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リピ・リコレクション 前編

現代恋愛小説

358日目の夜空を見上げると、その空間にふわふわと浮かぶ雲が純白の細雪を降らせ街を真っ白に染めてゆく。染まった街は前と比べるとどこか儚く、少し閑散としている。この心地良い雰囲気が私は好きだった。

いつか、このロマンチックな背景の中で好きな人と一緒に手を繋いで過ごす。馬鹿みたいな妄想が私の心を紅く彩どってゆく。

クリスマスシーズン、1年の中で最も楽しい時期が今年も始まった。


「ねぇーらるわ、明日から何すんの?」

12月24日、終業式が終わり駅のホームで座っていると彼から1通の連絡が送られた。

「そんなの全然決まってない」

私は予定を立ててもその通りに過ごせた試しがない。それと、家の居心地が良すぎるせいでこの時期は遊びに誘われる以外は基本外に出ないようにしている。

「そ、じゃあ明日にでも映画見に行かね?」

「あー!あれの新作出てたんだっけ!見に行かねば…」

しまった、私としたことがアニメの新作が公開されていたことをすっかり忘れていた。「あー、何してんの私ー」と思いながら素早くスケジュールを確認して明日の予定を確認する。

「じゃあ映画で決定として、いつが良い?できれば僕は近いうちがいいかな」

「だね!じゃあ、明日で良いんじゃない?そもそも、25日に誘う予定だったんでしょ?」

「バレてた?やっぱ分かりやすいのかなー。まぁ分かった、15時ぐらいで良い?」

「だね、いつも通りで。見終わったらどっかご飯寄ってゆっくり帰ろっか。」

「だね、チケット先取っとくからな」

「ん、ありがと」

「んじゃまぁ、明日駅集合で。楽しみにしとくわ」

「はーい!」

なんとなく、明日の予定が決まってしまった。それよりも新作のアニメ映画を思い出してからそのことで頭がいっぱいになり、「早く見たい早く見たい」と頭の中で自動的に反復される。

「へぇー、やっぱ熱いねあんたら」

おそるおそる振り返ってみる。

「…どっから?」

「えー、言わなきゃダメ?」

「…」

じーっと目を見つめてみる。

「結構序盤から」

「え!?私そんな気づかなかった?ずっと後ろから見てたの全然分かんなかった」

案の定、一部始終を見られていたらしい。彼女、春馬奈雪は私の親友であり、ここ最近は覗き魔でもある。私が覗きに鈍感だと気づいてからずっと、隙あらば覗くような奴だ。

「それでー?クリスマスに彼ピッピと映画デートする訳だけど、今どんな気持ちー!」

「早く見たい。それだけ」

「…なんか、らるわってほんとに友達みたいな感覚だよね。私だったら流れでキスしちゃうけどなー、なんちゃって」

「そんなことしないっての、あと好きってほど好きじゃないしー」

「えーもう半年だよ?あいつから告られたからってのはあると思うけどさ、普通好きになるもんじゃない?」

「んな訳ない、んな訳ない、律喜には悪いけど案外なんとなく付き合ってる感覚」

「まぁでも、そんなこと言っときながら手作りパイとか渡してるしなー、正直それぐらいがちょうどいいかも」

あまり話してはいけない、正直な気持ちをわいわいと喋っているうちに「あ!忘れ物した!」と言って奈雪はすぐに学校へ走って戻っていった。私は電車に乗って約30分、降りて徒歩10分のいつも通りのコースを辿って15時30頃に家に着く。お母さんに明日の予定を少し話し、軽く準備をしていつもより1時間早くベットに転ぶ。明日のことをぼんやりと考えながら予定を立て、すぐに眠った。

クリスマスの午前8時10分、寒すぎるせいで布団の包容力からなかなか抜け出せず、それでも頭の中では「起きなきゃ、起きなきゃ」と繰り返して、いつのまにか気を失ったかのように二度寝する。

