episode07 疑惑のエラッタ
「今日は帰りなさいよ。戸締りは私達で何とかするし。」
さすがに見かねてか加藤が気を使い出す。
すると、丁度そのタイミングで海が現れる。しかも、何やら袋を提げている。
「な、何だそれは?」
錦戸は少し冷静になり加藤を退けて海に聞く。
「んー?こりゃ、電気だべ。」「電気?」
「ほら、開発所って暗いだろ?だから追加の電気。」
錦戸は天井を見上げた。天井には蛍光灯が二つ、横に並んでいる形だ。
しかし、談話室の広さとは比例しておらず窓を開け放ち外の光を足さなければかなり暗い。
さらに幸いなことに天井には追加の電気を引っ掛けられるフックまである。
彼らは早速作業に取り掛かろうとする。
「ちょっと待って!」
その甲高い女の声が談話室に響いた。
思わず海はびっくりしたほどだ。
「あんた、今日はかえりなs」「自分の体調は自分で分かっている。いつもの’発作’だ。もう問題ない。」
「発作・・・?」
「関係無い。」
錦戸のいつもと違う様子、声色、表情に誰もが黙った。
しかし、海に作業の手伝いを促され、皆が一斉に沈黙から脱する。
すると、作業に集中していて気がつかなかったが岡本と藤井が来たらしい。
作業を終わらせ、ソファーに腰掛ける。
11:30
「何だかんだで昼前じゃないか・・・。」
錦戸は談話室の奥の棚に置かれた電波時計の前でそう呟いた。
「お昼どうするの?」
いつものトーンで木村が話しかけてくる。
少し悩んだ様子の錦戸が出した答えは・・・。
11:40 喫茶店エンゼル。
「ホットドック6つね。」
店主はそう言うと厨房に立った。フライパンや包丁、諸々の調理器具を取り出す。
そして、キャベツを包丁で千切りを始める。その動きは鮮やかそのもの。
「店主。追加でホットドックを!」
と、丁度昼休憩に突入した中森も岡本の隣に座る。
「はいよ。」
その頃にはある程度の千切りは終わっていてフランクフルトを焼いている最中だった。
恐らく業務用なのだろう同じ様なフランクフルトが冷蔵庫に大量に入っていた。
肉が焼ける音がしっかりと聞こえる。同時に時々見えるいい焼き加減のフランクフルト。
3本ずつ焼いていて同様のアクションをもう一度見る。
すると、冷蔵庫から真ん中の切られたパンを取り出す。そして、それにキャベツとフランクフルトをはさむ。
また3つずつ電子レンジに入れて1分30秒。
合わせて3分後には6つのホットドックが出来上がる。
店主は〆にケチャップとマスタードをフランクフルトの上にかけ、皿に移すと盆の上に乗せ前に差し出す。
「ホットドックだ。」
錦戸は熱いのを少し我慢してそれを手に取り、次は口に運ぶ。
広がる熱さに加熱するように溢れる肉汁。そして、少し弱ったキャベツと絶妙にマッチするフランフルト。
それはまさにプロの技だった。
「どうだ?」
「う、うまいです!」
「んだろ?」
他の面々も言いたい事はまさにそれだったのだろう。
顔つきが一瞬で変わる。
一同が絶賛し、店主も満足げな表情だ。
12:05 開発所
「いやぁ明るいな。」
「そうね。」
一同は全員天井を見上げていた。
そして、錦戸はそこでエンジニアが珍しく全員集っていることに気がつく。
「そういや、今日は全員いるんだな?」
「ん?あ、ホントだ。」
どうやら、海も今気がついたようだ。
「知らない奴とかいそうだからな。自己紹介しとくか。俺は名西高校の普通科、錦戸直樹だ。」
「木村洋子です!高校は~なおと同じ名西高校。クラスは違うよ~。」
「俺は松永工業高校の電気工学科の中村海斗。パソコンにはさっぱりだけど電化製品関係は大分得意だから。」
「私は加藤。加藤加奈子。この中じゃ最年長かしら。今は夏休みだけど、京東大学の応用情報技術科2年。よろしくね。」
「藤井綾香です。錦戸くんと同じ名西高校だけど科は情報技術科。」
「うちは岡本奈津美。神部高校も普通科で海くんや直樹とは中学から同じです。」
「一通り終わったか・・・。」
一周ぐるりと自己紹介が終わる。
―ていうか加藤って大学生だったのか・・・。
いつも間にか壁も無くなり普通の友達のように接していた二人。
「すっかり元気みたいだね~。ゲームする?」
そんなことを考えていると木村が錦戸に話しかける。
あぁ。たまにはいいな。と返すとゲーム機を取り出す。
「ていうか、ドゥーステーション2とか持ってくる?ここ、ブラウン管テレビとか置いてあるっしょ。」
海の意見通り布団がおかれているところには隠れてブラウン管TVも見えている。
―なるほどな。
「だが、俺はパーゲーなんて持ってないぞ?」
大人数向けでは無くストーリー派の錦戸は一人向けの方が多く持っていた。
「まぁ、検討しておく。」
そういい残すと開発室へ飛び込む。
―汚いな・・・。
開発室を使うのはせいぜい錦戸か海程度。故に談話室の様に掃除をあまりしていない。
そこでアルタイルに気がつく。
「こいつは・・・誰が作ったんだろうな。」
錦戸は箱を撫でるように手を置く。
そして、修理した自分では無く製造した誰かが気になる。
「故意に乗せられた機能なのか?逆か・・・。そういえば・・・。」
錦戸は携帯を取り出す。
そして、ある奇特としている存在にメールをすることに。
相手は海草ちゃんねるに光臨していた謎の預言者:ゲイツ。
「アルター204について知りたいな・・・。」
To:ゲイツ
Sub:無題
Txt:アルター204をご存知ですよね?例の型番の件もアルター204内にあると言っておられましたし。
後は何も考えず待つのみ。
ブーブー!
