episode03 人々のオーバークロック
何も表示されなかった。というのがアルタイルの答えだった。
「どうなってるの?バグ・・・?」
「分からない・・・。だが、決して予測範囲外ということでは無いみたいだな。」
俺達の中で何かが揺らいだ。それは間違い無くアルタイルの機能の信憑性。
だったのだが、そこで一気に数日の疲れが体を支配していた。
ドッと荷物を背負っている様な感覚。
俺は今度こそは開発室のソファーに腰掛けた。
木村は相変わらずゲームをしている。
「何してるんだ?」
「んーと。バイオヒル。」
有名なホラーゲームだ。第一作は大人気で昔のハードにも関わらず俺もやってみたものだと。
少し昔を思い出す。
しかし、彼としては木村がそういったゲームをするイメージが無かった。
彼女の容姿はそう悪いとは思えないし絶賛リア充中ならば人間性としても何ら問題は無かろう。
だとしても彼女の言動や行動は天然を通り越してまさにおバカ。
怖がりな印象もあったのだが・・・。
「何だ?今のバイオはFPSみたいだな・・・?」
銃を基本的にぶっ放す様な感じ。第一作では確か奇妙なカメラワークに操作性の悪さがより恐怖を際立たせていた様な・・・。
重要なゾンビも映画さながらで少し拍子抜け。
「やる?」
ゲーム機を俺に差し出す木村。
俺はそれより全裸待機しているゾンビが出る第一作目の方がやりたいと言うと切り替えし拒否する。
「ていうか、そんな一般ピーポー向けゲームなんてしない。」
「あんたも一般ピーポーでしょ。」
どうやら疲れを感じていたのは錦戸だけではなかったようだ。後ろから同じくバイオヒルを除いていた加藤が錦戸にそう突っ込む。
「馬鹿。今の俺は預言者の身になるかならないかの瀬戸際。そう―アルティック・ファクターに立っているのだよ!」
「アルティック・ファクター・・・?」
「んー錦戸の造語だね。瀬戸際と書いてアルティック・ファクターみたいな・・・?」
―ぐぐぐ。その強敵と書いてともと呼ぶシステム止めろ・・・。
「ていうか!故人と書いてもともと呼ぶんだぞ!」
俺は奇妙なことをそう訂正した。
「確かにそうだけど、なぜ今このタイミングで?」
「と、特に意味は無い!」
一同は変なものを見るような目で見る。
ピンポーン。
トレインがチャットを受信した際の音が談話室に響く。
最初は別の誰かだと考えたが咄嗟に自分の腰あたりから聞こえたことに気が付き携帯を開く。
「・・・男女バドミントン部?」
それはグループの招待だ。
―誰がいるんだ・・・?
出来たのがいつかは知らないが取りあえずメンバーを見ると既に10人ほど人間の名前が表示される。
―まぁ、いいか。
そう考え錦戸はすぐに招待に応じた。
「何だったの?」
人のことにはすぐに興味を持つ加藤が錦戸の方に視線を送る。
「あぁ。部活のトレインだ。」
あ、そう。とだけで会話が終わる。すると、今までゲームに勤しんでいた木村がんんっ!と声を出して伸びをする。
「なお~。コンビニ行こう!」
と、突然のお誘い。
しかし、ほとんどのものは先ほど実験で買い揃えたと言うと早々に立ち上がり袋をあさる。
すると、ポテトチップの袋を取り出す。
錦戸が買ってきたのは海苔塩と通常の塩。海も錦戸もそれで事足りたからだ。
木村はいつもコンソメだったため帰る直前に買っていったきたのだ。
「あら。ピザポテトは?」
加藤が袋をゴソゴソと覗き込んでそう錦戸に問う。
買ってない。とすぐに言い返すと加藤は何故か錦戸の海苔塩を奪い取る。
「なっ!一般ピーポーの分際で!」
「一般ピーポー言わない!そして、あんたも一般ピーポー!」
「だからと言って俺のポテチを奪い取っていいことは無いだろ!」
「あんたがピザポテトを買ってこなかったからでしょ!」
と、過激化する口論。
「そっちが言わなかったんだろ。」という錦戸のトドメの言葉で口論は終止符を打たれる。
ピンポーン。
またしてもトレインの通知音。
今度はみらい技研を優先するために後で送ろうと今は軽い無視をする、
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンピンポーン。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
ピンポーン。 ピンポーン。
ピンポーン。
「う、るっさい!!!!!」
錦戸はとうとう携帯を手に取る。
そこには男女バドミントン部の会話が早々に成り立っていたのだ。
「」
あまりの惨状に錦戸は半ば絶句していた。
「通知切れば?」
「あぁ。そうする。」
海のアドバイスを元に錦戸は設定画面を開くため一度トップに戻る。
すると、友達追加のお知らせが一件入っていることに気が付く。
―ん?
