episode05 勝利のプロトコル
喫茶店 エンゼル
2014/08/01 10:00
「遂に明日ロバーツとのバトルか・・・。」
海が心底不安そうな表情でコーヒーを啜った。
「大丈夫だ。アルタイルもきちんと勝ちを示しただろ?」
「ぐ、偶然外れるとか・・・奇跡とか!」
「大丈夫だ。」
すると、店主がおかわりをするか聞いてくる。
ここの店主は人が良い。おかわりも5杯以内ならば1杯分の料金しか払わなくて良い、らしい。
名前は伊藤忠邦。
「そのいかにも行き着けの店風に案内するのよせよ。初めて来たのはまだ1週間前でも無いだろう?」
「まぁ、そうですけど。細かいことを気にしてては駄目ですよ。」
「ごめんください。」
そこに静かな声が響いた。
聞いたことは勿論無い。カウンター席だったため振り向くと一人の少女が立っていた。
パッと見、年齢は恐らく錦戸たちとそう変わらないだろう。
「お。お前か?バイトにしたいってのは。」
「はい。兼ねてより連絡しておりました。中森ほのかです。」
思ったより静かな感じだ。かなりボーイッシュな姿をしているためハキハキした感じが見受けられたがそうでもなさそうだ。
最も人は見かけでは分からないことが多いともいえる。
「まぁ、面接はいらねぇ。こんな変な客を相手するんだが構わないか?」
というと店主は錦戸を指差した。
「んなっ!別に俺はおかしな客では無いでしょう!」
「十分おかしいだろ。何で上は作業服で下はジーパンなんだ。明らかおかしいだろ。ていうか。」
「も、もういいですよ!」
クスリと中森と名乗った女は笑った。
大丈夫です。と言うのを店主は聞き取り早々にエプロンを手渡す。
―エプロンあるなら自分も着ろよ・・・。
店主の格好は実にシンプルだった。まるで一人の客のように。
エプロンには喫茶店:エンゼルと刺繍されている。エンゼルは英語でさらに筆記体とお洒落だった。
「あ、店主。そろそろお暇します。」
「おぉ。何なら6杯目飲んでも・・・。」「2杯しか飲んでませんよ。」
付き合いきれんとばかりに錦戸と海は店を出た。
―しかし、こんな田舎の喫茶店にわざわざバイトねぇ・・・。コンビニのがバイト口があるだろう。
「なぁ。中森さんっていたか?」
「いんやぁ・・・。あんな奴はいない。いつ着たのか・・・。」
錦戸と海は一見変人だった。だが、それでも人脈を幅広く持っていたともいえる。
つまり、あの手も含め中学時代に名の知らない年上、年下などいなかったのだ。
「高校でこっちにってか?まさか。あるっちゃー。」
「放っておこう。他人に首を突っ込めるほど余裕も無い。」
海は仕方なしに首を縦に振った。
―そう、余裕などどこにも無い。
12:30 開発所。
「本当に大丈夫かなぁ~?」
「一応ゲーム機だ。基本操作は今からやる。」
木村の到着と同時に錦戸はゲーム機を取り出した。
ハードは携帯ゲーム機で幸いだったともいえる。早速ゲームを起動させる。
16:20
「ぷはぁ~疲れたッ!」
「俺もだ・・・。FPSはやはりどうも好きになれんな。」
錦戸はゲーム機を海に手渡す。
しかし、この数時間での木村の成長は素晴らしくかなり上達してきた。
これなら藤井を望まない結婚からきちんと救えそうだ。
「あれ、来てたの?」
すると、正面入り口から声がした。
加藤だ。
「あぁ。明日・・・だからな。」
「あんたの無茶な試合ね。」
「無茶では無い。」
そう。と言うと加藤は木村の隣に座る。
そして、ゲーム画面を覗く。
「ところで、大丈夫なの?」
「だから!」「そっちじゃないわ。アルタイルは本物だと私は分かっている。’あっち’の方よ。」
「なんともいえない・・・。」
加藤の言うことがアルター204のデータベースへのハッキングだと分かったのは一瞬だった。
錦戸としてはあの時恐怖3割好奇心7割だった。だが、今は違うと断言も出来た。