―来た!
Txt:勿論知ってます。高い演算能力に加え人工知能が搭載されています。
「人工・・・知能・・・?」
すると、加藤が開発室での錦戸の様子を見てたのか「AI?」と突然話しかける。
「AI・・・そう言うなぁ。」
「恐らくアルター204に搭載さている人工知能は恐らく・・・そのファジー制御よ。」
「聞いたことはあるが説明を頼む。」
飽くまで聞いたことのあるだけの錦戸は黙って加藤の話を聞くことにする。
「1965年にロトフィ・ザデーによって提唱されたの。曖昧さを機械に委ねたのよ。例えば「アクセルをたくさん踏む ならば すばやく加速する」、「速度が少し遅い ならば アクセルを少し踏む、など」 みたいなね。」
「いわゆる。HAL8000ってこと?」「そうね、それとかシーネットとか。」
「それのが分かりやすい。」「そう。」
しかし、少し黙って錦戸は、実用化していたか?と加藤に聞く。
加藤も多少はと答えつつ国家機密を守るスパコンに搭載とは少し意味が分からないとも言う。
「ビットソフトとオールニューネット社は何を考えているんだか・・・。」
陰謀漂う二社に対しそう言う錦戸。
と同時に脳裏にチラつくあのメモ。
「ゲームでもするか。」
17:00
「皆帰ったか・・・。」
錦戸は家に今日も帰れないとメールを残すと荷物をまとめる。
そして、買ってきた夕食のカップ麺に湯を注ぐ。
5分止まる世界。
「自殺・・・か・・・。」
アルタイルの予言した岡本の死。それは何としても阻止する必要があった。
それが未来を揺るがす結果を呼んでも・・・。
そして、その原因も突き止める必要があった。彼女は開発所にきっと最期のコミュニティとしてきたのだろう。
「そんなことはさせないからな・・・。」
19:30
「そろそろ行くか・・・。」
錦戸は自転車に跨る。
―神部高校までは30分。暫く待つしかない。
20:00 神部高校 屋上。
神部高校の評判は良くなかった。それもあっておかげで学校は空きっぱなし。
ドン・・・。
何かにぶつかる。
「おい・・・お前・・・。」
―げっ!DQNかよ!
だが、話をそらす様に「岡本奈津美を知っているか?」と聞く。
するとDQNは少し顔を顰める。と同時に「あの女は・・・いい奴だ。」と答える。
何か違和感が沸く。
「ま、!」
何か悟った錦戸は直ぐに走ろうとした。
すると、ガッと腕が強い力で握られる。
「お前・・・・俺にぶつかっといて詫びも無しかよ。」「す、すまなi!?」
顔面の頬に走る強い何か。
そして、走る痛み。
「がっ!?」
直後に腹部に一蹴。同時にやってくる嘔吐感。
「うっ!」
「すまないは無いだろ・・・。それに勝手に話をそらしやがって。」
また来る衝撃。今度もまた腹部。
また蹴られたのだ。
「!?」
時間が目に入る。
―20:30・・・・・!?
錦戸は残り少ない力を振り絞る。
走る!
走る!
背後に近づく威圧感を無視し走る!
走る!
走る!
自転車に跨る。
「時間が無いッ!!!」
錦戸の脳裏にいたのは神部高校・・・ではなく中学だったのだ。
高校から中学までは自転車で1時間。
最早間に合わないレベルだった。
「どうして・・・!?アルタイルの予言が崩れた・・・!?」
―未来が変えられた?
無理に自転車を止めてメールをアルタイルに送信する。念のため起動しておいた甲斐があった。
やはり、場所は何故か高校から中学に変更されている。
必死に自転車を漕ぐ音が夜の田舎に聞こえ続けた。
□■
神部中学 屋上
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
岡本が静かに下を眺めている。
「もう・・・・・・終わりね・・・・・・。でも、どうして・・・あの人はうちが高校で今日死ぬって・・・・・・・・・?」
ガチャン!!
