episode02 日常のオーバークロック
喫茶店エンゼル。
「俺も初めて来たな・・・。」
店内には数名の客。
―こんな田舎によく客なんて来るな。
辺り一面の田んぼが窓から覗いているのを確認しながら店内に客がいることが逆に怖かった。
「俺はまだみらい技研が一人だった頃によく来た。」
「へぇ~なおが一人の頃って?」
木村はどうやらその話が気になるらしく錦戸に聞く。
錦戸はいろいろ考えた表情でだったものの。
「最初の一ヶ月は俺が一人でやっていたんだよ。」
とだけ言う。
みらい技研は2013年の夏ごろに誕生し早1年。
「しかし、アルタイルのあの機能。考えれば考えるほど意味が分からん。」
「へぇ。気になるわね。」
「ふむ・・・・・・・・・・・・・・・・ってどなた?」
四人用の席で3人。1席空くで合っているのだがそこには見慣れぬ女。
ざっと見て16の代である俺達より少し年上にも見受けられる。
□■
2014/07/25 みらい技研
「駆け込んで申し訳無いです。」
加藤加奈子と名乗ったその女は彼らよりも4つ年上の今年20歳。
現在はIT企業に身を置いているとかどうのこうの・・・。
「なーるほどね。これのモデルってアルテア8800かしら?」
「アルテア8800?」
錦戸以外はその名前に面識は無いらしい。加藤に打って変わって錦戸が説明を始める。
「簡単に言えば世界で最初のソフトを起用したパソコンってところかな。」
「世界初のパソコンと言えばエニアックでしょ。」
エニアックと言えば第二次世界大戦直下で弾道ミサイル計算のために製造されていた大型コンピュータ。
「エニアックとは違う。パーソナルコンピュータ。つまり一般消費者向けのコンピュータとはアルテア8800が最初だといわれている。」
「そう。特に当時の※ビットソフトの社長の出世作とも言えるわ。」
「?アルテア8800ってビットソフト開発じゃないですよ?」
加藤の付け加えに海がスマホ片手にそう告げる。
「えぇ。正確にはBASIC言語を初めて搭載させたって意味合いね。アルテア8800本体の開発者はパソコン業界を離れ最期まで内科医として働いていたわ。」
「1週間でアルテア8800対応のBASICソフトを作成した逸話は有名ですから。」
「1週間!?」
海と木村は驚いた表情だ。
―こいつらには世界初だのとかいうよりこっちのが説得材料になりそうだ。
「ですけど、モデルはそれでもこいつは結構違いますよ。」
「そうみたいね。キーボードの代わりにトグルスイッチを本体に設置。元々結果はモニターさせる予定だったのかしら。」
「LEDの発光ライトでも出せるようにはしていたみたいです。」
加藤は説明書を片手にアルタイルと見比べている。
「よし!」
と、言うとアルタイルの電源スイッチに手を伸ばす。
「あ、俺がやります。」
アルタイルの使い方は俺のが詳しいといわんばかりに錦戸がアルタイルの前に座る。
トグルスイッチを入れ、電源が入る。
同時にモニターをUSBインターフェイスと接続。モニタリングも開始する。
デスクトップなど存在しないためモニターにはコマンドプロンプトをあらわす黒い画面のみ。
カチン。カチン。カチン。カチン。
ネットを自動で接続させるコマンドを入力する。
0101010001011001010101000110000000111001100101010010100000110010000100100100101001010101000101100101010100011000000011100110010101001010000011001000010010010010100101010100010110010101010001100000001110011001010100101000001100100001001001001010010101010001011001010101000110000000111001100101010010100000110010000100100100101001
あの時と全く同じマシン語が出現する。
「確かにこれは説明書には記載されていないわね。」
「はい。」
錦戸が短く返答する。
マシン語が消え、コマンドプロンプトは入力を待機している。
「2014/07/25/PM17:00 Yohoo!トップ」
と、何故か手馴れた様子で入力すると直ぐ戻るトグルスイッチを入れる加藤。
「ねぇ。私の推測が正しければ・・・。」
時刻は丁度16:50分。
通常のパソコンのネットも開き、Yohoo!トップニュースの画面で待機する。
毎日17時に更新するそこを開きつつ、アルタイルに接続してあるモニターを見る。
17時00分更新
トピックス
自由党、3党協議から離脱へ
米女優の隠されていた幻のカルテ
無事宇宙へ!