そこには本名で「藤井綾香」と書かれている。
聞いたことの無い名前だった。だが、男女バドミントン部にも同名があるからして恐らくば同じ部活の人間なのだろう。
だが、その処理も踏まえ今は一度通知を切る。
―お?
錦戸は画面を切る直前にまた別の人物からトレインを受信していることに気がつく。
彼はそれが自分が勝手に想いを寄せている人物だと知る。
―澤田さんか。
澤田眞子という名の彼女は本当は先輩を好いていると知っていた。
しかし、それでも彼は彼女を一途に想っていた。
だから、直ぐに返事を入れる。
その後、携帯を閉じ早速ポテチの袋を開ける。
パリッ!と心地よい音立てると同時に口の中に広がる海苔と塩の加減良く交じり合う。
「うんまい。」
「一つくださいな。」
木村がコンソメの袋を差し出し交換を促す。
しかし、この状況で一人だけポテチを食べていないものがいた。
「ほら。」
むすっとした表情の加藤は無言でそれを受け取った。
「海苔塩も・・・悪くないわね。」
2014/07/26 21:11
自宅。
―む。そういえば藤井という女からトレインの申請が着てたんだな。
通知を切って早5時間近く。錦戸はトレインのアプリを開く。
チャット99+
となっている。
「一体どんなに会話してたんだよ・・・。」
少し苦笑しつつ会話の内容を見る。会話自体は錦戸自身に向けられたものは無くわざわざ返信が遅れた事に侘びを入れる必要は無さそうだと判断する。
―んーっと。誰か知らないし・・・どなたですか?っと。
頭で文面を考えつつそう携帯に打ち込む。
ブーッブブ。
「早いな。」
直ぐに返信が届いたことを察し携帯を開く。
『藤井です。始めまして・・・では無いんです。』
「奇妙なことを言うな・・・あー・・・。」
それは数ヶ月前。彼の友達の一人が藤井と付き合っていたときに一度チラっと見たのを錦戸は確かに記憶していたのだ。
しかし、名前すらも知らなかったので何となくだけだが察しをつけることしか出来ない。
『何となく・・・合ってるとは思います。』
『一回会ってますしね。』
―一回ていうか見ただけだろう・・・。
『ところで』
文面を考えていると続けざまにそう帰ってくる。
『風の噂で聞いたんですけど、パソコンに詳しいんですか?』
『そこそこには。』
誰に聞いたのだろう。そこまで他人に言いふらせてはいない様な気がするのだが・・・。
と少し返信の文面に悩む。
『PHPのレポート手伝ってもらえません?』
―それ普通科に頼むことかッ!?
しかし、断る理由も無く幸いにも木村と藤井は同じ中学だった様子で開発所に来るように指示した。
2014/07/27 09:50
「ほうほう。これが・・・。」
藤井は来るなりグルリと開発所を眺める。
「で、レポートだったな。何するんだ?」
「んっとー掲示板作って起動するからしいんだけど。」
「なるほど。じゃ俺は向こうで掲示板作ってくるからこっちで木村と待っててくれ。」
俺はそう言うと直ぐに開発室へと入り込む。
パソコンを起動させ、暫く待つ。
それでーこっちが食器棚!