午前8時20分、再び目を覚まして足先を指で暖めながらうずくまって緩やかに三度寝。

午前9時10分、ハッと目を覚ました瞬間「今日予定あるじゃん!」と頭の中で叫び、その衝撃で体を叩き起こす。すぐにファンヒーターの電源をオンにし、颯爽とお風呂のおいだきボタンを押す。15時に現地集合、昨日予約してくれた映画のチケットには15時45分開始と書いてある。電車の時間が14時25分だから家を出るのは14時ぐらい、なので慌てて起きた割には時間に余裕がある。

お風呂のおいだき完了の音楽が流れる頃に、珍しく昨日の夜ご飯の残り物である味噌汁とご飯を温め直し、いつもより少しだけ健康を意識した朝ごはんを食べてみた。昨日準備しておいた服が可愛いかどうかをチェックする。今日は久々の映画なので好きなキャラのバウンドコーデを意識した服装にしてテンションが上がる。久々の映画なのだ、多少やり過ぎても問題ない。ただ思いっきり楽しみたい、その一心でお風呂に入りつつ身支度を済ませゆっくりと部屋で過ごす。

彼から連絡が来たのは映画の予告編を見ている時だった。

「悪い、今日行けなくなった。ほんとごめん」

一瞬、脳がフリーズした。

「え、なんかあったの?」

「いや、今日ちょっと熱気味でさ、弟今インフルだからもしかしたら俺もインフルかもって」

「ほんと?大丈夫?」

「うん、ごめんまた今度行こ」

「ん、分かった。」

数分後、2枚分のチケット交換に必要なQRコードのスクショが送られた。「もし誰か誘えるならこれ使って良いから、あと今回は2枚とも奢りってことにしといて」

と言い残し「ありがと、安静にねー!」と言って連絡は止まる。

現在時刻10時30分。奈雪に「無理になった、今日なんかある?」と、急いで連絡を取る。部活が無いように、そう祈りつつ時間が過ぎるのをただひたすら待つ。

2時間後、「は!?あいつガチかよ!」と返信が来た。奈雪のアイコンに写っている人が本当にそう言っているように聞こえてふと笑ってしまった。

「え、電車いつ?」

「15時到着」

「あー微妙」

「いや、なゆならいける。」

「あー、今日なんもねーや」

「ということは?」

「仕方ない、行ってやんよ!」

「がち助かる〜!ありがと〜!」

「じゃあ準備するから後で連絡する」

既読をつけた後、ソファに力が抜けたようにもたれかかる。ひとまず一安心と言ったところだろうか、私は「奈雪さまぁ…!」と呟きながら神様を祈るように手を擦り合わせていた。

「準備完了!」と奈雪が連絡した時刻は1時30分だった。後々分かったことだが、昨日夜更かしをしていたらしく私の緊急メッセージに気づいたタイミングで起きたらしい。

「電車何時のやつに乗る?」

「私は14時25分発の電車に乗るつもり」

「あーそうだった、3時着ね。じゃあそれに合わせて私も乗る。」

「ごめーん!ありがと!」

再び奈雪に感謝しながら、もう一度準備を整える。出発時刻10分前、クローゼットから厚手のコートを取り出し、母に「今日ちょっと遅くなる」と一言言い残し段々と暗くなる空の中、駅を目指して歩く。

誰もいない駅のホームでスヤスヤと眠っている奈雪にこっそり忍び寄り、今にも落ちそうなスマホの中を覗いてみる。すると映画の予定とその後の予定が綴られたメモが見えてしまった。「ここでご飯食べた後クリスマスっぽいこと何かしたいなぁ…」ここで文章が途切れている。

