルに置いていたスマフォがチカリと青い光を発したのに気付いてさっと指を滑らせる。

 どことなくやる気というか元気に欠けていた黒崎の表情が明るくなり、ささっと操作をする。

 それに我に返ったらしい彼女は、そのスマフォを取り上げる。


「こっちが話してるってのに、何やってんのよ! イケメンだからって何でも許されると思ってるの?! 告白してきた女の子に対して眼科行け、何て非常識にもほどがあるってわからないの?!」


 灯と光一は、憐れみを込めて黒崎を見やる。

 さっきまでの明るい表情は一瞬で消え去っていた。

 ちなみに、周囲の客や店員は、彼女の発言に対して頭上に疑問符をいくつも浮かべている。


「…返してくんない?」


 取り上げられたスマフォを差して言えば、彼女はますます怒りを募らせて喚き散らす。

 言っている事は、さっきと同じ事。

 語彙に全く変化がない所を見ると、国語の成績はさほど良くないのだろう。

 まだ春とはいえ、3年生なのだから受験に備えてもっと勉強すべきだ、と団参者の余裕で光一が思っていたが、当然、誰も気付かない。

 というか、人の物を問答無用で奪っている彼女の方が、現時点では非常識だ。


「目が悪いみたいだから眼科に行けって言っただけ。あんたも眼が悪いみたいだけど。それを責められるいわれはない」


 きっぱり言い切った黒崎に、告白した少女がわっと泣き出した。しかし、周囲の客と店員が納得したように頷いている。それらにやはり気付かない彼女は、怒りのあまりに言葉が出なかったのか、手を振り上げる。


 その手を、新たな人物の手がつかみ、さらに逆の手で黒崎のスマフォを取り返す。


「…何の騒ぎですか?」


 腰に来る美声、とはこのことを言うのだろう。

 泣いていたはずの少女と少女を慰めていた二人の友人、怒りの形相で振り返った手を振り上げた彼女は声の主を見上げて頬を染めた。

 その様子に、不機嫌そうに眉を寄せた黒崎は、自分に非はないことを不承不承に告げる。


「そっちの桂野宮の3年の子が、告白して来た。だから、眼科行ってこい、って言って放置した結果が今」


 中々に酷い説明だが、おおむねあっている。

 大雑把すぎるそれは、黒崎が悪いようにしか聞こえない。だが、この場では、少女達以外に黒崎を非難する者はいない。言い方に注意したい者はいるかもしれないが。


 なるほど、と頷いたのは黒髪に黒縁眼鏡をかけた知的な美青年。

 光一よりやや高い長身と細マッチョな体格、とてつもない美声の持ち主は、老若男女が振り返る美貌だ。黒崎以上のイケメンで、灯でようやく隣に立って霞まない程。女なら、それこそ傾国級だっただろう。


 美青年は無感情な一瞥を手を握っている彼女に向けて、解放すると吐き捨てる。


「もう18歳なのに、非常識な行動は控えた方がいいんじゃない? 恥知らず」


 その言葉に固まった彼女達を気に留めない黒崎達は、待ち人が来たため移動しようと動き出す。


「なっ…!」


 声を上げようとした彼女は、ふいに視界に入った物に愕然と固まった。

 彼女の背後にいる少女達も同様。特に、黒崎に告白した少女は思考が真っ白になったようにぽかん、とした後、徐々に顔を真っ赤にしていった。

 羞恥ゆえだろう。


 何故なら。


「スカート……」


 言ったのは、彼女達の誰だっただろう。


 そう、彼女達の視線の先には、膝上10㎝ほどの丈のシンプルなスカート。

 視線を上にあげれば、腰巻にしたカーディガンと赤いチェックのゆったりしたブラウスを着て、あきれ果てた表情の黒崎がいる。


 ここにきて、ようやく彼女達は理解する。

 先日の黒崎の言葉を。


 女が女を男と勘違いして告白して来たのだから、ある意味当然の発言だったのだ。







 基本、部活に所属している黒崎は部活の名前と大学名が印字され、自身の苗字が刺繍されたジャージを着用している。まれに、私服であってもパンツスタイルにユニセックスなデザインの上着だったりしたので、容姿と相まって性別を曖昧にさせていた。

 大学から知り合ったりした知人は、最初は間違えてしまう程度にはわかりにくい。

 もちろん、意図的に騙そうとしたのではない。

 部活の推薦で入った黒崎が、部活を生活の中心に考えて効率的な格好をしているのを咎める権利は誰にもないし、休養日に好きな服を着ていた事を責められるいわれもない。

 男物を好んで着る女子とて世の中にはいるのだから、何も問題はない。

 たとえ、胸元の膨らみがささやかすぎたとしても。まな板、とか呟いた同期の男子に回し蹴りを食らわせたほどだったとしても。

 それは、黒崎の所為ではない。


 髪が短いとはいってもショートよりは長く、伸ばし始めたばかりと言ったような長さだ。

 女子の髪が長いもの、と誰が決めたというのは、間違われるたびにややこしいと責められる黒崎の言い分だ。紛う事なき正論である。


 言葉遣いが男っぽいのは反論のしようもないが、一人称は『私』であるし、荒っぽい口調の女がいないなんて決して言えないし、手のかかる妹と弟の面倒を見ているうちに自然とそうなってしまったのだから、もうしょうがない。