という木村の能天気な声が聞こえる。
話の内容からして恐らく開発所の案内をしているんだろう。
―さてと・・・。始めるか。最初は>?から入って。
そこで周りの音を遮るように俺はヘッドホンをつける。お気に入りのロックを聴くためだ。
ロックの中でもオルタナティブが好みでシンセサイザーの音が聞こえる。
2014/07/27 12:20
「さてと・・・。」
PHPのところだけ作成し残りはビジュアルにあたるHTMLのみ。
開発所と談話室を区切る扉を開けるとそこにはエンジニアが皆そろっている。
「アルタイルなんだけどさー。」
開口一番海が話しかけてくる。
「何だ?」
「アイデアがあるんだわ。」
電気製品には卓越して詳しいがパソコンにはめっきりで出来るか分からないのだがと後で付け加える。
「メールでアルタイルを動かせないかな?」
「あーどうだろうか。どう思う。加藤。」
ピザポテトを頬張っていた加藤はそれら全てを飲み込み回答する。
「出来ない感じはしないけれど工夫が必要そうね。任せる。」
―な、投げやりだな・・・。
すると、向こうで木村と藤井がごにょごにょと話しているのが見える。
「ねぇねぇ。そのアルタイルっての見せてくんない?」
藤井が開発室に目をやりながら錦戸に頼む。
しかし、錦戸は首を横に振る。
「えぇ!?何でー。」
「一応部外者だからな。」
すると、木村が「じゃあ綾ちゃんにもここのエンジニアになってもらおうよ!」と言い出す。
確かに情報系の科にいることは確かなため構わないのだが・・・。
「分かった!良いだろう!」
錦戸は大きくアクションを取り、指を差す。
彼の癖で指を差すときは銃の構えをするのがここでも顕著に現れる。
「アルタイルって未来が見えるんだよね。」
「あぁ。見たい未来でもあるのか?」「・・・・。」
何故かそこで途切れる。
―何だ・・・?
あることにはあるが話せない・・・という感じ。
2014/07/27 17:40
「さてと・・・俺もそろそろ帰るか。」
時刻は既に6時前。あまり遅くなると後々面倒だと考えた錦戸は荷物をまとめていた。
「あーあ。ゴミが・・・・。」
散布しているゴミを集め一つの袋にまとめ、一人ゴミ集積所へと向かう。
―そういえばアルタイルのバージョンアップ・・・。
数時間前に海に言われたアイデアを思い出す。
「結構大変そうだな。メールで動かせる・・・と言ってもなぁ・・・。」
―はっ!急がなければ!
思考にふける癖をよく理解していた錦戸は急いで自宅へ向かう。
2014/07/27 20:30
カタカタ・・・。
室内にはパソコンのタイピングの音だけがあった。
時折氷が液体と中和される音もする。
「バイオヒルの新作が製作中だとか言ってたな・・・。今度はPCか。」
お得意のネット情報を経由していろいろと情報を手に入れているのは勿論錦戸。
―そういや木村がずっとやっていたな。
今日の昼間の出来事を思い出しつつさらにページを開く。
「でも、何か面白そうだな。」
すると、今までの画面とは少し変わりザ・PCとも言えそうな画面を開ける。
―前々からバイオヒルのプラネットゲーム社には別の意味でもお世話になっていたからな。
と、サーバーを捜索しだす。
「こういう能力は自己満足とは言えど役に立つな~」
やけにテンションが上がりつつ調子に乗りサーバーのいろんなリストを見て回る。
―ん?
そこで異常に気がつく。
「『プラネットゲーム社。ビットプロダクションからの買収。』・・・?」
「初耳だな・・・。」
ビットプロダクションとはPC市場を半ば独占しているとも言える帝国・ビットソフト(BS)の子会社でゲーム専門。
何故、そのビットプロダクションが国内シェアでかなり上位に食い込むプラネットゲーム社を買収しようとしている?
その疑惑が膨れ上がる。
―バイオヒルは大ヒットだった。それだけじゃない。累計200万本の大ヒットだった『モンスターイーター』もある。
そんな大きな会社が何故買収をかけられる?