マックス弁当を家宅捜査
人気アプリ「トレイン」利用者数1億突破
Jリーグの試合が今年は人気
▽
とモニターには叩きだされている。
「後5分と言ったところか・・・。これで何がやりたい。」
「概ね分かっているでしょう。」
5分なんてあっという間だった。
2014/07/25/17:00
F5ボタンを一つ押し。
リロードさせるYohoo!のトップページ。
そして画面に浮かんできたのは・・・。
17時00分更新
トピックス
自由党、3党協議から離脱へ
米女優の隠されていた幻のカルテ
無事宇宙へ!
マックス弁当を家宅捜査
人気アプリ「トレイン」利用者数1億突破
Jリーグの試合が今年は人気
という文字。
「ま、まさか・・・こいつは・・・。」
「私も最初は冗談だと思っていた。」
「おぉ~」
「み、見えない・・・。」
一同が驚いた様子で各々の感想を述べる。
唯一見えなかったと言う木村も後で見せると「すごいね~」などと能天気なことを言っている。
「も、もしかして・・・俺達はとんでも無いものを修理したのか・・・?」
海はどこか武者震いした様子で画面を見つめている。
「あぁ。間違いない・・・。これは未来を見る力がある!!!」
□■
2014/07/26 10:00
「んー錦戸は?」
「三者面談だってさ。」
みらい技研の開発所には海と加藤の姿だけがあった。
肝心の創設者である錦戸と木村は二人揃って三者面談という状態。
ギシッ。
海は奥でパソコンを弄っている加藤を他所に談話室のソファーに腰掛けた。
そしてお得意のゲーム機FSPを取り出し狩りに出かける。
昨日の熱はどこへいったのか・・・。
その場のノリでみらい技研のエンジニアとなった加藤とほとんど初対面の状態の海はどこか居心地が悪かった。
「えっとー海くん?」
突然呼ばれ「はいはい」と開発室に入る。
「アルタイルの実験をしてみたいんだけど構わないかしら。」
「俺は構いませんけど、それは直樹が着たらやりましょう。」
「そうね。」
2014/07/26 13:30 開発所
「よぉーっす。」
「海く~ん」
ここで主役の錦戸が開発所に現れる。どうやら木村というお土産付の様子。
「時間一緒だったんでな。この後暇だというから連れてきた・・・。実験するんだろ?加藤さん。プランは?」
すると、待ってましたと言わんばかり加藤は紙を一枚差し出す。
飲み物
食べ物
シャンプー
と3つ書かれているその紙。
「これはお買い物メモね。」
「・・・なんだ?シャンプーほしいのか?」
と錦戸に聞かれると加藤は無表情で「そんなわけ無いでしょ?」と言い返す。
あ、そうとしかいえない錦戸は説明を続けるように促す。
「で、この3つを買う順番を自分で決めて。」
「あ、なるほど。買う順番を予測するわけだ。」
海がポンと手を打ち加藤の考えを察したように聞く。
加藤は頷く。
「扉の前に立ったら立ったと言って!」
「了解。」
2014/07/26 13:50 開発所前。
「立ったぞ~。」
―何から買うかな・・・。シャンプーか?
取りあえず自分が読みたいというのもあって漫画雑誌を脳内で即座に思い浮かべる。
―まぁ、後で決めるか・・・。
2014/07/26 13:50 開発室。
立ったぞ~という声に反応し加藤が即座に「2014/07/26 13:50 コンビ二への買出し 錦戸直樹」と入力する。
食べ物。
シャンプー。
飲み物。
△
と表示させる。
「気になってたんだけど。この三角の記号は何なんですかね?」
海がモニターの三角の記号に指を指す。
「さぁ・・・。さっぱり・・・。」
すると、加藤は突然追加で飲み物を何を買うか入力
コーラ3本。
「・・・あー・・・。」
「空気読めてないわね・・・。」
海はすぐにトレインで「コーラ以外にも買ってきて」と入力する。
すると、プルルルルと突然の電話。
「んー何?」
【ど、どうして俺がコーラをッ!?】
「アルタイルで。」
そこでまたしても突然電話が切られる。
「な、何だー?」
突然切られたことに海は少し笑いながら携帯を見つめる。
そして、加藤がアルタイルに再び同文を入力すると「コーラ1本、お茶1本、カフェオレ1本、ポカリ1本」と表示される。
「上出来ね・・・。」
□■
「ただいま・・・。ってキムレボ。お前ずっとゲームしてたのか?」
錦戸は談話室のソファーにちょこんと腰掛けゲームに勤しむ木村の姿を発見する。
最初は画面に夢中だった木村はうん?と錦戸の方に振り向く。
少し話すためにも御座に靴を置く。
すると、影になっていて分からなかったが加藤がホワイトボードに何かを書いてるのが目に映る。
「何書いてるんだ?」
「アルタイルの機能とか・・・。」
そこには、
・未来予知が可能
・三角の記号は改変可能か不可能か。
追記予定。暫く消さない!