 怒る時は、男言葉の方が迫力があって効果があるのだ。


 女子としては若干低めの声だが、完全に男声の女子だっているし、綺麗なソプラノの声を持つ成人男子とている。というか、自分自身でどうしようもない事で文句をつけるな、というのが黒崎の言い分だ。紛う事なき正論である。


 体格については、黒崎が陸上に夢中になって鍛え上げた結果ではあるが、運動部のレギュラーやエース級なんて並の男子よりしっかり筋肉がついていたりするものだ。力で勝っても何もおかしくない。

 人が好きな物に一生懸命になった結果に文句をつけるな、というのが黒崎の言い分である。紛う事なき以下略。


 以上のように、誤解されやすい黒崎ではあるが、今の様にスカートをはいて鍛えられたしなやかな脚線美(生足)をさらせば、中性的な美女にしか見えない。


 黒崎と灯の二人で座っていた時、道を行きかう男達がちらちらと視線を飛ばすくらいには、目を引くカッコいい系の美女なのだ。

 他の客達も店員もカッコいい美女と妖艶美女の組み合わせだぁ、と眼福眼福とうっとりしていたのだ。


 さらに、少女達はたとえ面識がなくとも黒崎が女であることに気付いてしかるべきだった。

 先に説明したとおり、黒崎は全校集会で表彰されたりしている。もちろん、制服姿で。

 当時も邪魔だからという理由で髪を短くしていたが、ちゃんと女子用制服を着用していた。スカートの下にジャージをはいたりもしなかった。


 ついでに言うならば、黒崎の方は告白して来た少女に限って言えば覚えがあった。

 痴漢云々は覚えていないが、それも当然。

 少女は、陸上部の後輩だったのだから。

 逆に聞こう。同校同部の先輩に何故気付かないのか、と。


 とどめに、桂野宮の正式名称は、『私立桂野宮女子高等学校』である。







 黒崎は自分を男と勘違いした少女達に対して、眼科に行け、と言った理由をこと細かく言い募る。

 羞恥で赤くなった少女は震え、その友人達、とりわけ耳障りな怒鳴り声を終始あげていた彼女は、羞恥だけではなく震えている。

 公衆の面前で酷い言葉でふった、と糾弾したが、自分は勝手な勘違い、しかも、してはならない勘違いをして公衆の面前で糾弾したのだから。


「…まぁ、たとえ、あんたが同性愛者だったとしても」


 区切られた言葉に思わず顔を上げた少女は、何かを言おうとするが黒崎の冷ややかな眼差しに萎縮して口を閉ざす。


「私には、月原 景っていう彼氏がいるから、絶対的にお断りだけどな」


 言いながら美青年・景の手を握り、柔らかな笑みを向ける。

 景も優しげに微笑んで、手を握り返す。


 何も言えない(もしくは言わせない)少女達を放置して、会計を済ませると黒崎達は何事もなかったように去っていった。

 会計の際、騒がせたことを詫びるのは忘れない。大人として当然の礼儀である。


 静けさを取り戻し、事態を飲み込んだ客の誰かが、失笑を漏らした。

 それをきっかけに、潜めた笑いが店中に広がった。


 誰に向けられた笑いなのか、我に返った少女達は逃げるようにして走り去っていった。


 通行人も聞き耳を立てて野次馬をしたりしていたので、瞬く間にこの話は広まり、少女達は学校で教師に呼び出され、指導を受けることになるのは二日後の話である。



※※※



「元々、トラブルの元として知られてはいたんだよ。あの四人組」


「そうなの?」


「あぁ。告白してきた子、三浦 加奈ってんだけど、あの子、まぁまぁ可愛いからモテてさ。しかも、なんかあざとい? というか…」


「人の彼氏を取ったりとか、二股とか…?」


「…そういうこと」


「そんなに可愛いか? 灯の方が…」


「光一、灯と比べたら世の女の八割はブスになる。基準を間違えてる」


「? そうか?」


「…この面食いが」


「というか、そんなので良く運動部なんてやってられましたね」


「大会で知り合う陸上男子が目当てだったんだよ」


「理解しました。でも、その割には、僕、知りませんけど」


「当たり前だろ。分かりやすかったから、雑用係としても連れていかなかったんだから。まぁ、それで正解だったな。絶対、景にまとわりついてただろうし」


「僕にとっては幸希(ゆき)さんが世界で一番可愛い女性なので、まとわりつかれても叩き潰して終わりでしょうけど」


「…恥ずかしいこと言うな、バカ」


「「はいはい、バカップル」」


「お前らが言うな」

「貴方達が言わないでください」












「そういえば、残りの三人は?」


「三浦 加奈を餌にして釣った男共の内、あぶれた奴を狙うハイエナ」




(((……うわ、最悪)))




正式タイトル:黒崎 幸希の(よくある)勘違い(被害)


※ 高校が一緒だったのは光一と景のみ。

※ 大学が一緒なのは幸希と景のみ。

※ 景は一歳下、大会で幸希を知り、合同合宿で言葉を交わし、その後、じわじわと追い詰めるようにしてアタックを続けて幸希が高校を卒業する頃に手に入れた(灯曰く、蛇みたいな男)。

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