「さっぱり分からん。」
そう言って錦戸はブラウザを閉じる。
代わりにメモ帳を開ける。
「アルタイルの遠隔操作にはアルタイル自身の機能不足がある。」
―だが、ネットには接続されている。それを応用すれば良いんだ。
2014/07/29 12:00
みらい技研開発所前。
「あいつ来ていないわね。」
「うーん。メールもトレインも電話も通じないんだよね。」
いつも正面から入る二人は未だ正面が閉まっていることから錦戸が来ていないと推測していた。
木村も含め昨日は二人とも用事で開発所には来ていなかった。
□■
「ん~・・・・。はっ!?」
俺は途端に目を覚ました。
そこは見慣れた風景とも言える。自宅・開発所に最も近い最寄り駅。
それは山の頂上に存在する。その中腹地点とも言える場所に俺は立っていたのだ。
中腹ともあり高台から下を覗くことができる。
「珍しいな・・・国道に車が走っていない。」
中腹の高台から望む国道にはいつも車が走っている。そこに一台も存在しないのだ。
さらにそれだけでは無い。山麓地点には田んぼが軒並み並んでおり大体は仕事をする姿が見える。
暑いとは言えそれは誰しも職業として習慣のひとつだから。
その姿一つすら無い。
極端な恐怖。異常。そういった類の言葉なら何でも入った。
―そうだ!駅なら・・・。
俺は咄嗟に携帯を出す。
11:20
電車は学校方面行きに33分に急行が存在する。
俺は直ぐに走った。距離にして500mも無いだろう。走って5分。
タタタタタタ・・・。
いつかの日の様に俺は階段を駆け上がった。
と同時に【間も無く4番ホームに電車が参ります。黄色い線の内側に・・・。】というアナウンスが入る。
―電車がく・・・・・・・・・・・・・・こない・・・・・・!?
奇妙なことにあれだけ確かな時刻に現れる電車が来ないのだ。その姿、音すらトンネルの向こうから聞こえやしない。
直ぐ後ろの職員室をたたいた。
返事は無い。
無理にこじ開ける。「人はいない・・・・。」口に出して呟いた。
―そうだ!警察ならば!!
プルルルルル・・・。
だが、永遠に続くコール。
焦りが俺に追いつく。「なんだ!どうなってる!」
俺は絶望を半ばに電話を切った。すると、今度は電話がバイブ音を立てて着信する。
「はっ!もしも~~~~~~~~~~~~~~・・・。」
□■
2014/07/29 12:00
「しも・・・うわぁ!?」
【もしもし!って!中にいるの!?】
どうやら、客人は既に外で待機している様子。
正面玄関の鍵を開けて錦戸は眠い目を擦った。
「顔洗ってくる。」
客人である加藤と海と入れ違いで外にある井戸水を汲んだ外付けの洗面所へ向かう。
食器棚に一緒に収納してあった歯ブラシと歯磨きを手に。
12:05
「泊まってたの?」
「あぁ。親には許可を取ってあるから問題ない。」
「何してたの?」加藤は俺の疲れきった顔を覗きながらそう質問する。
俺はあくびを口で抑えながら開発所の扉を開け放った。
真夏だけあり熱気が入り込む。
アルタイルの電源を入れる。起動を確認した時点で俺はネットに自動接続の設定をする。
CPUが唸りを上げる。
「mirai_2014@future.co.jp」と書かれたメモを加藤に渡す。
何これ?と質問する彼女に錦戸はそこに知りたいことを書いて送れと指示する。
すると暫くすると「すごいじゃない。」と携帯の画面を見つめつつ開発所全体に聞こえる様な声で彼女が賛美する。
「アルタイルを手動でつけることを除外すれば手間が省けたし、外でも使うことが可能になったわけだ。」
「ほう。すごい。」
海も加藤の携帯の画面を見つつ賛同する。
ブーッブブ。
すると、俺の携帯が机の上で振動する。
【あの・・・。】
という始まりの言葉をしてきたのは藤井綾香。
【明日。下記の住所に来てもらえませんか・・・?】