と書かれている。
「記号にはそんな意味があったのか・・・。」
「えぇ。テストの答案に関しては数日前から完成していたのでしょ。正しい三角は改変可能。逆は不可能。」
「あーなるほど。」
そして、加藤は何か意味深な事を付け足して言う。
「過去を変えるのには課題が多いと言われてるわ。でも・・・未来を変えることに課題は無い。多くの人がそう考えるでしょう。でもね、絶対に・・・。」
「分かっている・・・。そんなヘマはしないつもりだ。」
―あぁ。するわけないだろう?
俺は心の中でそう追加する。
すっかり実験の虜になっていた俺達は俄かに疲れが生じていることを身で感じる。
「疲れたな・・・。木村。少し詰めてくれ。」
ソファーに腰掛けている木村にそう告げて自身もソファーに腰をかける。
すると、海が開発室から突然姿を現す。
2012/07/26 15:13
「で、見てほしいものってのは?」
「この掲示板に光臨してるこの固定ハンドルネームなんだけど。」
2014/07/26 15:13
投稿者:ゲイツ
内容:つまり、未来ではビットソフトが市場を独占しているのです。
「奇妙な投稿だな・・・。」
俺はつい呟いてしまう。
はっきり言えばこのゲイツとか言う人間は預言者だ。
2014/07/26 15:14
投稿者:名無しさん
内容:ビットソフトが’パソコン市場’じゃなくて?
2014/07/26 15:14
投稿者:ゲイツ
内容:そう。全体の物価市場です。
2014/07/26 15:14
投稿者:名無しさん
内容:確かにPCの市場では帝国とまで呼ばれる存在だけど何で全ての物なんです?
2014/07/26 15:15
投稿者:ゲイツ
内容:すいません。少し御幣がありました。まず、世界はビットソフトの支配下にあります。
「何だこれは・・・。」
流石に俺も海もこれには耐え難い光景ともいえた。
「なぁ・・・。アルタイルで見れないかな・・・そんな未来。」
ためしに先刻のゲイツという預言者の言をトグルスイッチを操作して入力する。
DEADLINE
と何故か表示される。
「どういう意味だ?」
「・・・期限切れ・・・だな。」
錦戸は昔読んだ漫画での予備知識をここで見事生かした。
「・・・つまりそれは予測出来ないということかしら?」
木村の相手をしていたらしかった加藤がひょっこりと開発室に姿を現す。
モニターを凝視する加藤。
俺達も何かしらの返答を待つ形となっている。
試しにいくつか未来の話を打ち込んでみた。
妥当なのはオリンピックだろうと考えた錦戸は2012年のロンドンを思い出し2年後の柔道の結果を見てみることにした。
しかし、またしてもDEADLINEの文字。
「2年も駄目・・・。残りは1年か?」
1年でも上半期・下半期のどのぐらいまで測定可能なのか。
最も分かりやすいのは’売れた○○’の様なワードであろう。上半期の売れた芸人だとか。
後は流行語大賞。総括としてのくくりも良いわね。と適切なアドバイスを出す。
従って入力する。
「流行語大賞出ました!」
海がどこか喜び混じりにそう伝える。
―せいぜい半年~一年程度か・・・?
現在は夏休み。これぐらい妥当だろうと判断する。
「一応。一年後の今日入力する?」
海がそんな提案をしてきたので俺も加藤も止めることは無かった。
2015/07/25と入力する。
ツーツツーとアルタイルのCPUが唸りを上げる。
そこに浮かび上がったのは・・・。