もう一度見ようとは決して思わなかった。
「もう一度見ようって気じゃなければ私は構わないわ。」
「分かってる・・・。」
―二度と見るものか・・・。あんなこの世の終わりの様な世界。
2014/08/02 プラネットゲーム本社。
「なるほど。特設ステージなわけだ。」
10:36
「今日は本社を開放して・・・。」
既に本社の控え室にみらい技研のエンジニア達が出揃っていた。
何でもワールドウォー2の実機プレイということで全国からゲーマーがこぞってこの田舎に来ていた。
その客の誰しもがこんなところに事務の本社があるとは知らず驚いていた。さらにはネットニュース「ギミック通信」の記者まで来るという異例ぶり。
恐らくワールドウォーの知名度とロバーツのそれとが示す結果であろう。
そんなところでFPS大会2冠王と対戦する素人。
王の絶対的勝利で終わると予想されている。
プラネットゲーム本社 控え室。
「ロバーツの動きはアルタイルが教えてくれた。奴は基本的に兵装を整える用意周到方。だが、唯一の違う点はスナイプを一切行わない。恐らくFPSというよりか潜入ゲームをやり込んだ賜物だろう。ほとんど挑戦者はその姿すら捉えられず終わっているらしい。」
錦戸が簡単に説明する。
それを不安げに聞くのはプレイヤーの木村。
「ゲームのルールは?」
「10VS10で全滅or司令塔・・・要はプレイヤーの操作するキャラクターが死亡した際。無制限だから時間切れを狙った戦法は出来ない。開始時間は13時きっかりらしいからまだ余裕はある。」
加藤は缶コーヒーのプルタブを引いた。
アルミの音がし、コーヒーの匂いが漂う。
「何、1VS10になってもやれるさ。」
錦戸は簡単にそう後押しする。コクンと頷くもののやはり緊張は隠せていない。
13:00
時刻なんて結局残酷で無常に過ぎていく。
当たり前だ。
ギャラリーも多かった。
当たり前だ。
先に出てきたのは木村だった。
パチパチと小さな拍手が迎えられる。一部では「可愛い」などと言う声も聞こえたが・・・。
それは次の瞬間かき消される。
パチパチパチ・・・・!!
と大きな声援と拍手で迎えられたのはロバーツ。
ロバーツの表情は余裕そのもの。綾香!荷物をまとめておけ!という言葉のらへんから負ける気など1mmも無いわけだ。
「ルールは10VS10の殲滅戦。プレイヤーの操作キャラいわゆる司令塔が死亡するとゲーム終了です。では・・・。」
司会者兼審判?の男が合図を始めるのに大きく息を吸い込む。
「スタートッ!」
その合図と共に両者の画面にもSTARTと大きく書かれた。
と同時に一斉に走り出したのはロバーツだった。
奴の策敵能力は凄まじい。必ず先に敵を見つけ出すのだ。
ニヤリとした表情のロバーツ。
一方の木村は紙を眺めつつ移動のみをしている。木村サイドの観客にとっては意味の分からない行動。
しかし、これは勿論錦戸の指示。
ロバーツには見つからない様に行動させている。
はっきり言おう。
最初に敵を見つけたのは木村だ。ロバーツの位置さえ知りえば奴の戦法、算段は崩れる。
後は司令塔をたたくのみ。
「おぉ!ロバーツ。流石だ。開始早々に2キルか・・・。」
ロバーツは全く隙の無い動きを見せていた・・・しかし、異変に気がついたのは直後だった。
早々に行ったキル。敵の多くは自分の手中にあると言っても過言でない。
だが、おかしい。
―・・・司令塔が見当たらない・・・?
カコーンッ!!
ドサッ。
「スナイパーかッ!」
ロバーツ側の兵士が一人。見えない敵にやられたのを直ぐに察したロバーツ。
―だが、それとて問題無い。
動けばこっちのものだ。
「そこだッ!」
右上のレーダーを意識しつつ横の建物に敵を察知したロバーツは敵を向かわせる。
ドッ!ッカーンッ!!
