Part1 異界の地での出会い
初投稿作品です!かなりぐだぐだ状態ではありますが、生暖かい目で読んでいただけると幸いです。
2017/3/29
大規模な改稿の第一弾として文章の加筆修正、表現の変更などを実施。
文字数……1976文字→2877文字
「ここは……どこだ?」
軍服を身にまとい、ライフルやバックパックを持ちながら。そんな不思議な集団が陽も陰るような鬱蒼とした森の中で立ち尽くしていた。その光景は端から見ればいささかシュールではあるのだが、幸いなことに回りには人の目はなかった。
そんな異様な集団――特務部隊の隊長である私、リシィはこの突発的に発生した異常事態に、使える頭脳をフル回転させて状況の打破を模索していた。
(とりあえず位置の把握が先決だな。周りの風景から考えられるのは、ニカラグアか南アフリカの熱帯雨林くらいか?)
「何名かで散らばって周囲の状況をある程度偵察して来てくれ。今までにない状況だ、慎重に行け」
周囲の環境から大まかに似ている場所を絞り込みつつ、私は手短に指示を飛ばす。
今の指示で自ら立候補して偵察に行った奴はほとんどが偵察や捜索などで森林帯を歩き回った経験がある。そのせいかこういうシチュエーションでの偵察などは必ず参加しているらしく、おかげで生えている植物の種類や傾向、生息している鳥類や動物を観察して具体的にどこにいるのかを当ててくれる、心強い奴等だ。
奴等がいれば、熱帯雨林だろうが密林地帯だろうが注意すべきことや休憩できそうな地点、どこが通れてどこが危険なのか、確実で信頼できる情報をそう時間を掛けずに教えてくれる。
彼らのおかげで生還できたことも1度や2度では済まない回数経験しているだけに、こういう状況では頼りになる面々だ。
「とんだ事態になりましたね」
思考の海にどっぷり浸かっている私に声をかけたのは、この部隊の副隊長。戦闘能力もさることながら、局地的な継戦能力と状況判断能力だけで言えば私をも凌ぐと思っている。
そんな有能な副隊長の一言で現実に帰還した私は、自分の頭で考え続けていた推測を話してやる。
「そうだな。ここがニカかキューバみたいな既知の領域であればならまだ救いようがあるのだが」
「どうでしょうか……ここが我々の見知った活動域である保証もないですからね」
「まったく。とんだ災難だよジェームス副隊長」
私が珍しく愚痴を零すのを(ただし皮肉込みではあるが)間近で聞いて、ジェームスと呼ばれた副隊長は大袈裟に肩を竦めることで答える。
――俺からしてみても異常事態ですよ、と。
私達にとっては日常と全く変わらない、当たり前な意思疎通手段を通して意味を察した私達は一様に苦い顔をして黙りこくる。
少なくともこの場において、状況を鑑みず明るく振る舞えるような純真な人間は誰一人としていなかった。
なんだかんだ言って、全員自分が擦れているという自覚が多少なりともあるからな。仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
*
とりあえず、行動を起こす前に偵察員の帰還と報告を待つことにした。右も左も解らない状態で歩き回るよりは右か左でも解っている状態で動いた方が生存率は格段に上がる。下手にすぐ動いてしまうのは愚行と言わざるを得ないだろう。
周囲にもし他の人間がいて私達のことを見たとしたらおそらくただ待っているように見えるだろうが、私もジェームスも、他の部隊員も周囲への警戒は全く怠っていない。その分野に関して言わせてもらえれば、そんじょそこらの特殊部隊程度とは比較にならないレベルの警戒心を維持することはかなり容易な上に、大して無理もせず呼吸同様無意識に行えるレベルのことなので疲労感もまるで感じられない。
特殊部隊とは次元が違うと言えてしまうくらいの困難と死線を潜り抜けてきた私達だからこそ出来ることであり、訓練するだけでは到底たどり着くことはできない。
自分で言うのも何ではあるが、事実なのだから仕方がないな。
だからこそ、なのだろう。近くの茂みが微かに動いたのを、部隊員全員がほぼ同時に察知し、ほぼ同時に臨戦体勢に入った。正確には、私が真っ先に気がつき、その反応を見たジェームスが最初にライフルを構えた訳だが。
これが猛獣などであれば容赦なく射殺することに何の躊躇いもないが、現地の民間人となると万が一無警告で射殺などしてしまえば後々の対応に困るだろうな。
隊員が準戦闘態勢で待ち構える中茂みから恐る恐る出てきたのは……紫のロングヘアーに翡翠色の瞳を驚き半分恐怖半分で見開いた少女だった。
その瞳に映る何かを機敏に感じ取り、私はすぐさま部隊に武装解除の指示を出す。
目の前にいる全員が敵意を消したのを感じ取ったのか、少女は安堵しているように、私には見えた。
(少なくとも見た目は)一般人であるはずの少女がなぜ殺気を感知できているのかは解らんかったが。
そんな微妙にズレた思考に耽っていると、少女がおもむろに口を開いた。
「あの……あなたたちは誰ですか?」
……なぜそれを今ここで聞くのか理解できなかったが。普通はもっと警戒してくるものではないのか? と、私が思ってしまう程にこの状況はおかしかった。
なにせ極秘部隊と一般人の少女である。いつも通りの日常を生きているならば生涯交わることのない組み合わせが、奇妙なことにも完成していた。
だがしかし、目の前にいる少女はただ不思議そうに聞いているだけだ。私にとっても不思議なことこの上ない。
だからこそ、まずこの少女で情報を収集しようと考えた。
「そうだな……私達は戦うことを生業にしている者達だ。君は?」
極秘部隊だという情報は基本的に機密事項、公開は許されていない。そこを考慮しての無難な説明だった。
まあ、見られていて会話をしている時点で秘匿義務を緘口しなければならない状態ではあるのだが。
「私はリゼニア……リゼニア・フルーテットです。あなたたちは傭兵の方ですか?」
「ああ。そう考えてもらって構わない」
そう返しておきながら、思考は常に得られた僅かな情報を断片的に組み合わせていく。
(傭兵……つまり雇われ兵の需要がある、ということか。大方、目の前のコイツも近隣の町村の住人か何かだろう)
そう結論づけて、私は目の前の少女――リゼニアの全身を見回す。
紫色の髪は余り元気がなく、瞳の周りにも色濃く疲労感が浮き出ている。着ている服もみすぼらしく、まともな素材を使っていないのが見てとれた。所々に修繕の跡も見られる。
しかし、私が何より気になったのはその貧相な状態ではなく、その髪や瞳の色。
(私が今まで訪れたどんな場所でも、こんな色をした髪は見たことがない)
今までに私は、世界の8割を見尽くしたと言っても過言ではないくらいに各地を飛び回った。だからこそ言えること。それは。
「君の容姿は、随分と特徴的だな」
「……そうですか?」
首を傾げるリゼニアの反応を見て、幾つか考えていた予想が大雑把にイメージを形作る。
――これは、異世界か何かなんじゃないだろうか、と。
自分でも荒唐無稽な結論だと思っているが、そうとでも考えなければこの状況を上手く説明しきれない。
だからこそのさっきの質問だったのだが。リゼニアの『こんなの珍しくないでしょ?』みたいな反応からして、この世界ではそう珍しくもないものなのだろう。
未知のこの状況で正確な判断を下すため、この少女を上手く利用させてもらおう。
さて、どうしてみたものか。