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Part2 状況把握

 そんな時、偵察員が戻ってきた。ジェームスが二言三言何かを話してから、こちらに歩いてくる。ジェームスが指定席とばかりに私の隣に立ち、今し方偵察員から聞いてきたであろう報告をしてくれる。


「どうやら、北西方向に少し歩いた辺りで小戦が発生しているようですね」

「小規模戦闘か……武装は?」


 近くで戦闘状況が発生しているならば、その両者の武装状態を把握しておいておかなければ勝てる戦いも勝てないこともある。蔑ろにはできない。

 しかし、その後の報告に私は思わず眉を顰めることになる。


「それが……剣や槍、それに弓と、魔法のようなものらしいですね」

「……なんともファンタジーな戦闘じゃないか」


 正直自分の耳を疑ったが、今の報告には信用できるだけの理由がある。こんな状況で隊長に虚偽報告をしても、逆に部隊の死亡率を上げるだけだからだ。

 少なくとも今言われた武装が戦場の『常識』なのであるとすれば、それは私達の理解が及ぶ範囲ではない。

 ただ1つの可能性を除いて、な。



 仕方がないので、目の前にいる少女に確認してみることにした。


「この辺りで起こっている戦闘は何だ?」

「えっと……多分、王国軍と革命軍の戦いだと、思います」


 こんなことを面と向かって言われてしまえば、予想が断定に変わるのも致し方ないだろう。




 ――ここは異世界か、それに近いものであると。




 ゆえに、優秀な副官にその断定にほど近い推測を伝えておく。情報共有は生存率上昇のためには必須だからだ。


「ジェームス……ここで行動するに当たって、私達がいた世界と同じだとは思わない方が良いかもしれない」

「なるほど……妥当ですね。隊員に伝えておきましょう」



 そう言って隊員が固まっているところに向かう副官を見て「頼んだ」とただ一言っておく。

 説明はおそらくあの副官がやってくれるはず。だからこそ、私は手近な拠点を探そうと思った。こんな状況で野宿は決して上策ではない。


「すまないが、ここら辺で使用できる宿はないだろうか。流石に夜営というのも厳しくてな」

「それなら何かの縁です。私の街に来てください」


 自分で言っていて違和感を覚える質問をした直後だからだろうか。この申し出には嬉しさと不信感がないまぜになった目を向けてしまう。

 確かに願ったり叶ったりなことなのは分かっているのだが、こんな不審者集団を易々と街に迎え入れても良いものなのだろうか。


 そう考えると、はい分かりましたとすぐには頷けなかった。下手に疑いの目を向けるのは良くないのだが、職業柄な上にこの状況だ。伸ばされた手を疑うなという方が難しいだろう。



 だがしかし、このまま行けば野宿確定なのもまた実状。

 私は、譲歩をするしかなかった。


「そうか、なら一度街に向かうが……泊まるかどうかは現地で決めさせてもらう」

「分かりました、ではこっちです」




 意外にもあっさり了承して街へと戻るリゼニア。むしろその反応に私の方が一瞬驚かされてしまった。本来想定していた『判断を渋る』可能性が全く発生し得なかったからだ。


「……分かった」


 多少なりとも困惑している思考回路では、こんな返答が精一杯だった。だがそれを気にする様子もなく歩いていくリゼニアを見て、隊員を集合させて後についていく。













 少し歩いた辺りで、鬱蒼と繁っていた森が突然姿を消し、代わりに見えたのは平原と街と――戦いの場。遠目に見てみると豆粒のように見えるから、予想できるのはまさに小規模戦闘のレベルか。



 そこでふと立ち止まり、振り返ってくるリゼニア。顔には、すっかり忘れてた何かを思い出したような表情を浮かべて。



「あなたの名前を聞いてなかったですね」


 私からしてみれば今更感全開の問いだったが、まあ確かに言ってなかったなと思い自己紹介をすることにした。



「私はリシィ、よろしく頼むぞリゼニア」



 そう言って外した口覆い。自己紹介の際に最低限の礼儀を欠かすまいと無意識に外し、大概面白い反応を返される一種の通過儀礼。

 どうやらそれに、彼女も例に漏れなかったようだ。


 リゼニアはたっぷり数秒間固まって。


「ええええええぇぇっ!?」

「騒々しい奴だな」


 リゼニアの驚きの声に苦々しい顔で文句を言った私は、どう見ても、どう考えても男性ではない。であるのに、私の放つ声には少し渋みと徹りがあった。

 まあ、実は意図して出しているだけなのだが。


「え……だって……」


 口をパクパクさせながら驚愕している心情を全く隠せていないリゼニア。それだけ衝撃的だったのだろう。私にとってはどうでも良いことだったが。

 確かに女性が軍人にいるというのは非常に珍しいことだが、近年に前例がない訳ではなく、最近になってはただレアリティが高いだけだと言われている。

 だからこそ、そこまで驚かれるのは不思議でならなかった。

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