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バウムとアーベントのお話





ずっとね、こころぼそかったの。



おかあさんもおとうさんもいなくなっちゃって、わたしはずっとおりの中だったの。


目かくしされたわたしに聞こえるのは怖いどなりごえと、なにかがこわれる音だけ。


わたしはなかなか売れなくて、たまになぐられたの。


目を見えるようにしてくれて、おりから出してくれたおじちゃんもつかまっちゃって、わたしはまたおりの中なの。



そしたらね、おりのとびらが開いたの。


もう二度と開くことなんてないって思ってたから、わたしはびっくりしてうごけなかったの。



「おーい、どうした? 出てこないのか?」



その声でね、出なかったらまた閉まっちゃうって思ったからね、わたしあわてて出たの。


外には知らない人がいた。声がひくいから、たぶん男の人。



「わたし、お兄ちゃんに買われたの?」



そうきいたらお兄ちゃんはなぜかぜっくしてたけど、しばらくして頭をなでられた。


気持ちよかったの。



「買ってないよ、お前は金で買える商品なんかじゃないから」



どういういみかよく分からなかったの。


だって、わたしはずっと買われるのをまっている商品で、買われたらおりから出れるものだったのに。



「外に出るのも目の前にあるのを見るのもお前の自由にしていいんだよ。人間なんだもの」



わたしはじゆうなの?


