episode08 驚愕のパーミッション
「仕組まれていたって・・・。そんな馬鹿な・・・。誰が俺達を嵌めるんだ・・・?」
開発室に漂う生暖かい空気。じっとり汗をかく。
二人はお互いの反応を待ち続ける。
「オールニューネット社・・・・・・・もしくはビットソフト・・・?」
「BSは無いだろう・・・?」「ゲイツの言・・・アルター204内のデータベース。それらも裏付けている・・・そう思うんだが?」
二人はそこで自分達がとんでも無い場所にいることを徐々に知り始める。
そして、海がやっとの思いで言った一言。
でも、どうして俺達を嵌める?
本当は海自身もその理由を知っていた。
そして、錦戸も・・・。
理由は目の前にあるのだ。当然ともいえる。
「アルタイル・・・・?」
「おいおい。誰がアルタイルの情報を漏らす・・・?」「馬鹿!安易に答えを出すな。もしも、この建物自体・・・オールニューネット社の手中にあり、尚且つ連中がアルタイルの初期設定を行ったのならば?」
「・・・だけど連中にはアルター204がある。今更アルタイルに目を向ける必要は無いだろう。」
真夏の空間で寒さを感じる。
「・・・・オールニューネット社は安全なのか?別に未来で世界を支配することは無いだろう・・・?」
「確かに・・・。」
二人はそこでようやく何らかしらの希望を見出す。
同時にやってくる安堵感。
2014/08/06 09:30 名西高校体育館。
「錦戸!シャトル取ってくれ。」
練習の内の一つ、基礎打ちの際いつの間にか足元に他人のシャトルが飛んできていたようだ。
錦戸はそれを取り上げ、持ち主に投げる。
「ありがとう。」
お礼が返ってくる。
2014/08/06 12:23 バス内。
一番最初にバスに乗った錦戸は空いている二人席に腰掛ける。
続いて隣にチームメイトも乗りあわせる。
「松田か。」
隣に乗り合わせてきたのは同じ男子バドミントン部の松田正平。情報技術科、つまり藤井と同じクラスだ。
「そういや、前から聞きたかったんだけど錦戸って何で報術(情報技術)科に来やんだん?」
「んー・・・。」
この手の質問は最近特に増えている気がする。
「数学が苦手だからな。」
「・・・なるほど。」
あまり納得した様子は見せない松田。すると、何を思ったか不意に
「そういや、錦戸。なんかいろいろ研究してるらしいじゃん?」
と問いかける。
恐らくみらい技研の事であろう。
まぁ・・・と錦戸は少し素っ気無い様子で返答。この感じはいつものため割と松田はそれにさして嫌な表情はしない。
「どんな研究だよ。」
「ものによるな。俺はパソコンとかの関連だし右腕はこの前空撮可能なラジコンヘリを開発していた。」
「なぁ、それ・・・俺は左腕になれないのか・・・?」
□■
2014/08/06 14:30 開発所。
「男子のが気楽で助かるよ。最近は女子ばっかで・・・しかも顔のレベルが高いおかげで・・・。」
海がどこか喜ばしい表情で松田を受け入れていた。
どうも、海は暇らしくひとりでに開発所に入り浸っているらしい。もっとも、錦戸も海には合鍵を託してあり彼だけは一人で開発所を使ってもいいようにしていた。
それにしても海の実家からは自転車で30分。近いとは決して言えない距離。
平日や夏休み前の土日に錦戸の誘い無く開発所に来ることは決してなかった。
何が彼にそんな原動力を与えているのかは錦戸自身にも理解出来てはいなかったが、別に錦戸はそれでも構わなかった。
「さ、松田。入れよ。」
「お、おう。」
案外まともな施設だったためか?
