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Part7 偵察兵とロードキル

結構長く描写について考えまくりました。

やっぱり、書こうと思います。


今日はFPSでもお馴染みのあのテクニックです。ただの力押しですけど。

「へえ……快適なんだね、この『ユソウシャ』って乗り物は」


 夕暮れ、部隊の一行はリゼを同乗させた状態で山道を下っていた。

 さっきまでいた森が実は意外と高地にあるらしく、街の高さより結構高い位置に存在するらしい。







 実際かなりのスピードで駆け下りているが、道が思った以上に小綺麗に整備され均されているのと、単純に輸送車の性能だろう。未舗装路を走ることを前提に作られた輸送車は、通常のタイヤではなく無限軌道、つまり履帯が装着されていた。当然、軍用なのでこの状態でも安定して走れている。



「そろそろ中に入ってくれないか、危なっかしくてしょうがない」


 一言注意はしておくが、私自身そこまで本気で言っている訳ではない。後半はいくらか本気だろうが。


「もうちょっとだけ~!」


 中に向かってそう言い返し、また周りの風景を見る。いつもの数倍の速度で流れていっているその景色を、珍しそうに見ていた。

 そんなリゼに、同じく顔を出していた男が声をかけてきた。



「そんなに珍しいですか?」



 その男――ナガラは、黒目黒髪の純日本人だ。誰にでも低姿勢に接するのはお国柄、というものだろう。



 実は先程、リゼが隊員全員に「敬語は使わなくて良いよ!」と言ってある。ゆえにほぼ全員がフレンドリーに話してくれるが、ナガラはその『ほぼ』に入らない数少ない例外だ。あと2、3人ほど敬語の人がいる。



「珍しいよ、こんなに速く景色が流れるなんて!」

「なるほど……こっちの世界では馬が最速でしょうから」



 そう、リスレニアで最も速い乗り物と聞かれれば誰もが口を揃えて馬と言うくらい、日常生活に馬が浸透している。もちろん馬以外にもいくつか交通手段は存在するが、どれもコストや速度の面で馬に負けているのだろう。そうでなければ、馬が移動手段として普及したりはしない。

 というのはナガラの考えである。偵察兵である彼は、常日頃から歴史の勉学に勤しみ、その博識を有効活用して周囲の状況を判断して隊長に伝える。この世界に来てすぐに偵察に飛ばされた時も、自分の知っていることと現実を照らし合わせて絶妙な報告をしていた。




 ――ジェームスに適当にまとめられていたが。




「そうなんだよね……これいいなぁ」



 自分が乗っている輸送車を物欲しそうに撫でている少女。中々に不思議な光景だったが、彼女がかなり本気で欲しがっているのを感じ取り、同時にその目に意思の強さを見つけ、ナガラは思わず見とれてしまいそうになる。

 自覚しているからなおたちが悪い。慌てて視線を直進方向へとずらしていた。



 だからこそ、だろうか。目の前、かなり前方に、人影とおぼしき何かを発見したのは。

 一瞬で意識を切り替え、反射的に双眼鏡を向けて覗きこむ。ナガラの視力は裸眼でも2.0近くあるため、遠くのものも何となく判別できる。そこに双眼鏡が加われば、視界不良な状況でも偵察を完璧にこなすプロフェッショナルの出来上がりだ。


 そう、そんなナガラが見つけた人影は。




 ――通路を遮るようにして立つ、3騎の乗馬騎士の姿。その目には殺意が籠っている。




 ナガラはすぐさま、一言だけ告げる。


「――敵襲!」























『――敵襲!』



 ナガラが双眼鏡を覗いていたあたりから半分夢の世界に意識を飛ばそうとしていた私は、優秀な偵察兵の一声で一気に意識を覚醒させた。そのまま寝起きとは思えない的確さで問いを返した。


「何人いる、時間は?」

『敵は3騎、接敵まで100秒です』



 ナガラから発せられる報告に嘘偽りはありえない。ならば、あと100秒以内にどう動くか考えなければならない。



(3騎……つまり騎馬隊か? 厄介だな、下手に弾薬を使えない今、狙撃もできない。かといってこのまま放置していても危険だな……)



 とりとめのない思考に時間を使っている内に、また報告が飛んでくる。



『接敵まで80秒です』


 なくなってくる時間に段々焦りを募らせていくと、不意に誰かが口を開いた。



「隊長、轢くのはどうだ?」



「……一理ある。分かった、轢く(ロードキルで行く)ぞ!」



 思いがけない名案に乗っかって、すぐに決断する。続けて指示を飛ばす。



「ナガラ、中に入れ! リゼも詰め込め!」

『了解!』


 直後、ナガラとリゼが中に入ってくる。ナガラは座る前に、一言報告を入れてくれる。



「接敵まで40秒です」

「ああ、分かった。ありがとう」







 一言礼を言って、じっと待ち続ける。体感時間で計測しているから、少し誤差があるだろうが、あと30秒。







 リゼを隣に呼び寄せ座らせ、遮音性の高い耳当てを付けさせる。あと20秒。







 リゼに目を閉じさせ、そのままリシィも座る。あと10秒。







 周りを見回し、隊員は平常であることを確認する。あと5秒。







 少しして、一瞬だけ何かに乗り上げた衝撃があり、また元に戻る。


 確かに少し、瞬時に骨を粉砕し、人間という生命体を物言わぬ肉塊に変えた音が、微かに聞こえた……気がした。



 きっと、さっきの騎士は履帯に巻き込まれ体を挽き肉に変えられ、血痕を履帯によって刻まれるだけの存在になってしまったはずだ。


 だが、それを隊員ならともかく、リゼにまで聞かせる訳にはいかなかった。だから耳当てを付けて、目を瞑らせた。
















「状況終了だ――」

※解説

今回使われた輸送車は『AAV7』と呼ばれる輸送装甲車。

定員3+25名、車重は25トン。12.7mm重機関銃とMk19自動擲弾銃を搭載。水陸両用。


こんな重い装甲車に轢かれた騎士さん達がかなり可哀想。


ちなみにこの部隊は3台所持。

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