屋上の扉が開けられる。
「岡本・・・・・・・!!」
「直樹!どうしたん!?」
全身の傷が暗くても分かった。
21:33
「お前、死ぬ気だったんだろ?」
「・・・・。」
岡本はコクリと頷く。
「どうして?」
「中学の頃から続くいじめ・・・。」
「中学から・・・!?」
それは錦戸にとって初耳だった。
彼なりに彼女は見ていたつもりだった。それが、この結果だったのだ。
「そんな・・・感じではなかった・・・だろう?」
「ふふ。分かってないね。最近のいじめは進化しているのよ。」
「・・・・・。」「でも、直樹がそんな困った顔をする必要は無いわよ。」
「するに決まっているだろう!!!」
錦戸は全身が痛むのを無視しつつそう怒鳴りあげた。
流石の岡本も少し困惑した表情となった。
「お前、人が死ぬと知っていて・・・・知っていて止めないのか!?」
「どうして分かったの?」
「その質問に答えるには俺の質問にまず答えてほしい。誰に自殺を予言された?」
「・・・・突然、メールが来たの。」
錦戸はまた自分や周りの人間の背後に見えない存在がいると察する。
―・・・俺は・・・また何かを見落としている?
ここまで自分はいい気になって未来を変えてきた。それが正しいのか・・・。
人の命を救ったことに違いは無い。
「それで、直樹はいつから超能力が使えるようになったの?」
「あぁ。」
錦戸はアルタイルの経緯を説明する。
「なるほどね。そりゃ、すごいわね。」
「なぁ、」
「ん?」
お前もみらい技研のエンジニアにならないか?
□■
2014/08/05 14:30 コンビニ
「いてて。」
多少の治療は行ったがそれでも傷は今も引かない。
家に帰ってみてみると割りと激しく怪我をしていたのもある。
「2Lの飲み物二つほしいけど、サイダーとコーラどっちが良い?」
加藤が飲み物の入った冷蔵庫の下の方に収納されているのを座って見つめている。
すると、海からトレインが入る。
【すごいことが分かった。開発所に戻ったら説明する。】
―すごい・・・こと?
すると、そこで見慣れた人物が現れた。
「中森!」
「偶然ですね。エンゼル以外で出会うなんて。」
「あら、中森さん。」「そういうあなたは加藤さん!」
中森は錦戸のかごに入ったパーティー用サイズともいえるお菓子が入っていることに気がつく。
何かするんですか?と聞く中森。
錦戸は何かに気づいたようにこう言う。
「岡本、知ってるだろう?あいつの歓迎会をするんだ。中森も来るか?」
「え、でも私はみらい技研とは顔見知り程度だし。」「あら、なら中森さんもエンジニアになれば良いじゃない。」
「あぁ。それが良い。」
14:50 開発所
そこには中森の姿もあった。
「というわけでこの度みらい技研のエンジニアとなった岡本と中森だ。」
「「よろしく。」」
軽い挨拶が繰り広げられる。
すると、錦戸はコップを片手に持つ。
「乾杯!!」
「そういえば、今度新しいゲームが出るだろう?バイオヒルの。」
錦戸が海に訪ねる。
海はしばし考えた表情でそんな話も見たと言う。
すると、最初に反応したのは木村だった。
「え~それは買い!ですね~。」
「あぁ。今度のバイオヒルは何でも従来のFPS臭を消して初期3作の特殊なカメラワークと恐怖を一体化させた形にするらしい。」
「あー。海草ちゃんでもその話は話題になってたな。ゲーム板で結構レス来てた。」
皆が一斉にバイオヒルの新作を予想し始める。
「う~ん。このお菓子おいし!」
「うちも思った!」
「おいしいです!!」
木村を除く女子一同は錦戸の買ってきたプリンに賛美の声を上げた。
「んー今日はピザポテトあるじゃない。」
加藤が袋の中を見てそう呟く。
「うるさいからな。」
「あ、そう。」
袋を開けて頬張る。
「ん、この味よ!!!!」
「わっ!?」
皆が驚いた様子で加藤を見つめる。
「ふははははははは。」
「壊れた・・・。」
17:00
「それですごいことって。」
「これ、見てよ。」
「ん?」
パソコンがスリープから覚める。
そこにはネット接続に関するデータ。
「これがどうした?お前、そんなパソコン詳しくないだろ?」
「実はさ、ネットの接続が不安定でさ前にお前に教わったろ?それで確認したんだ。」
錦戸は前に海がパソコンを購入した際に教えた方法だった。
「このホストアドレス?allnewnetってなってない?」
「偶然か・・・?いや、確かに俺はここにネット回線は引いていないから・・・。」
「つまり、アルター204のハッキングは・・・。」
「仕組まれていた・・・・可能性はある・・・・。」