「!?」
直後に建物で激しい爆音。
「グレネードか!」
自分が見えていないという焦りから音を聞き取れなかったのが悪い方向に走ったのだ。
直後にダダダダダという激しい射撃音。
何とこの作戦に成功した木村は伏兵を利用して攻撃したのだ。
ロバーツは瞬間的に建物へ避難する。
が、ロバーツ側の兵士がことごとくやられたのもまた事実だった。
―なんだ・・・どうして・・・まるで行動を知っているかの様に・・・。
本当に自分はただのゲーマーと対戦しているのか?
まるで相手は預言者や神に等しい存在ではないのだろうか?とまで錯覚し始めていた。
その思考こそが狙いであり油断であった。
GAMEOVER
という英文字。
「ま、負けた・・・・・・・?」
―う、うそだろ!?俺が・・・負けた?
ザワリとクーラーが入っていたとは言え一同が感じる寒気。
あっさりと殲滅されたのだ。無理も無い。
「勝ち・・・それで良いんだろう?」
「あぁ。分かっている。プラネットゲーム社の買収は無しだ。」
13:30 控え室。
「あのありがとう。」
「礼なら木村に言ってやれ。」
藤井が木村に礼をすると木村はそんなのいいよ~と相変わらず能天気な返事をした。
加藤はどこかバツの悪そうな表情をしている。
「どうした?」
「何も無いわ。」
そう返されてはあ、そうとしか返せずその通り返した。
―だが、これで未来が変わったことは確実だ・・・。
そこで過ぎったのは一抹の不安。アルター204のデータベースのことだ。
―大丈夫だ。きっとただのまやかしに違いない。
ガチャン。
そうしていると突然控え室の扉が開け放たれた。
「ろ、ロバーツ!?」
一番扉の近くにいた錦戸が大いに驚いた。
だが、それは基本的に皆同じ。特に藤井は少し怒り交じりにも見えた。
「何の用?変な言いがかり?」
「ははは。俺はそんな恐ろしいことは言わない。そこの彼女に礼と一つ質問に来たんだ。」
木村に目線を送り、錦戸に何かを促す。
「何だ?」
「きさま、あの動きは常人には出来ない。何をした?」
「・・・目の前で起こったことを理解してくれないか?俺はそれ以上答える気は無い。強いて言えば・・・極めた。それじゃ駄目か?」
ロバーツは最初は確かに不可思議という顔を見せたが、錦戸がそれ以上答える様子を見せなかったからかそれで納得したからかそれ以上は何も言うことは無かった。
そして、藤井に一つ合図をしてそのまま部屋を出ていった。
何か張り詰めたものがプツリと切れる。
15:00 喫茶店エンゼル。
「へぇ~そんなことがあったんですか。」
あの後、プラネットゲームの本社で解散とし暇となった錦戸はエンゼルへと身を運んでいた。
「お?珍しいな。今日は一人か?」
錦戸が中森に今日の出来事を話している途中、店主が外の掃除から戻る。
そういう仕事はバイトの仕事じゃないんですか?と少々疑問になったため店主に聞く。
まぁ、そうなんだが動きたいからな。と店主は返す。
「そういえば、錦戸くんは運動はするんですか?」
「ん?一応部活やってるけど?」
「それ以外は?」
―やけに聞いてくるな・・・。
「走るぞ。」
15:30
「だからってわざわざ仕事放ってとは予想外。」
どうやら中森の趣味はランニングらしい。錦戸がたまにランニングするということで何故か急遽ランニングすることに。
「さぁて、走りますか。」
どちらが先に走るかで一瞬戸惑いが現れたがそこは錦戸がリードして走る。
後ろをつく中森。
「そういや、お前転校生か?」
「んー厳密には違いますね。私はこの街で探している人がいるんです。」
ゆっくり目のスピードのおかげで会話が弾む。
「誰かは聞かないがわざわざそのためにこんな田舎にか?」
「はい。結構重要かも。」
「なるほど。前はどこに?」
「前は大阪。」
「そんなに遠くはない訳だ。」
「んー・・・そうですね。あ!」
何かを閃いた様に一度立ち止まる中森。釣られてとまる錦戸。
どうした?と取り合えず聞く。
「この街を案内してくださいよ!」
「って言われても・・・。何も無いぞ?」
開発所付近と言うのは特に何も無い。
