新学期
お祖父ちゃんが亡くなってから早半年。
僕は、その時から不良をやめた。色々と根本的に変えるのは難しかったけど最近はうまくいっている気がする。だが、
「雅、水持ってきて」
「ちょっと待ってて、お祖母ちゃん」
今はお祖母ちゃんの体調が優れないようだ。うまくいっている気がしていたけど、やはり、病気にはどうすることもできない。そう思いながら、キッチンから水を取る。
「はい。水だよ」
「ありがとう。雅。ゴホッ」
「無理したらダメだよ。お祖母ちゃん」
「本当にありがとうね」
「これぐらいいよ。あと、お粥作っておいたから。冷めないうちに食べてね。じゃあ、学校に行ってくる」
「いってらっしゃい」
「うん」
そう言いながら玄関のドアを閉じる。
僕は今日から新しい学校に行く。前の家から僕だけお祖母ちゃん家に行くこととなったから転校したのだ。
理由はお祖母ちゃんの体調は最近良くないらしい。
僕の親は仕事で朝から晩までいないので、僕がお祖母ちゃん家に泊まって世話をすることになった。
こっちにきてから1週間もたたないけど雰囲気にはだんだんなれてきた。
ここの人たちは良い人ばかりだ。時々、正月の時に来ていたけど用事が終わったらすぐに帰っていたからなぁ…………。
この秋から新しい中学校、花田中学校に入る。夏休み前に転入するつもりだったけど、どうせなら2学期からのほうがいいと思い夏休み明けの今日、9月1日に入ることにした。
「結構緊張するなぁ」
僕は今転入にはお決まりの廊下でドキドキしている。こんなのアニメぐらいしかないと思っていたけど意外と緊張するもんなんだなぁ。
「では、入ってください」
先生に声を掛けられて腹を括る。ここは、普通にしていよう。よしっ。
普通にドアを開けて、普通に真ん中にある教卓まで歩く。いいぞ。その調子だ。
「新しく今日から転入してきた、古野雅君だ。みんな、仲良くしてやってくれ。古野、自己紹介」
「はい」
ここで失敗したら中学生活終わりになってしまう。この自己紹介は成功させたい。だが、地味キャラと思われるのも嫌だからなぁ。でも、ここは失敗しないことが最優先だ。
「先ほど先生から紹介してもらった古野雅です。身長は、170cmです。ここら辺に来るのは初めてじゃないんですが、この学校に来たのは今日が初めてです。ですから、分からないことが多いと思うので色々教えてください」
よしっ。普通だ。でも、普通すぎて何も良いところがないなぁ。ここは少し攻めて……。
「先生。時間くれませんか?」
「いいが、なんでだ?」
「ちょっと、得意芸を」
「まあ、やってみろ」
「ありがとうございます」
ここで、得意芸をする時間を貰った。
「では、やります」
「………………」
「この腕の取れた人形を……ほら、裁縫で簡単につけることができました」
確かに、腕の取れた人形はあった。確かに、裁縫で10秒もかからずに腕をつけた。
なのに………………何この空気? 絶対に僕がやってしまった感じだよねこれ。うわー、やめときゃよかった。なんか無駄な期待させておいてこれだけかよ的な雰囲気が出まくってるし。
「ま、どんまい」
先生にそう言われ、事実上学校生活が終わりを告げた。と、思っていたら
「凄い。凄い。立派。でも、予想とは大きく外れたけどね」
と、いいながら立つ女の子。
「こら、海田。座れ。あと、古野。お前は海田の隣だ」
「宜しくね。古野君」
「だから、海田。立つなって」
クラスから笑いが起こる。ああ、笑いを取る。ってそういうことなのか。と改めて思いながら海田さんの隣に向かう。
「こちらこそ宜しく。海田さん。それと、さっき予想していたことって?」
「ああ、あれはねえ……」
考えるしぐさを少しばかりする。わざとかなぁ。
「まさか、今考えてる?」
「!い、いや。私忘れっぽいからなあ。あははは」
そうなのか。忘れっぽいか……。ていうか、忘れっぽいって物の10秒前じゃね?まあ、いいか。
「で、予想って?」
「古野君が、魔術を使って学校つぶすとか」
「僕にそんな力ないし……。」
「未確認飛行物体を見つけることができるとか」
「そんな得意芸いらないし……。」
「実は、銀行強盗とか」
「もう、得意とかのレベルではないよね……」
よし。自己紹介が失敗してしまったので、授業で取り戻そう。でも、―――――何を?
花田中学校に限らず、ここら辺は何度も言っているけど治安が良すぎる。絶対に、不良時代の僕がここにいたら迷惑的な存在になるだろう。だから、ここで普通の人間に戻ろう。
「――――――――――であるからして」
花田中学校は9月1日から授業がある。
僕はここで、普通の人間に戻るんだ。