その言葉のひびきがすてきで、わたしは何回もその言葉をくりかえした。



おじちゃんがかみにくっついてるのに気づくのはだいぶ後で、わたしのせいでじゆうじゃなくなったね、ごめんね、ってあやまったらおじちゃんは許してくれた。



でもやっぱりごめんね、おじちゃん。


おじちゃんはきゅうくつそうだけど、わたしはやっぱりこのじゆうが好きなの。





ごとり、と。

カウンターの上に丸い物体が置かれた。

音から察するにかなり重そうだ。



「なんだこりゃ」



つぎはぎ模様の子供が興味津々で物体に近づこうとしたので、俺はしっかりガードしながら眉をしかめた。



「ボール、かしら」



真っ昼間だというのにアイマスクをしている女が首を傾げる。



「おいおいおい、こりゃまさか……!」



その女の髪から伸びる白蛇がぎょっと目を見開いた所で、それを持ってきた本人がにこやかに笑った。



「爆弾です」





この世界には生物に突然変異を起こさせる電波を放つ『イヴァン』という物質が存在する。

まだ分かっている事は少ないため、発見されたイヴァンは『ポリストリー』という研究所と犯罪取り締まり所を合体させたような施設で厳重に保管されている。

が、保管されていないそれは時たま犯罪者の密輸売買の商品となるのだ。


ポリストリー・ヘルザニア支部で働いていたエリート研究員の俺、ゲミュート・マナーは、そんな密輸事件の取り調べの最中に事故ってしまった不運な男だ。

密輸されていたイヴァンが俺や密輸犯、その他の密輸品を巻き込んで生み出された物と言えば……



全ての行程を示してくれる万能ナビゲーター搭載、いかなる物質も意志次第で自在に引き寄せる磁石少年。


元人型密輸犯、喋れる白蛇を髪にくっつけた透明人間少女。


そして触覚のオプション付き、気分次第で百万ボルトの電撃も余裕で放てる不運な研究員……




俺は変異に取り込まれた密輸品の弁償のため、生まれてしまった子供二人のお守りをしつつこうして場末の酒場で働いているわけだ。


そして今、目の前には『当時現場にいたのに一人だけ何の変化ももたらされなかった』元・同僚がいる。

ここ重要。


本当ならポリストリーを追い出されるはずだった俺は奴――ナイン・ノルマルのおかげで首の皮一枚繋がったと言ってもいい。

酒場で働いているとはいえ、ポリストリーではなんとか長期仕事停止で済んでいる。

が、自分も事件の担当だったくせに素知らぬ顔でポリストリーに居座っているのもこいつだ。

はっきり言ってしまえば食えない奴、現時点で唯一俺とポリストリーを繋げてくれる人物だが、俺は少々こいつが苦手だ。


パンクなファッションに着古した白衣、肩に届くかどうかのバサバサの栗毛。

おまけに以前にはなかった、顔の左半分を覆うほどのドクロのタトゥー。

そこまで開けっぴろげにファッションを主張する奴ではなかったと思うのだが。



「お前……変わったな」



と呟けば、



「頭に触覚が生えるよりは小さな変化でしょう」



と返された。余計なお世話だ、この野郎。


俺の職場にめったに来る事のなかったナインが珍しいとは思っていたが、持ってきたのが爆弾ときた。



「今回は直接依頼に来ようかと思いまして」



ナインがにこやかに微笑むが、カウンターに転がしてるのは爆弾だからな、爆弾。



「ばくだんってなんだー? うまいのか?」



つぎはぎだらけの子供――クランケが面白そうに俺に聞いてくる。

危険極まりないので俺は更にクランケをカウンターの爆弾から引き離した。



「馬鹿! 何のために持ってきやがった、そんなモン!」



アイマスクをかけた少女――アーベント、の髪から生えた白蛇密輸犯が必死に叫ぶ。

奴からいつものふてぶてしさが見あたらないと思ったら、爆弾をよく観察してみて分かった。



「お前が捕まった原因になった型の爆弾か、これ」


「M‐六八型、爆音の後にネット状のとりもちが出てくる仕組みになっています。

捕獲用の爆弾ですので爆発はしません」



ナインが説明し、どこぞの密輸犯があまりに厄介だったので、当時開発段階でしたが使用させて頂ました、と白蛇を見る。



「こいつさえなけりゃ捕まる事は無かったんだ俺は!」



密輸犯が苛立ち紛れにカンカンと爆弾を突っつき始めた。

体が繋がっているため、アーベントの頭もそれに合わせてテンポ良く揺れる。



「んで、このM‐六八型を持ってきた理由は?」



話を促すと、ナインはまたにっこりと笑った。



「さっきも言ったように、このM‐六八型は開発途中の物なんですよ。ところが少々不具合が出てしまいまして」



ナインは話しながらやれやれと肩をすくめる。密輸犯が爆弾に八つ当たりをするのをいさめつつ、俺は尋ねた。



「不具合?」


「製造中に二、三個の不良品が出来てしまったんです。性能テスト中に爆発してしまいまして」



その言葉に、周りの空気が凍り付いた。



「……つまり?」


「その時の事故でM‐六八型を研究していた部屋は半壊。

担当の研究員も負傷してしまったので、この不良品が出てしまった原因を探ろうにも探れないんですよ。

だから調べるために隣の支部へこの爆弾を運んで欲しいんです」


「じゃあ、今目の前にあるこいつは……」



震える指で丸い物体を指差せば、ナインは当たり前のように肯いた。


「無論、不良品の方です」



コンマ一秒の速さでクランケを抱えてカウンターから離れる。

密輸犯が無理やりアーベントを引っ張ったため、アーベントは頭を打っていた。



「うぉおおぉい! 本当に爆発するんじゃねぇか! 俺さっき思いっきり突っついたぞ!」


「ていうか、それを平然と持ってきたお前がすごいわ! ここまで持ってくる必要ないだろ、お前が隣の支部まで運べよ!」


「ゲミュートとバウムはなんであわててるんだ?」



状況がよく分かっていないクランケを尻目に、ナインはため息をついた。



「何の対策も打たないで、爆弾を持ってくる訳ないでしょう。きちんと防護ケースに入れてあります」



指摘されてよく見てみれば、なるほど爆弾の周りには透明な板が張り巡らされていた。



「それと、さっきも言ったようにポリストリー内部で事故が起こってしまったので人手が足りないんですよ。

私だってまだやる事があるんです、猫の手位には役立って下さい」



ナインの説明に返す言葉もなく、俺達はわめいていた口を閉じた。



「いつまた不良品に異変が起こるか分かりませんので、なるべく急いで欲しい所ですね」


「なら……私とバウムが行くわ」



突然名乗りを上げたアーベントに、俺達は目を見張らせた。



「おいおいおいおい、俺はごめんだぞ! なんでわざわざ爆弾なんざ運ばなきゃならねぇんだ!」


「今回のはクランケには無理よ、危険すぎるから。だとしたら店にはクランケと一緒に待機する人間が必要でしょう?」



私たちの方が意識が二つあるから注意を払いやすいし、マスターと比べて体力もある方だから。


つらつらと理由を並べていくアーベントが最後にぼそりと呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。