「らしくないなぁ」そう呟く。

「なーゆーきー!おーきーろー!」

「ん?あー、おはよ。」

「可愛い声出しちゃってさー、そんなのどーでも良いけどー」

「えー、あー素直じゃないねぇ。まぁ私もそんな意識してないけど。え、と言うことは無意識から可愛いってことか、無意識美少女か」

「いつもよりテンションバグってるって。まぁ、私もなだけど」

「んじゃまぁ行きますか。この無意識美少女が今日は彼氏となってついていってやる。」

「ほーんと、マジありがと。」

雪が積もった電車に、二人笑いながら乗車する。白のシャツに少し大きめのおしゃれなチェック柄のカーディガン、紺色のロングスカート、そして極め付けは黒のスニーカー。どれも奈雪の「好き」が集まっているらしい。

それもそのはず、奈雪はとことんこだわるタイプだからこういう部分には容赦ない。

「ねぇ奈雪、その靴どこで買った?」

「えーと、映画館の近くだよ?後で連れててってあげようか」

「お、やった。じゃあご飯食べた後ぐらいに行こっか」

「だねだね。今日は私がエスコートしてあげる」

「…それ律希にしてほしいやつ」

「あ、そうだ、あいつなんで今日無理になったの?」

「インフルだって、弟から貰ったらしい。大丈夫かな」

「あいつがインフル罹るとか珍しい、本当は誰かと遊んでたりしてー」

「ないない、流石に私のこと放っておくような奴じゃないでしょ」

「まぁーね、律希に限ってそんなことはないよ。保証したげる。」

律希と奈雪は中学からの幼馴染らしく、部活も一緒でよく話していたらしい。高校になってから話す機会が無くなったらしいが仲は健在なのだそう。

「保証できても、もう意味ないんだよなー」

奈雪の破天荒なボケにツッコミを入れながらわいわい喋っているといつの間にか到着していて、奈雪に半ば強引に引っ張られながら映画館へ向かう。浮いたチケット代をLサイズのキャラメルポップコーンとコーラに当て、座席表を確認しつつ入場口前の椅子に座る。周囲には何回も見た映画の広告といろんな音が混じっていて落ち着かない。でも、この時間がたまらなく楽しいのだ。

「奈雪行くよ」

「待ってこのキャラメ、あー!勝手に動かさないでよ!」

「映画10分前だっての、早く行くよ」

「ちょ、いつもより早いってば!」

キャラメルポップコーンとコーラを片手に、スクリーンの方へ移動する。道中には巨大な広告、エスカレーターではサイドに広告が掲示される。中には「このドラマ映画化するんだ」などの、ちょっとした発見がある為見過ごせない。他にも、通り過ぎるスクリーンの中で上映中の映画を見てはその中を想像をすることが多い。映画は映画だけじゃなく、始まる前からすでに始まっている。それが映画の良いところだと考えている。

席につくと奈雪が特典を持って「この人イケメン」と喋る。私は「この人もう死んでるけど、主人公と共闘する友達みたいなもん」とそのキャラの説明をしたのち、アニメの軽い設定を解説した。奈雪はこのアニメのことを「知っているけど見たことない」程度にしか知らない為、必要最低限は教えておかないと終わった後「よく分かんなかった」と言ってしまう。それだけはまずいので話せるためにも口早に説明した。

暗くなると自然と観客は静かになり、映画が始まった。

2時間、何もないただ普通の空間の中であれば本来長く感じる時間。でもその世界の中に入っているせいで時間感覚はおおいにバグる。2時間経ったけど経ってない様な、よく分からない感覚に陥る。

「なゆ?」

「…あ、あーどうなった?」

映画が終わって辺りが明るくなり始めた頃、スヤスヤと眠っていた奈雪を起こしてみれば元も子もない言葉をを私に返す。半ば呆れつつ「もう行くよ」と言って服についたキャラメルポップコーンを落とした。中にまだ入っているかと確認したところ、どうやら全て食べ尽くしているらしい。奈雪に乾燥を話しつつゴミを従業員さんに渡して駅近の方へ向かった。

