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普通になりたかった人間

 悩んでいた僕の目の前に、かつての不良仲間がいた。


「古野さん。こんばわっす」


「なんでお前ここにいるんだ?」


 僕に話しかけてきたこいつは仲居という。なぜか敬語を使う。まあ、昔はそこらで鬼人とか言われていたし無理ないよな。


「そりゃ古野のお祖母さんには世話になったし」


 こいつは高江という。高江は普通にタメ口だ。俺より1年下級生のはずなのに。まあ、僕を恐れないところはほめるべきところだろう。しかし、問題はそこではない。


「僕――ゴホンッ。俺は2人とも呼んでないぞ」


 昔の言い方じゃないとなんだか恥ずかしい。実は、僕は自分のことを俺といっていた。


「え? 呼ばれましたよ。古野さんのお母さんに」


 お母さんか……。要らないところで気を使いやがって……。


「それに、突然いなくなるし俺たち困りましたよ」


 勝手に困っていてそれを僕に言うか?


「まあ、仲居。今から古野を連れ返せばいいだろ?」


「お前、先輩にタメ口使うな。でも、高江の言うとおりです。また一緒に不良やりましょうよ」


 仲居にここまで言われて思いつめる。


 今の僕――いや、俺が何かをすると必ず悲しむ人が出てくる。ならだれもが近寄れなくなる存在になればいいんだ。その存在とは? 


 答えは不良だ。不良に戻ればいいんだ。


 今思うと、この時は本当に精神的にヤバかったんだと思う。そうじゃないとこんな答えは出さないはずだった……。




 □ □ □



 

 驚いている海田を横目に恐る恐る教室を見ると―――――


「は?」


 古野がいた。いたのだが、


「お前どうしたんだよ……」


 最後に見た古野とは変わっていた。


 金髪にしワックスをつけて髪をたてている。さらに、制服は着崩しピアスまでしている。それにタバコまで吸っている。


 俺を助けてくれた古野とは思えない。まるで鬼人のようだった。


 一見そこら辺の不良だったが何か雰囲気が違った。恐ろしい・破壊など普通の不良とは格が違う何かを持っていたが……。


「おう。海田に飛騨じゃねーか。久しぶりだな」


 古野に声をかけられる。


「は――ああ、そうだな」


「う、うん」


 一瞬古野から恐怖を感じた。俺は思わず敬語になりそうになったが、海田はがんばったようだ。


「はい」


 古野は俺たちに手を出す。どういうことだ?


「くれよ。お年玉」


 どうやらカツアゲらしい。古野の机を見ると1000円札がたくさんある。みんな古野のオーラに負けたんだな。


「悪いな。今日は金なくて」


 俺がそういうと、


「は? じゃあ、銀行強盗でもしてこいよ」


 ふざけている。本当にどうしたのだろう。


「それは立派な犯罪だ。そんなこと俺は出来ないしする気もない」


「なに正義ぶってんだよ。〇〇中学の奴らにぼこられていたくせによ」


 あ。それはお互いの秘密なのに。


「おい。それは秘密って話だろ。なに破ってんだよ」


「じゃあ、契約書でもあんのか?」


 ク……。今更古野が喧嘩強いといったところでこの格好を見れば一目瞭然。俺だけがダメージを負ったということか……。


「分かった。ほらよ。お年玉だ」


 財布から1000円札を出す。


「あるんなら、さっさとだせよ」


 そういいながら俺の手から1000円札を奪う。しかし、俺は1000円札を放さない。


「どうして、そんなにお前は変わってしまったんだ?」


 そう聞くと、


「お前には関係ねえ、よ‼」


 俺は古野にものすごい力で1000円札を奪われる。ちょっとだけ、1000円札が破れる。


 そして、俺の隣にいた海田にまで手を出す。海田はおとなしく渡した。それは絶望からなっているのだろう。目の焦点が合っていない。今にも倒れそうだ。俺も倒れたい、今すぐに。そう思いながら自分の席に座る。




 □ □ □




 授業中、時々私は古野君の様子を見ていた。どうしてこんなことになったのだろう。そのヒントだけでも欲しくて見つけようとした。


 結果、表情だけならわかるけど気持ちまでは分からなかった。隣の席というアドバンテージを使ったのに。でも、なぜか雰囲気に迷いがあったのは分かる。


 私は古野君に助けられた。けど、私はその恩を返していない。だから、古野君が悩んでいる今助けてあげないと。それには、飛騨君と七美の協力が必要になるかも。即急に作戦会議をしないと。