「それに……もし何かあっても、一番マスターに損害が出ないのは私よ」


「アーベント!」



思わず聞きとがめたが、アーベントは素知らぬ顔で立ち上がった。

小脇に爆弾を抱える。



「隣の支部ってジュザリア地方の所にある支部、よね? 場所は知ってる。今から行ってくるわ、マスター」


「おい! 俺の意思は真っ向無視かよ!」



俺に一声掛けた後、アーベントはそのまま俺のとがめも密輸犯の抗議も無視して店を出ていってしまった。

丁寧に閉められたドアが小さく音をたてる。



「あいつ……」



アーベントは元が思考のない人工生命からできているクランケと違い、透明人間奴隷として合体する前から意志を持つ『商品』だった。



『もしなにかあっても、一番マスターに損害がないのは私よ』



奴隷と犯罪者が主な成分。

はっきり金額で言ってしまえばクランケの人工生命や万能ナビゲーターよりはよっぽど安い材料だ。

これまで自分の価値を金額でしか知らされてこなかった奴隷という身分故、アーベントはあんな事を言ったのだろう。



「金で生き物が測れる訳ないだろうが……」



絞り出すように言えば、クランケが不安そうにこちらを見ていた。お茶をすするナインがぼそりと呟く。



「別に向かう先はジュザリア地方でなくても良かったんですが」


「先に言えよ、そういう事は!」


「いや、彼女がそこしか隣支部を知らなそうだったので」



ナインのあっけらかんとした言葉に今度こそ血の気が引いた。こいつはいつも肝心な事を言わないんだ!