話の議題はすぐご飯に変わってしまった。

「えーと、ご飯どうする?」

「いつも通りかなー、行きたいところ無いし」

「まぁ、そうだね。とりあえずそっち行こっか」

「その後はなゆが言ってた靴見に行くからね、寝てたし」

「ごめんってばー!私あーゆーの苦手なんだよー!」

「知ってるっての、大丈夫許してるってそれぐらいは」

行きつけの店に向かいながら、もう一度映画のことを話してみる。奈雪はあまり興味が無いらしく映画も今回で3回目だそうで一回目は私、二回目は友達らしい。二回目の時は寝るとややこしくなりそうな友達だったらしく、ガクンガクンと揺れる頭を必死で止める事があったらしい。結局最後の最後で寝てしまって、その後の雰囲気はちょっと最悪だったそう。

「まぁ、今回は奢りだったし、流石に行ってあげようかなって思っちゃったしねぇ」

それが苦手な映画に来てくれた理由だったらしい。

突然、それも私には理解不能な、奈雪がピタッと動きを止める。何やらジーッと奥の方を見ていそうだった。

「どした?早く行くよー、」

「お腹すいた」と言おうとした瞬間、奈雪が「ちょっと待って」と進む私を手で遮った。

「ねぇ、聞きたい?」

「何を?」

「いや、まぁ、言うべきだね、これ。」

「え、なになに怖い怖い」

明らかに冗談じゃない雰囲気と真剣に言う奈雪があまりにも不自然すぎて駅チカのど真ん中でフリーズした。

「いる」

指を刺した方向をジーッと見る。

「なんで律希がいんの?」

数人の男女と一緒に確かにいる。簡単な服装の上に帽子、マスク、マフラーを見に纏い私達が行こうとした店から出る姿が見えた。

「どーするの、らるわさーん」

「もちろん尾行」

「まぁ、そうするよね」

奈雪を先頭にバレない様に尾行する。奈雪も私もマスクをつけ、観察しながら考える。

「なんであいつインフルって嘘ついてまでここにいるんだろ」

「知らない。急に誘われて断りきれずに行ったとか?もしそうだったら私別れるよ?ほんとに」

「律希はそんなことしない奴だけどねぇー」

「何かあるとは思うけど、誘っといて断る?普通」

「ないない、絶対ない」

「でしょ?でもね、絶対何かあるとは思うんだけどそれが分かんない」

「あいつが今日あのメンバーで遊ぶこと忘れてて、らる前日に誘っちゃって、今日になって思い出して、とか?」

「もしそうだとしても、嘘つく事は無いでしょ。もしそうだったらまだ納得はするけど…でも許せないね」

「裏切りか…らるからすればそう見えちゃうって事だよね」

「うん、そうだね」

複数人でわいわい喋っている姿を見ながら、何を考えているのだろうと思いつつ無表情に変わる。楽しかった映画のことが一瞬で消え去ってしまう感覚と思考が追いついていかない感覚が混じって不快感を覚える。

「もー良いよ、後で言っとく」

「まぁとりあえずついて行こ、まだ分かんないからさ」

「もう、なんも無いと思うけどね」

「とりあえずバレない様にね」

「はいはい」

駅チカを出て少し外れの方まで歩いて行く、一定の距離を保ちつつ絶対にバレない様に尾行を続ける。たまに別れて電話しつつ場所を共有するなどの、ちょっとした警察官ごっこに奈雪は楽しんでいることを隠し切れていなかった。申し訳ないと思う反面どうでも良くなってきた私もこの尾行自体を隠れながらに楽しんでいた。

そんな中、律希たちは少し離れた大型の複合施設へ入っていった。私達も入ろうとしたが何をするのか分からず、鉢合わせする可能性があったためここで尾行が終了する。奈雪と一緒に「お腹すいたね」と笑いつつお昼ご飯を食べにいった。

