Part4 慰め
次々と慰めの言葉をかけ続ける。そんな私に向かって、リゼニアが突然顔を跳ね上げた。
――目には、うっすらと涙を滲ませて。
「……じゃあ、どうしろって言うんですか!? 頼りになる人が全然いなくて、どんどん劣勢になっていって! そんな絶望的な状況で、まだ市民の人達は勝利を信じて疑わない! こんな八方ふさがりな状況で……どうすれば……」
途中まで大声で泣き叫んでいたのに、最後はあっという間に萎んでいって。また深く顔を俯かせて。必死に泣くのを堪えているのか、小刻みに肩を震わせて。
だからこそ、なのか。弱い自分と闘っている目の前の少女を、そっと抱いて。耳元で囁く。
「君の苦悩も、君のその感情も、私には一片も理解できない」
ピクッと反応を見せる、腕の中の少女。だが、私の言葉は止まらない。
止める気がなかった。
「同時に、君を長く見続けていた人は少なからず君の苦悩に気づいていたんじゃないか? 理解できないとほざいた私が簡単に気が付いたんだ、ずっと付き添って見てきた人ならとっくに気が付いていたんじゃないか?」
胸に顔を埋めるリゼニアの、肩の力が少しずつ解れてくる気がした。
「君は見えていなかったんだ。君のすぐ近くにいて、能力的に申し分ない人が、もしかしたらいたんじゃないか?」
さっきのリゼニアの本心を聞いて、一つだけ確信していたことがあった。
――彼女は、かなり高貴な偉い所の生まれなんじゃないか、と。
「君の立場はよく分かっていない。だが、君は全てを一人で抱えすぎていたんじゃないか? ……自分の心から聞こえてくる悲鳴に、聞こえないふりをして、耳を塞いで、蓋をして。『自分さえ頑張れば何とかなる』と思い上がって」
おそらく彼女は、典型的な努力家なのだろう。同時に、全てを一人でこなさなければならないという間違った義務感を持ってしまった。
その責任は、一人で背負うには余りに重すぎた。
「だが実際はそうはいかなかった。戦線は徐々に後退し続け、いつのまにか本拠地の目の前まで押し込まれてしまった。だから君は、自分を責めたはずだ。『自分に力が、知恵が足りなかったから。自分が、もっとしっかりしていれば』……違うか?」
リゼニアの全身がビクリと震えた。どうやら合っていたようだ。
「やはりな……。君の最大の失敗は『周りを見ず、そして頼らなかったこと』だ。君は一度でも、周りの人に頼みごとをしたことがあるか? 頼られてばかりで、それを全て自分でこなそうとして、このザマだ」
「……それは……」
初めて聞く、か細い迷いの声。決して大きくはなくとも、自分の心に確かに響くであろう『言葉』という銃弾に打ちのめされ、初めて気が付いた自分の行い。その結果に、今ようやく気付いたかのような。
私はこれを待っていた。
私の口から放たれるものを、反省から改善へとシフトさせる。
「……だからリゼニアはもう少し周りを頼ったらどうだ? きっと、リゼニアの臣下達も何かの役に立ちたいと思い続けているはずだ」
頭を撫でて、凝り固まった心を少しずつ溶解させていく。あと、もう少しだ。
「……でも……あの人達は……」
「それはきっと、人材の配置場所を間違えただけだろうな。適材適所、もしかしたらズレていた歯車が噛み合うかもしれない」
自分の推測でしか話してないが、多分これで間違っていないと思った。かくいう私自身も、同期で入隊した隊員に同じような境遇を抱えていた人を知っていたから。その人の愚痴聞き兼相談役を、ずっと務めていたから。
だから私には分かった。リゼニアの苦しみが。
だが、まだ足りない。最後の1ピースは、もう出揃っている。あとは、空いている小さな穴にそのピースをはめるだけだ。
そこからどう転がるかは、リゼニアの気分と運次第だ。
「……それに、私達がいる」