軽い足音を立てて、黒髪の少女が走る。



「おい」



その髪から生えた白蛇が白けた目で少女を呼んだ。

しかし、少女はその返事を返さない。



「おーい、てばよ」


「爆弾を見張っておいて。目を離したら危険だわ」



数度目の呼びかけでようやく言葉を返したアーベントに、白蛇は忠告にも構わず尋ねた。



「お前、なんでこんな自虐的な真似した」


「自虐的じゃないわ。さっきも言った通り、クランケがやるには」


「違ぇよ、爆弾の話じゃねぇ! 目的地がジュザリア地方だって事だ!」



苛つきながら白蛇が叫ぶ。そうこうしている間にも、二人はヘルザニアからジュザリアへと入ろうとしていた。


荒れ果てた大地、覇気のない空気。

住み着く人間の目はみな異様にギラギラと光る。

ジュザリア地方はポリストリー支部が建設できたのが不思議な位の無法地帯である。

大抵の犯罪など日常茶飯事故、ポリストリー・ジュザリア地方の支部は『世界で一番忙しい支部』とも言われている。



「だからっ、なんでわざわざお前が行くって決めた! お前にとっちゃトラウマの巣窟だろうが、ここは!」


「集中して、バウム。住民が見てる」



尚もわめき続ける白蛇に、アーベントは静かに制止をかけた。

真っ昼間だというのに薄暗い裏通り。汚れた建物に潜む鋭い目は、間違いなくアーベントと白蛇を捉えていた。


慎重に、一歩一歩足を進める。

白蛇も理由を追求している場合ではないと考えたのか、静かに辺りと爆弾の様子を伺っていた。



ジャリ。


不意に砂利を踏みしめる音が響き、それは一つ二つと瞬く間に増えていく。



「……! バウム、逃げるわよ!」



長年の経験から、アーベントはこの音が響いた時、ジュザリアの住民達が余所者に襲いかかろうとしているのを知っていた。

アイマスクをはぎ取り、常に覆い隠している目をあらわにして体色を透明にする。

白蛇の本名を呼び、気配を消して走り出した。



「昔檻の中で夢見た外を走ってるなんて、なんだか妙な気分だわ」



楽しそうにそう呟くアーベントに、白蛇はかすれたため息をつくばかりだった。




とんだお荷物を拾っちまった、と俺は内心後悔していた。

組織でへまやらかして逃亡中、どうして人身売買の奴隷なんざ拾っちまったのか。おかげでポリストリー以外に追手の種類が増えた。



『おじちゃん、どこ行くの?』



ガキが目隠しをしているくせにこちらをまっすぐに見てくる。

うろちょろされた上に透明になられてはたまらないので、目隠しはしたまま、手はつかんだままだ。



『ジュザリアじゃねえどっかだ。こんな腐った町まっぴらだからな』


『どうして私も連れて行くの?』


『…………』



そりゃあ、奴らが女、しかもまだガキを手加減無用で殴りつけるわしてたからつい衝動的に奴らからかばって、あとは成り行きで。顔を蹴り潰そうとしたんだぞ、そりゃあ咄嗟に金蹴りは出ちまうだろう。


と、言える訳もなく荒れ果てた街道をひた進む。

なおもガキは尋ねてきた。



『私がお金になるから?』


『そんな所か。ここにお前を買うような奴はいない』


『おじちゃん、お名前は?』


『バウム』



ぶっきらぼうにそう言えば、ガキは笑って小首をかしげた。



『よろしくね、バウムおじちゃん』



その生暖かい感触にむずむずして、くしゃみが出そうになる。

苦虫を千匹噛み潰したような顔になったが、それでもガキの手は握ったままだった。





幾分走りつかれた体を休めるために、建物の蔭に隠れる。

疲れによって、アーベントの体はうっすらと見えてきていた。口から洩れる音は、アーベントの息が切れた事を表している。



「体、鈍ってるわね」


「檻に入ってる以外何もしてなかった奴が何言ってやがる」



アーベントの言葉に、白蛇は鼻を鳴らして返した。

灰色一色の裏路地に、一時の沈黙が広がる。



「……どうなっても、いいかと思って」



そんな中、ぽつりと漏らされたセリフに、白蛇は目を丸くした。



「このままずっと居ても私はクランケみたいに役に立つ機能は持っていないし、ただの穀潰しだし。

バウムだって、元々人間だったのにこんな姿になっちゃって。捕まるまで私を売らなかったのも、売り物になる程私が役に立たなかったからでしょ?


だから……このままいなくなる方が、いいかと思って」



爆弾が爆発する訳でもないけど、なんだか体が勝手に動いてたの。と、アーベントは申し訳なさそうに呟いた。


その様子に深く、本当に深くため息をつくと。



「馬鹿か、お前はっ!」



白蛇は勢いをつけてアーベントの頭頂部に巻きついた。そのままぐいっと頭を下に押す。


一秒と経たない内に、アーベントの頭があった場所に刃物が突き刺さっていた。

驚きに、一瞬体色が元の濃さに戻る。



「見つかった?」


「走れ! 走りながら聞け!」



アーベントを突きながら白蛇が叫ぶ。

そのすぐ後ろで、怒声と足音が聞こえた。

アーベントが走り始めても、白蛇は突く事を止めない。心なしかその眼はアーベントを睨んでいるようにも思えた。



「いなくなるとかな、んな自殺行為されちゃこっちが困るんだよ! こっちゃお前と体を共有してるんだぞ! 大体なんだ、売り物にならない位役立たずって! 俺がいつんな事言った!」


「でも……ナインさんが、『ヘルザニアに入る時に足手まといになる奴隷まで連れてきたのはおかしい、連れて行かなきゃいけないよっぽどの理由があったんじゃないか』って言ってたわ。

私とバウムが初めて会った時も、私を売るような事言ってたじゃない」



あの野郎!



