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12月の魔法使い  作者: もとよ
プロフィール
4/21

誕生日魔法使い 早乙女鈴夏

 私が通う織部おりべ高校の生徒会には、一風変わった風習がありました。

 生徒会役員は「魔法が使えない生徒」がなるというものです。

 なのに、私、早乙女鈴夏さおとめりんかは書記になりました。


 初めまして、早乙女鈴夏です。得意科目は物理、趣味は機械いじり、家族は両親と姉と祖父、5月23日生まれの誕生日魔法使いです。一年365日のうち、たった1日ですが、魔法が使えます。

 魔法が使えない人--地元から離れてしまった地域魔法使いではないのです。


「だーかーらー、鈴夏ちゃんは誕生日魔法使いだから、伝統を破ったことにはならないって。誕生日の1日だけ学校を休めば、学校で魔法が使えることにならないでしょ」


 3年生の生徒会長の言葉に私は眉をひそめます。


「それは屁理屈です。会長」


 私が生徒会に入ったのは去年の12月。本来は10月から新生生徒会がスタートする予定が、生徒会長が私を誘い続けたばかりに、書記だけ12月まで決まらず、受験を控えた3年生が泣く泣く継続するという申し訳ない事態に。

 結果12月に私が折れて、魔法が使える生徒会員となってしまいました。


 もっとも断り続けた理由は伝統ではなく、生徒会役員なんて目立つものになりたくないというのが本心だったわけで。それを堂々と口にするのは憚られ、もっともらしい「伝統」を利用したに過ぎません。

 実を言えば入学当初、生徒会の説明を聞いた時に悪習だと思ったぐらいですから。

 魔法が使える人が生徒会役員になったらって何だというんですか? 権力と力両手に暴れまわるとでも? 生徒会に権力なんてありません。一番の影響力は部費の決定権ぐらいですよ。圧政なら、地域監査家はそれに近いことができるでしょうけど、彼らは国から家庭教師が派遣されて厳しく躾けられていると聞きますし、去年卒業した地域監査家の先輩は人柄のいい優しい先輩でした。


 そういえば今年、先輩の妹さんが入学したらしいのですが、まだ挨拶していません。先輩にもお世話になりましたし、是非一度会いたいものです。


「会長、無駄話してもいいけど、手も動かして」


 会長を叱るのは副会長です。副会長は去年都心から引っ越していらしゃった地域魔法使いで、知り合って間もなく会長に懐かれ、会長のお守りをするために生徒会役員を引き受けた方です。太っ腹といいますか、押しに弱いといいますか。

 副会長はお一人で何でもできるだろうというほど優秀な方で……自称怠け者の会長を働かせることができる手腕をお持ちです。世のニートも副会長にかかれば撲滅できるかもしれません。


 そうこう考えている間にも、副会長が会長をおだてて書類に了承印を押させています。勿論、本人にも書類の仕分けをさせたうえで--流石過ぎます。怠け者の同類みたいな会長を--


「鈴夏ちゃん、今失礼なこと考えたでしょ」


「ご自分のスピーチ原稿をご自分で作っていただけないかと。これは失礼なことですか?」


 自分で言って何ですが、目上に対して失礼な態度をとっている自覚はあります。でも、会長はへこたれないどころか笑って、みんな優秀で助かるよ、とかいう人ですから。

 寛容という意味では、人の上に立てる人です。


 いっちにいさんし!


 3人で黙々と仕事をする中、校庭から運動部の掛け声が聞こえてきます。

 大会近いからなー、と会長が呟き、同時に思い出したように目をまん丸くして私の顔を覗き込みました。

 会長、もう集中力が切れてしまったんですか?


「そういえば、鈴夏ちゃん誕生日そろそろでしょ? マジックトリックランド何日前から行くの?」


「いえ、私は--」


「いいよねー。地域魔法使いには関係ない遊園地だからなー。行ける人が羨ましいよ。誕生日の人は招待券が来てタダなんでしょ」


「ええ、本人は無料、同伴者も一定の割引がありますが大概は魔力値が足りませんから補助器具も借りなければなりませんし。場所が沖縄ですから交通費も宿泊費も馬鹿にならなくて--」


「テレビと噂でしか見たことないけど、魔法がないと遊べないってどんな感じなの? 誕生日限定魔法使いの反則みたいな力技にも耐えちゃうすごい物で出来てるって聞いたんだけど、全面鉄製とか?」


