期間魔法使い 東尾家
12月だけ魔法が使える東尾中道少年の、ほのぼの魔法・日常系物語です。
よろしければお付き合いださい。
全人類、いや、全生物にとって魔法は当たり前のものだ。
子供は自転車の乗り方を親に教わるように魔法を覚え、箸を扱うように魔法を使う。
そんな俺たちの世界では、人類の総数30億のうち日平均25億人が魔法使いだ。
ちなみに、本日の俺は魔法使いでない5億人の一人。
俺の名前は東尾中道。
地方都市の高校に通う男子高生。
趣味はのんびりすること。彼女はいない。得意科目は数学。好きな季節は冬。家族構成は両親と兄と妹と金魚4匹。12月魔法使い。
我が家は全員、期間魔法使いで。父は平日魔法使い、母は昼間魔法使い、兄は夏期魔法使い、妹は休日魔法使いだ。
本日は若葉の季節、5月の日曜日。魔法を使えるのは母と妹。我が家の権力は今、女性に握られている。
って、だから何ってわけではないけど。
「あーー! 上手く浮けない!!」
朝起きて居間に行くと、庭から妹のイライラとした声が響いて来た。
ちょっと丸めの顔にくりりとした円らな瞳、美人ではないが愛嬌満点の我が妹、東尾優花。可愛い眉を吊り上げている。
浮遊魔法が上手くできず、ご機嫌斜めのようだ。
「お母さん、手伝って!!」
「先に洗濯物干すの手伝ってくれたらね。ほら、あんまり傍で練習すると、洗濯物落ちるからあっちに行って」
母は魔法で洗濯物を物干しざおに掛け、洗濯バサミを手元に引き寄せ、手で洗濯バサミを開いて洗濯物を止めている。優花はそんな母の服の裾を掴み、地面から数センチ浮いて付いて行く。
なんだまだ浮かぶだけか、中1で授業始まったばかりだと、移動はまだ無理だっけ?
俺のときはーー覚えてないなぁ。
その浮かぶだけも、揺らせば廻るような不安定な浮き方だ。上向きに膝抱えて、背中が地面からちょっと離れている程度。
優花は魔法であんまり遊んでないし、不慣れだよな。
しかし、優花よ。足を延ばせば洗濯物を蹴る距離は駄目だろ、危ない。洗濯物に泥が付いた瞬間、母が偉い剣幕で怒る姿が目に浮かぶ。
「おはよう、中道」
「起きたか、ねぼすけ」
父と、兄の久道に「おはよー」と返事をして、冷蔵庫を漁る。
「朝食はキッチンに置いてあるだろ?」
「いや、軽くでいいから、バナナないかなーって」
バナナはいい。小食な俺に十分なエネルギーを与えてくれる。
発見したバナナを頬張りながら、居間のテーブルで辞書を広げている兄の隣に座る。
「久兄。地獄の受験勉強が終わったのに、どうしてまた休日に勉強してんの?」
「理系は課題が難しいし多いんだよ! ああー、就職に有利だと思って理系にしたのに!!」
えー。俺も理系に行こうと思ってるのに。
「久道はね。大学で出会ったかわいい女の子の気を引きたくて。勉強に励んでいるんだよ」
兄は肩をびくりと動かしただけで、黙っている。図星だから黙ってるんだろうな。父は色恋沙汰に凄く鋭い。のほほんとしてちょっと太めの父は、会社で「恋の天使東尾」と呼ばれている、とよく家に遊びに来る加藤さんが言っている。
「久道は魔法得意だけど、夏にならないといいとこ見せられないし、夏しかいいとこ見せられないしね」
「そうよ! 久兄も中兄も、魔法得意でしょ! 浮遊魔法できるでしょ! コツ教えてよ!」
あまりにも母が相手をしてくれないので、優花がご立腹で居間に戻ってくる。洗濯物手伝えば、浮遊の相手もしてくれるのに。
小学校までは週1しか魔法授業はなくて、中学生になると一気に増えるからな。優花は今年中学生になって、魔法の事で周囲に置いてけぼりをくらっているのが気に食わないんだろう。負けず嫌いだし。
俺も中学上がったばっかりは、そうだったな。12月まで参加できないから、すっごく置いてかれた気になった。それを思えば優花はマシな方だと思うけど、どうだろう?
「平日は魔法使えないから授業は見学で、休日は魔法の追試で、土曜日半日学校で潰れちゃうのよ! 不公平よ!」
「で、追試の成績が芳しくなくて居残り時間が増えてるわけだな」
「うるさい! コツは!」
んもー、中1なりたてで反抗期ですか。早すぎやしませんか?
「魔法が使える人に浮かせてもらって、その状態でバランスが取れるようにコントロール。それができたら、自分で浮遊するんだよ」
「知ってるもん! 先生も同じこと言ってたもん! バランスのコツよ!」
俺と兄は顔を見合わせ、同時に首をかしげた。
「「感性と運動神経?」」
「私が運動音痴だとでも言いたいの! 馬鹿にしないでよ、失恋兄貴ーズ!! 同じ日に失恋してくるとかバッカじゃないの!」
言葉の暴力が、俺と兄の心に深い傷を負わせる。
あれは今年の2月の事だ。兄は大学受験、俺は高校受験に合格した日だった。
兄は合格の勢いで、3年間片思いだった女性に告白し、玉砕。
俺は小学校の同級生と別々の中学に入ってから付き合い始め、3年に及ぶ交際――とは言えないか、2年からはほとんど連絡取らなくて、高校受かったやったー! ってテンションで久々にデートしたら、自然消滅して終わったものだと思われてて――2年も連絡取らなきゃそうだよね。
俺馬鹿だよね。他に好きな人も出来たんだって。涙目だよ。
てか、いつまでつつくのそのネタ。
3か月たっても、大ダメージ食らうから止めて欲しいんだけど。
「駄目だよ、優花。そういうこと言っちゃ」
父が諌めるが、物腰の柔らかい人なのでまったく怖くない。
本人の厳めしい顔の限界が、普通の人の真剣な顔だからな。
「だって、中兄に至ってはお父さんの助言、無視してたしー」
「あの頃の中道は反抗期まっ盛りだったからなー」
優花の矛先が俺に集中したことで、兄が被害者から傍観者へ転向しようとしている。酷い兄だ。
助言は無視したんじゃないの、実行しなかっただけなの。そこ、一緒とか言わない。
「あーもー。優花は浮遊の練習しなよ」
「するもん! お父さん、コツ教えて!」
「お母さんのお手伝いして、練習に付き合ってもらいなさい」
父が至極真っ当な助言をして、優花は渋々と母の手伝いに行った。
兄は課題、妹は魔法の練習。
とりあえず俺は、のんびりしよう。
何故、中道という名字みたいな名前なのか。私の趣味です。
犬猫にも名字みたいな名前を付けたい。