内心白蛇はナイン・ノルマルに怒りを隠せなかった。

恐らくアーベントがこんな行動に出たのも、ナインと直に会ったせいでその言葉が無意識に思い起こされたからだろう。



「殴る、無事に帰れたら絶対二、三発は殴ってやるぞあの髑髏刺青キザ野郎」


「バウム、今のあなたに手はないわ」


「代わりにお前が殴れ! いいか、要するに俺があの時言いたかったのはな……」



ピ―――――。



白蛇が重要な所を告げる前に、アーベントを追いかける輩達の声よりも更に大きな電子音が響き渡った。



『爆発マデ残リ一分ヲ切リマシタ』



一瞬の間。電子音が何を言ったのか悟った二人は、先ほど走っていた倍のスピードでダッシュし始めた。



「おいっ、おかしくないか! 捕獲用とりもちのはずなのになんで時限爆弾っぽくなってんだ!」


「不良品生産の際に混じったんじゃないかしら」


「そんな冷静な分析いらねー! 支部まであとどれぐらいだ!」


「言うほど遠くないわ。ほら、見えてきた」



アーベントが指さす先には、なるほどポリストリー・ジュザリア支部がでんとそびえている。

残り百メートル前後といった所か。



『爆発マデ残リ二十秒ヲ切リマシタ。秒読ミニ入リマス』



が、電子音は残酷にも次の言葉を告げた。

それと同時に数字が刻々と並べられていく。



「ぅおぉおおぉいっ! 四十秒どこ行った!」


「不良品だから」


「言ってる場合か、走れ!」



こうなってしまえば後ろの追い剥ぎ達など怖くもなんともなくなってくる。

必死にアーベントを急かしている時、不意に問われた。


「バウム、さっきの続きは?」



しばらく考えて、電子音に邪魔された言葉を要求されていると気づく。



「んな事言ってる場合か、後で言ってやるから」


「今、聞きたい……わ」



宥めてみるも、アーベントは有無を言わせなかった。

息切れの狭間で白蛇の言葉を待っている。

白蛇はこのままでは埒が明かないと判断したか、渋った後にようやく言葉を紡ぎだした。



「だからっ、あれはただの建前っつーか……お前をここに捨てとくにはもったいねぇって思ったんだよ!

売り物にしようと思って連れてきた訳じゃねぇ!」



白蛇の言葉を聞き終えた時、数字と追い剥ぎ達の声が一層大きくなる。

アーベントは笑った。




ピ――――。





アーベントは、元々大きな組織で奴隷として捕まっていた。

それを助け、組織を裏切って独立したのがバウム、要するに今の白蛇密輸犯だ。

アーベントもひどい扱いは受けていなかったし、俺は一応、本当に一応密輸犯の事は信用している。だが……



「運んだ爆弾がパーって、どういう事だ……?」


「言ったとおりの意味だよ、間に合わなくて支部に着いた途端ドカンだ」


「防護カバーで被害は抑えられたけど、支部の玄関先は惨事になったわ」



要するに今回の報酬はパーという事か。

仁王立ちする俺の前にアーベント、その隣でクランケが面白そうにその様子を見ている。



「ごめんなさい」



正座したアーベントが申し訳なさそうに頭を下げる。その髪から生えた密輸犯が、反省の色皆無で高笑いした。



「ま、しょうがねぇよな! 今回の仕事ばっかりは俺らしかできない危険な任務だったんだ、失敗しても文句は言えないだろ?」


「いえないよなー!」



密輸犯の言葉を面白そうにクランケが真似した。




クランケ、無邪気なのはいいが空気を読んでくれ。そんな事気にしないのが無邪気だという事は分かっているけれども。



白蛇密輸犯、本当にムカつく奴だなお前。言うほどお前を信用していない訳じゃないとは死んでも言いたくなくなったぞ。



そしてアーベント、君はこの店の最後の良心といってもいいかもしれない。これからもずっとそのままで居てね。



「でも……爆発で誰かが死ななくて良かった」



ナインになんと言おうか苦悩しつつ、俺はアーベントが自分がどうでもいいような発言をしなくなったのに安堵していた。

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