松田は少しキョトンとした様子で靴を脱ぎ、丁寧に揃え畳に足をつける。
「ふぅーん。パソコンまであるのか。」
開発室は開けっ放し。ちらりと作業PCが見えたのだろう。そう呟く。
「に、二台か・・・。」
今度は談話室の奥にあったネット用PCを見てそう驚く。
「すげぇーな。ここ、錦戸の実家?」
「正解のようで違うな。権利は親だけどオーナー?は違う人物らしい。」「らしいって・・・。」
そんな会話が続く。
「あら・・・どちら様?」「あ、松田くん。」
見慣れた女子二人が正面玄関から入ってくる。
加藤と藤井だ。
―これまた変な組み合わせだな・・・。
バタバタとエンジニアが増えたおかげでコミュニティがおかしく見える。
「私は加藤加奈子。20歳。」「あ、松田正平です。」
「別に敬語じゃなくても結構よ。」
加藤は開発室に入ると食器棚から自分のコップを取り出す。
そして、クーラーボックスの中からコーラを取り出しコップに並々注ぐ。
シュワシュワと炭酸独特の音が鳴って小さな水しぶきがはねる。加藤はコップを口元にひきつけクッとそれを傾ける。
自然とコーラが加藤の口に運ばれ体内に入っていった。
「うまし!」
「あんなハタチも嫌だけどな・・・。」
錦戸はそんな加藤の発言を聞いてため息混じりに捨て台詞と云わんばかりの発言をする。
「何だって・・・?」「何でも無い。」
錦戸は松田を連れて開発室へ入る。
そして、アルタイルの前に立つ。
「何だ?このトグルスイッチのたくさんついた箱は・・・。」
「冗談だと思うなよ・・・?こいつはアルタイルと言って・・・未来を見る機能があるんだ・・・。」
「・・・それ本当?」
「あぁ。実際にエンジニアの中にはこれで未来予測をして命を救った者もいる。」
松田の顔は本当に困惑めいた表情だった。
どうして自分にそんな話をするのか。正直答えは自分も彼らの仲間だからだと松田は素直にどこかで喜んだ。
「こいつは・・・アルター204か・・・?」
「え・・・・・・?」
錦戸の中で時間がゆっくりと変わる。
―なんだ・・・・こいつは・・・・何をいっている・・・・!?
そこで不意に脳内を漂った見知らぬ一人の人物。
「お前・・・・まさかゲイツか!?」
「ゲイツ・・・?」
「アルター204のソースはそいつから聞いた!アルター204にそんな機能が付いているのを知っているのは世の中でも少ないだろう!」
「いや、俺は父親から話を聞いただけだ。父は・・・オールニューネットという会社でアルター204の管理をしている。」
国家機密を簡単に話すだと!という感じでもあるが錦戸にとってはそんなことどうでも良かった。
「父親は!?生きているのか!?」「人聞きの悪いことを言うなよ!生きているに決まっているだろう!?」
熱くなる両者。
松田が心を落ち着かせるためか息を吸って・・・吐く。
すると、こんなことを言い出す。
「実は今海外出張中だ。行き先は帝国とまで言われたビットソフトの本社だ。」
「・・・BSか・・・・・。」
錦戸の中に眠っている不安が再び呼び覚まさせられる。
何か暗い、見えないものが確かに動き出している。
「その出張。確かな安全は・・・?」「実は親父の書斎で英文の手紙を読んだ。BSからのな。全ては把握できなかったが・・・緊急事態という単語だけは読めたよ。」
「俺達が今思っていることは同じだと俺は勝手に思っている。」
錦戸は突然真っ直ぐ松田に送っていた目線をアルタイルに落とす。
自然と釣られて松田も落とす。
「このメアドにメールを送るんだ。」
錦戸はアルタイルのメアドを差し出す。松田はそれを暫し見つめ直後にガラケーをポケットから取り出す。
マナモードか自分で設定したのかビープ音を鳴らさずカチカチという音がだけ聞こえる。
「あんたたち、何してるの!?」
直後に加藤が開発室へ飛び込んでくる。しかし、時遅し・・・。
「送った・・・・ぞ?」「お、送った!?あんた、あれだけアルタイルを使うなと!」
「何故だ?何故変えるなと?理由があるのか?」
「・・・・・・未来は過去より変えやすいわ。いつかその身を持って体験しても私は知らないわ。」
ブーブー。
松田の携帯が振動する。
アルタイルからの受信に違い無い。
「2014年8月9日。オールニューネット社、本社にてアルター204の作業中に死亡▽」
「・・・改変不可能・・・・!?いや、知った上で変えることは簡単だ・・・。手を打とう。本当に事故か・・・?」
錦戸はもう一度同内容に死因の記載も要求する文面に変更する。
「松田幸平の死の原因。で良いか?」
「あぁ。」
加藤もそれを見守る。
ブーブー。返信が来る。