「いえ、ほとんどが魔法防止材で、どちらかといえば樹脂製の---」


「家族みんなで行くんでしょ? 何泊? お土産は缶の可愛いお菓子がいいなー。あと写真もたくさん撮ってきてね」


「ですから」


 何でしょう。先ほどから意図的に発言を邪魔されている気がします。会長が人の話を聞きつつ被せてくるのはいつものこととして、いつもよりあからさまというか、わざと感が強いというか……。


「行くよね」


 力強い言葉に、行かないです、とは答えにくく……。


「どうしてそんなに勧めるんです?」


「あそこ誕生日魔法使いでないと行けないじゃない。夢の国にいける選ばれた数名に、夢の国の産物を持ち帰ってもらいたいと思うことさえ、凡人には許されないというの?」


 会長が、切なげな小動物の目で訴えます。

 高い補助器具代さえ払えば、魔法が使えない人でも入れますよ?

 それに我が家は私も母も誕生日限定魔法使いなので、どうせ同じお代を払うなら、イベント開催時期の、母の誕生日に行きましょうと決めています。

 なので今回は行きませんが、今年度中にはお土産も問題なく買ってこれますし、暫く我慢して頂きましょう。


「別の時期に買ってきますから、今回は我慢してください」


「えー、行ってきてよー」


 食い下がる会長に私はひたすら、また別の機会に、と答え続けました。


◇◆◇◆◇◆


 夕日の眩しさに目を細める時刻。臨時で頼んだ生徒会の仕事が終わり、早乙女鈴夏が帰路に就いた。

 校門に向かう彼女の姿が窓から見え、会長が手を振る。早乙女友里も少し恥ずかしそうに手を振り返し帰っていく。

 会長の後ろから、副会長も心ばかり手を振って、彼女の姿が見えなくなってから会長の前に鞄を置いた。彼女たちの仕事も大まかには終わり、あとは1項目について話し合うだけなので、お互い帰宅の用意をする。


「やっぱり、生徒会に引き入れてもダメだったね」


「私のおねだりが通じないとは、早乙女鈴夏、恐ろしい子……」


「普通でしょ。で、どうするの? 彼女に正直に話して、誕生日当日は学校休んでもらう?」


「無理無理、というより無駄。去年の騒動の後、寺坂先輩が訪ねたら彼女寝込んでて--当日も寝込んでいたと思ってたらしいよ。ご心配をおかけして申し訳ありません、とか言ったって」


「去年は酷かったっけ。怪我人も物損ないのが不思議だわ。それを忘れるって---普段はあんなにいい子なのに」


「誕生日魔法使いは、普段魔力がないから、急に湧き起こる力に堪えられなくて、魔法が使えるときだけ別人格を作り出して魔力を発散させる人が多いんだって。大人になれば納まるらしいけど」


 だから本人に来るなと言ったこところで、当日の別人格はそんな約束は知らずに普通に学校に来る。魔法を使うのも別人格だから、普段の彼女に注意を呼びかけても意味はない。


「事情を話すことがストレスになって、暴走度合が倍になるって研究発表もあるし。全員が暴れるわけじゃないけど、思春期の学生時代に多いことで、暴れなくても慣れない魔力に寝込む人もいるって」


 誕生日魔法使い自体が少数だから、あまり知られていないけどね。と会長は付け加えた。


「……誕生日魔法使いは大変ね。地域魔法使いでよかった」


「そんな悲惨な誕生日魔法使いのために作ったのが、マジックトリックランド! 誕生日魔法使いのための夢の国。本人たちを刺激しないで安全に暴れてもらうための遊園地というわけね」


「でも、早乙女さんは行かないと。とりあえず、今年もすごいことになるのね」


「なるね。3年の飯塚君はランドに行ってくれるからいいとして、今年の1年生にも誕生日魔法使いいるし」


「……うちの学校、平均より多くない?」


「あはははは、楽しい1年になりそうだよね!」


 会長は満面の笑みを浮かべ、副会長は勘弁してほしいとため息をついた。


個人プロフィール兼プロローグおしまいです。

とはいえ、基本のほほん日常系なので、全てがプロローグのようなお話になってきます。のほほんと読んでいただければ幸いです。

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