 □ □ □




 僕――いや、俺か。俺はどうもこの教室にいると僕っていうのが先に出てしまう。やれやれ、仲居達の前では全然違うのにな。


 今朝のカツアゲでクラスのほとんどが話しかけてこなくなった。こうやって脅していけばだれも俺には近寄ってこないはずだ。


 放課後となり、誰かが話しかけてくる。


「古野君。今日はどうしてお弁当作ってくれなかったの?」


 ああ、海田か。


「作って俺に何かメリットあるか?」


「ないけど……」


「用事終わったか?早く帰りたいんだけどなあ⁉」


 後半はキレ気味で言う。これでビビってもう関わってほしくない。もう離れてほしい。


 そう思っていたのに、海田はこんなことを言った。


「今日、久しぶりの4人で勉強会しない」


 と。


 だから、かかわってほしくないんだって。


「無理。行ったら100万円でもくれるのか?」


 止めをさす。中3で100万円持っている奴はいないだろ。さて、帰るか。


「分かった。100万円で来てくれるんだね?」


 おいおい。冗談だって。マジになんなよ。


「冗談だって。お前がいくら言っても諦めないから嘘混ぜたんだよ。でも、行かないから」


「ダメ。今日だけで良いから来て」


 チィ。思わず舌打ちをする。しつこい。


「じゃあ、今日行ったらもう一生付きまとわないか?」


「分かった」


「よし。タイムリミットは完全下校時刻の5時だ」


 今は4時なので1時間程度だ。


「じゃあ、さっそくはいろっか」


「あ、ああ」


 海田に引っ張られる。しょうがない。1時間の辛抱だ。




 中に入ると飛騨と田井が待っていた。3つの机と1つの机が向かいにあり3つの机の内2つは先の二人が座っていた。海田は3つの机のほうに座るため、俺は必然的に1つの机のほうになる。


 よっこらせ。そう言いながら座ると、3者が俺のほうを見ていた。


 何のホラー映画だよ。そう思っていると、海田が俺に向かって話し始める。


「本当は今日、勉強会じゃなくて私たちの話を聞いてほしいの」


 なんとなくそんなところだと思っていた。


「分かった。だから、さっさと話を続けろ」


 きつくそういうと海田は、そうだよね、と子声でいい本題に入った。


「私は、まだ古野君にあの事のお礼できていないの。私は本当に悩んでいたから転校してきたばかりの古野君が助けてくれたのは本当にうれしかった。ありがとう。それで、お礼がしたいんだけど古野君は本当にそれでいいの?」


 突然質問されて困る。


「何が?」


「だから、ピアスとかタバコとかやっていて」


 要するに、不良やっていて俺は本当にこれでいいのかということか。


「そんなの俺の勝手だろ。お前に注意される理由はないと思うが」


「でも、古野君何か迷っている気がする」


 迷っている? 何にだ?


「俺は決心したんだ。もう誰にも迷惑かけないと」


「誰も迷惑なんてかかってるとは思っていないよ。少なくともこの学校の人たちはね」


 そんなわけない。それに、俺の気持ちも知らずに。


「五月蝿いなぁ」


 思わず叫んでしまう。本当に思わずだった。この教室だったからなのか分からない。だが、ここでバトンタッチのようで海田から田井に会話の主導者が変わる。


「覚えていますか?私たちがここでやった漢字の勉強。確か初めての漢字は『五月蝿い』だったと思います」


 そうだ。だから思わずだったのか。


「廊下で少し聞こえちゃいましたが、古野君のお弁当を作るメリットはありますよ」


「な、なんだ」

 

「私が喜びます」


「それだとただの自己満足じゃないか」


「一度だけお弁当を古野君から貰ったことがあります。そのお弁当は思わず顔が綻ぶほど美味しかったのを覚えています」


 クソッ。何の説得だよ。俺はもう不良の道を歩むって決めたんだよ。


 田井が話し終えると同時に飛騨が話し始める。


「濡れ衣から俺を救ってくれたのは古野だった。あのときはホントにこんな転校生が俺を助けてくれるかなって半信半疑だった。けど、イジメについてお前が教えてくれた。俺の気持ちまで理解してくれた。そして、お前が俺を助けてくれた。なら、今度は俺がお前を救う番だ。悩み事があるならいってくれよ」