実際、自転車で30分のところにはスーパーや小さな商店街は存在している。
だが、この付近は田んぼと住宅のみ。あるのはせいぜいコンビニ程度。
そう言うと何でも良い、いつも来る場所を紹介してくれと彼女は頼む。
―行く場所ね・・・。
15:40 みらい技研開発所前。
「ほぉ~。ここで君らはいつも何か作ってるわけですか!」
「その堅苦しい敬語は寄せ。」
「ん~友達にもよく言われますが親にもこれなんで無理です。」
「あ、そう。」
―本当に変わった奴だな。聞いたら俺らとタメだって言ってたし。
外から開発所を一心不乱に眺めている。
錦戸は裏口に回り正面玄関を開ける。
「入れよ。」
「!」
顔にあからさまに喜びと好奇心が溢れている。
―そんな顔されたら開けずにいられるかよ。
「広いんですね。」
「あぁ。割とな。」
15:50 公園。
「公園なんて久しぶりだな。」
何を思ったのか中森は乗らずにブランコの前で座ってそれを指で揺する。
力を受けたブランコは少しだがゆれた。
その光景を見てまた変わってると錦戸は考えていた。だが、その隣のブランコに座る。
すると、その行動に次いで突いていただけの中森も立ち上がりブランコに腰掛ける。
「何も無いだろ?自転車があれば良いんだが・・・。」
「今度持ってきます。」
「そうしてくれ。」
すると、顔の輪郭をツーっと通って汗が地面の砂に落ちた。
今年は特に暑い。
「暑いな。」
半ば無常にそう伝えると中森も同意する。
「そろそろ戻ろう。4時前だ。」
16:05 喫茶店エンゼル。
「今日はありがとうございました。」
「いや、一人で走るより楽しいから大丈夫だ。また誘い誘ってくれ。」
はい!と返事をしたのを確認して錦戸も頷く。
そして、店主にも一礼して外に出た。
―まだまだ明るいな。
ブーブー。
すると、突然メールが来た。
「げ、ゲイツ!」
「あ、あの!」
「ぬわっ!?」
突然後ろから声がし驚く錦戸。
恐る恐る後ろ見ると先刻別れたばかりの中森。携帯を片手にしている。
「メアド!教えてください。」
「お、おう・・・。」
赤外線を使って早速交換する。
時代を感じさせるように未だガラケーの中森。それも結構年代ものだった。
交換が終わるとありがとうございますと言い残し再び店内に戻っていった。
16:15 開発所。
「ゲイツからのメール・・・・。」
将来の日本ねぇ・・・。メールにはあの時ハッキングを仕掛けた時と類似した内容が送られてきた。
ブーブー。
特に返信する気ならないうちにまたメールが来る。
片方は中森ほのかと書かれてる。
今日はありがとうございます!と書かれている。
―マメな奴だな。
こうして、この夏休み史上最も忙しかったであろう日が幕を閉じたのだった。
2014/08/03 13:00 開発所。
「ん?妙な客だな。」
そこには見慣れない・・・と言えば御幣が生まれるが久しく見る存在だった。
「不味かったか?」
開発室から顔を覗かす海に錦戸は首を横に振る。
ソファーに腰掛けて木村と会話しているのは錦戸と海と同じ中学で今は地元の高校に通う岡本奈津美。
「久しぶりだな。どうした?」
「ん?あぁ、ドラムの超人に曲入れてもらおうと。」
「んなッ!?」
錦戸は急いで開発室へ入る。
パソコンを弄っている海を後ろから眺めるとどう見てもダウンロードをしている。
「き、きさま!また曲を入れるのか!というかこの前もゲーム入れただろ!西方プロダクションとか!PC重なってるぞ!」
「んーまー気にするな!」
「気にするよ・・・。」
半ば絶望の表情の錦戸をこれまた半ば無視する形で出来たぞ!岡本を呼ぶ海。
チョコチョコと開発室に入る岡本。ノースリーブの服を着ているが手首をどう見ても隠している。
錦戸はディスプレイを見つめる海と岡本の目を覗って岡本の手首を見る。
さすがに四六時中手首を隠すのも難しいのかしてほとんど無警戒。
―やっぱり・・・・か。
あのあからさまな隠し方から予測できた。
そして予測どおり腕にはたくさんの傷が入っている。
「ん?どした?」
「いや、何でもない。」