「さてと、そんじゃあまぁ、ひと段落ついたわけだけど」

「正直、途中からどうでも良くなっちゃった。なんか尾行とか初めてだから途中楽しんだし」

「へー、良かった良かった」

「最初からなゆは楽しんでたのバレバレ、こうなることなんとなく分かってたけど」

「予測までされて当たってるとか、私見透かされ過ぎでしょ」

「分かりやすい分かりやすい」

チーズグラタンをひと掬いして頬張りながら、奈雪の顔を見てみる。どこか落ち着いた感じがしてホッとしつつ久しぶりに頼んだ紅茶を啜る。

「言って良い?」

「良いよ」

「なんであいつここに嘘ついてまでいるんだろね」

「んー、マスクと帽子、あとマフラー着けて顔隠してたからいけるって思ったんだろね。奈雪にはバレバレだったけど」

「私もこういう人探し得意なんだよね。千里眼的な」

「人探しのプロすぎるって、なゆいなかったら絶対分かんなかったし」

「でしょでしょ、視界に入った瞬間あれ?ってなってじっくり見たら…見てはいけない人を見たって感覚」

バケットに切った肉を挟み、口の中をいっぱいにして頬張っている。そこから更にコーンポタージュをかき混ぜひと掬いして口に入れる。

そんな奈雪を見ながら私は律希との過去を思い出す。

「でも、私悪いことしてないし最近特に何かあったわけじゃないしなー、何もないんだよね」

「原因不明ってやつか、わけわかんないね」

「ほんとね」

「んー、律希のこと嫌いになった?」

一瞬、掬ったグラタンを落としそうになった。紅茶は揺れて落ち着かない。

「嫌い…か。結構えぐいこと聞くね」

「あ、いや、ちょっとだけね?別に言わなくてもいいからね!?」

奈雪は動揺していた。おそらく気軽に言ったつもりの言葉が爆弾だったことを後悔している。現に表情と雰囲気から、けっこう焦っている様に感じた。

「いいよいいよ、えーと、嫌いではないよ。単純に怒ってるだけかな」

「怒ってるか、まぁそうだよね。怒るよね普通」

「何があったかは知らないけど、私との約束を破って嘘をついて誰かと一緒に遊びに行った。その事実は変わらない」

「まぁ、そうなるね」

「でも特段それで嫌いになったとも思わない、でもなんで嘘をついたのかは気になるかな」

「らるからすれば裏切りだもんね。罪は結構重いよー」

そう言いながらフォークを私に向ける。

「ほんと、こんなことされるとは微塵も思わなかったかなー」

いちごスムージーをストローで回しながら、「なんで嘘ついたんだろう」と自問自答する。「忘れてたから」「友達を優先したかったから」と考えつつ「結局考えても無駄か」と、一度切り替えてはまた別のことを考える。「そもそも、私との映画は行こうとしてた、だから行きたくなかったってのはない。でもなんでそこで友達が入ってくるんだ?」回す手が早くなる。「はぅ」とため息をつきながら無意識に鼻を触る。

大体、考えても分からない時ほど考え過ぎてしまう性格。奈雪の「お、集中モードかー」という一言さえ雑音として認識している。

そんな不安定な状況下で、律希の立場になってまた考える。いたって普通の男子高校生であり優しく真面目な性格、明らかに嘘をつく様な性格ではない。それについては奈雪も理解しているはずだ。

一口だけゆっくりと味わう。

映画に誘ったのが昨日、断ったのが今日の朝。奈雪が言っていた一つの仮説が本当だったとすると前から数人で今日遊ぶ約束をしていたが、すっかり忘れて私を誘った。それに気づいたのが今日だったからどうするか考えた時に嘘をついて友人と遊ぶ方を選んだ。