 キーンコーンカーンコーン。完全下校の時間になる。


 俺は顔を伏せながら逃げるように教室を出て行った。


 顔を上げると涙が出そうだったから。


 そして、家に着く。すると、


「あ、雅君。お帰り」


「ただいま。あの、田中さん。一生のお願いがあるんですけど聞いてくれますか?」


「ん? まあいいけど」


「じゃあ――――――」




 □ □ □




 5時になり、なぜか顔を伏せながら逃げるように帰って行った。どうしたのだろうか。


「さて、七美と飛騨君。帰ろう」


「はい」


「そうだな」


 海田が吹っ切れたように言う。


「どうやら言いたいことは全部言ったようだな」


「飛騨君だって顔が笑っているよ」


 反射的に顔に手を当てる。あ、本当だ。


「まあ、やることやったしな」


「それはそうだね」


「さて、外も寒くなってきたことだしさっさと帰ろうか」


 今朝、天気予報で大雨マークだったのに外はまるで、俺たちの心のように晴れ晴れとしているようだった。




 翌朝、学校に登校するとまたも事件発生。


「おい……古野……」


 教室の一番前、つまり黒板の下と言うべき場所で古野が土下座をしていた。


 髪は色がちゃんと戻っているしピアスもしていない。これならタバコもないだろう。だが、


「おい、古野。顔上げろって」


「この声は……飛騨君。本当にゴメン」


「だから何言ってんだよ。顔上げろって」


 そう言いながらカバンを机の上に置くと封筒が置いてあった。なんだこれは? 


 中身をみると……10000円と1000円があった。この1000円ちょっと破れているな……まさか、昨日のカツアゲの詫びってことか。


「おい、古野。俺たちはカツアゲの分だけで良いんだよ。お前からはお金以上のものを貰っているんだからな」




 □ □ □  




「それは、30万円用意してくれませんか?」


「は?」


 俺――いや、僕は田中さんに一生のお願いをしていた。


「クラスメイトにカツアゲしたのを謝りたくて。10倍で返さないとみんなにお詫びすらできないから」


 そういうと、田中さんは、


「分かった。用意してやる。でもな、そんなのに金なんか必要ないと思うぜ」


「でもっ」


「分かっている。お前にアドバイスしただけだから」


「田中さん。本当にすいません。これからも迷惑かけると思いますが宜しくお願いします。ところで、田中なんて言うんですか?」


「太郎」


「え?田中太郎ですか?」


「ああ」


(うわ。めっちゃ普通な名前じゃん)


「そうですか、これからも宜しくお願いします」


「こちらこそ」




 翌朝、1番乗りで教室に行きみんなの机の上に11000円が入った封筒を置く。そして、教室の一番前で土下座をする。


 それから5分後……。


「おはよっす。うわっ。どうしたんだよ。古野。土下座なんかして。ホント昨日は物騒だと思ったら今日は土下座って分かりやすいやら分かりにくいやら……」


 クラスメイトの男子が1人入ってくる。


「これぐらいしないとお詫びにならないし……」


「いや、だからって土下座はあれじゃないのか……なんだこの封筒? 11000円! なんでこんなところに? あ、お前か昨日のカツアゲのやつか。でもな、俺は金なんかじゃなくてお前の態度が元道りになったことが10000円以上の価値があるとおもうぜ。1日でこんなに変わるなんて。だから、俺は昨日の1000円だけ貰って置いて10000円はいらないから」


「でもっ」


「いいんだって。っていうかちゃんと、借りた人に金返しておけよ」




 そのあともクラスメイトは来たが、みんなさっきの男子生徒と同じことを言う。困ったなあ。すると、


「おい……古野……」


「この声は……飛騨君。本当にゴメン」


 心の底から謝る。



 飛騨君がカバンを机に音が聞こえる。そして、封筒を開ける音も。

「おい、古野。俺たちはカツアゲの分だけで良いんだよ。お前からはお金以上のものを貰っているんだからな」


 みんな……ゴメン。そしてありがとう。



 

 そのあと、クラスメイト30人から10000円を返してもらった。

 

 そして、昼休みに僕は海田さん・飛騨君・田井さんを放課後に勉強会をしようと誘った。




 そして、放課後。昨日と同じく1対3の状況を作る。勿論僕が1のほうだ。


「本当は今日、勉強会じゃなくて僕の話を聞いてほしい」


 海田さんが「真似された」と嘆いている。


「クラスの皆にも迷惑かけたけど、君たちには本当に助けられた。ありがとう」


「いえいえ。こちらこそ」


 と田井さん。


「これで解決だな」


 と飛騨君。


「やっと恩返しができたわ」


 と海田さん。


 お祖父ちゃん・お祖母ちゃんの死、そして、この人たちと出会えたことを本当に感謝している。




 

 普通。それになりたい人間は多々いるだろう。でも、本当は普通なんて言葉は存在しないと思う。


 個性・性格・人格。それは誰もが持っている良いものであり、決して普通でもそれ以下でもない。


 真ん中や平均などは第1段階としての狙うのは良いことだと思う。でも、そこを最終目標にするのは良くない。

 

 なぜなら、そこで諦めたら普通よりも素晴らしいものを見ることが出来ないからだ。




 


 お疲れさまでした。

これでこの作品は終わりですが、いかがでしたか。

普通……考えてみれば普通ってなんだろう。そう思ったのがきっかけでこの作品を書きました。

この作品を最後まで見ていただき、本当にありがとうございました。

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