「作業中にアルター204の自己防衛機能が作動し死亡ってなってる。」
「・・・オールニューネットの本社はどこだ。」「ここから特急で1時間ぐらいだな。」
談話室の海がそう大きな声で言ってくる。
特急で1時間ということは隣の県か。確かに隣の県は都会だけあって納得も行く。
デッドラインは?と錦戸は松田に聞く。
「午後・・・5時半だな。」
「朝から行けば食い止められるか・・・?いつもはどこへ出勤してるんだ?」
「一応この県の支社だな。」
「でも、行ってどうするの?車でも押さえないと本社に入られたら私達では中に入れてもアルター204までたどり着けそうに無いわよ?」
今まで反論ばかりしていた加藤がそんなことを告げる。
確かに加藤の言うことは正しかった。仮にも国家機密だ。そんな簡単にそれが見つかるわけが無かった。
「それに、オールニューネット社の本社は一部じゃ迷路みたいな構造だとかって話も聞いたことがあるぞ?」
海がネットから仕入れたのか、そんなネタも話す。
「いつも支社に行くときは車か?」
「そうだな。ついでに言うなら旅行とかも大体車だ。」
「加藤、運転出来るのか?」「出来ないわ。」
加藤はきっぱりと答える。
「それにこちらで確保されればきっとオールニューネット社は必死で探すわ。デッドラインである5時半を超えればどうかしら?」
「渋滞を起こさせる・・・と言うことか・・・?」
加藤の提案に錦戸の補足が入る。
まぁ、そんな感じね。と加藤もそれを良しとする。
「でも、どうやって起こすの?渋滞なんてそう簡単に起きるものじゃないでしょ?」
藤井までとうとう会話に割り込んでくる。
それに・・・と松田は何かを付け足そうとする。
「親父はアルター204に一際感情移入している。きっと高速と一般道。使い分けて時間には本社に到着しそうだな・・・。」
皆は一斉に黙り込んだ。
「道路、いや市街地周辺を押さえる方法なんて無いぞ・・・?電車を止めるならばテロ予告でも送りつければいいだろうけど。」
「それよ!!」
加藤が大きな声で錦戸の言葉に賛同する。
「それよ!ってまさか・・・送るとか言わないだろうな?テロ予告。」
「えぇ。その通りよ。オールニューネット社は名駅のすぐ付近。あそこへのテロ予告を送れば周辺も閉鎖されるわ!」
「そこを・・・ってわけだ。おい、海。GPS用意できるか・・・?」
「3日・・・・何とかするよ。」
「よし、そうと決まれば早速行動だ!」
16:30 喫茶店エンゼル
「なるほど・・・ですけど、私にできる事はたかが知れてますよ?」
「構わない。あ、そうだ。店主はいるかい?」
「店主ー。錦戸くんが呼んでますよー?」
「ぬー?」
店主が奥の部屋から顔を覗かせる。
そして、錦戸の顔を見ると何か用か?と問いかける。
錦戸は少し深刻そうな顔で二人で後で話がしたいと言い放つ。店主はまぁいいだろうと再び奥の部屋に戻る。
直後に再びホールに顔を出し中森に1時間の休憩を許す。
「良かったな。暇なら走るか?」
「良いんですか!」
「あぁ。今日は走るだけだがな。」
錦戸たちはまだ日が残る田舎の農道を走る。
軽トラックや農機具があちらこちらで目立っている。
「ふぅ~結構走ったな。」
「そうですね。今年も熱いですね・・・。」
去年の熱さと比較しても結構張り合う様な熱さの2014年。
「ん・・・?」
そんな田舎の一風景には全く似ても似つかない人間がいた。
黒服にサングラスをかけた、明らかな外国人。がたいもかなりよく高身長。
「何だ・・・?」
一瞬だったがこちらの存在に気づいた素振りを見せる。
ここで中森を危険にさらすわけにはいかなかった。錦戸は直ぐに中森に走るよう言う。
中森は最初こそクエスチョンマークを浮かべたが直ぐに何かを理解し、走る。
17:00 公園。
「すまん。いきなり・・・。」
「良いですよ?元々走ってたわけですし。」
「あぁ。」
そこで公園の後ろ手にある公民館に設置された役所の広報装置が5時を知らせる。
「俺は・・・そろそろ帰る。エンゼルまでそう遠く無いだろ・・・?」
「はい。では。」
二人はそこで別れた。
21:00 自宅
錦戸はパソコンを開けていた。
「名駅に爆破予告ね・・・。」
そして、加藤の考えた作戦に少し苦笑する。
―大丈夫か・・・?この作戦・・・。
ブーブブ!
トレインが受信する。
「宿題どう?」
相手は澤田だ。「もう終了~」と返す。
最近みらい技研関係を除くと楽しいことは澤田とのトレイン程度だった。
しかし、それでも彼女は年上の男を好いている。
錦戸自身もそれを知っていた。
「ま・・・・俺がそれでよければいいのか・・・な?」