これだと納得がいく、私なら前々から約束していた方を優先する。嘘だって、この一連を隠すための口実だと考えれば理解できる。

「じゃあ、別の可能性は…」

「んー、考えてもわからなくない?私が言ってたことだってあくまでぽいよね〜ってだけで、えーと、筋が通ってても可能性でしかないし」

「…まぁ、そうなんだけど、ほんとそうなんだけどさ、気が済まないんだよね。なんか。」

「らるはいっつもそうだもん、それくらい知ってる。だからこそ言ってるんだよ、今はとにかく、私と一緒なんだから今を楽しまなきゃ。」

「…まぁ、そうか、そうだね。ごめんごめん、ちょっと考えすぎてた。」

空になったグラスの中にある、溶けかけた氷を口に入れて噛み砕く。なゆはそんな私を見て誇らしげに笑っている。

「全部出てる」

グラスを戻しに、立って振り返ったタイミング、なゆと同じ顔でそう呟いた。

1時間以上経っただろうか、いつもより少し高いお会計を二人で済ませながら、久しぶりにゲームセンターにでも行こう!となり足早に駆け込む。すると、律希と一緒にいた友達が一瞬だけ見えたのですぐさま逃げ出した。

「流石にあれはないでしょ」と二人で話しながら、どこかに行こうと考えても「ばったり会ったらまずい」となり、結局次の電車で帰ることとなる。

すでに時刻は18:00前だった。意外にも早く帰る事になってしまったので母親に「ごめん、早く帰る事になったから軽くご飯いるかも」と申し訳なさそうな感じで連絡し、奈雪と一緒に電車に乗る。「なんで私たちが逃げなきゃいけないんだよ」と笑いながら、この日はゆっくりと家に帰った。

部屋に入るなり、私は今日起こった出来事を整理し始める。一人だけの空間、そのおかげでなにも気にすることなく没頭することができる。

でも結局のところ、考えることよりも先に真実を知りたいという欲求の方が強い。この部分に関しては本当に奈雪のおかげとしか言いようがない。奈雪でなければ今日の私はもっと落ち着かない不安定な状態だっただろう、出発前の時と同じように「奈雪さま〜」と、回転する椅子でクルクル回りながらスマホを胸に当てて呟く。

とにかく、今この疲労と奈雪のブーストのようなものが効いている内に寝なければ、切れたタイミングで恐らく問い詰めてしまう。まだ、律希はこのことを話していない。できれば律希から話すこと、それが唯一全員が救われる行動。だから今は暴走する前に眠ってしまいたい。

何も考えない中、お風呂を入れては寝る準備を段々と進める。正直、風呂に入る気力など無いが流石に気持ち悪い。

ベットに入ろうとしたタイミングで奈雪から連絡があったが、それよりも睡眠欲が酷かった。そのせいで今日はいつもより1時間早く眠ってしまった。

奈雪から「どうなった?」と連絡が来たのは大晦日前の12月30日だった。大掃除が終わり、陽が落ちる頃に来た連絡は私を落ち着かせてはくれない。

まだ律希となにも話していないのだ。なにも話すことができず、ずっと放置状態になってしまった。たまにする通話もしない、履歴に残っているのは12月24日と書かれた、私の心配するメッセージ。どうも、あちらから離したくはないらしい。

正直、どうでも良くなっていた私は特にアクションを起こすつもりもなく、ただこの状況の中で茫然としていた。きっとこのまま、この状況が続けば関係が危ういことぐらい分かっている。それを理解してもなお私の心情は「どうでも良い」、そう判断しているのだ。

私は特に考えることもなく「特に進展無し、相手待ち」と返した。きっと奈雪は私のことを心配している、だから聞こうにも聞きづらかったのだろう。「ごめんごめん、心配かけちゃってさ」一言付け足す。

奈雪はきっと「大丈夫!」と答えて何かと理由を付けて終わらせるか、そのまま何か面白い議題を持って話そうとする。私としては面白い話を持ってきてほしかったがそんなこともなく、自然と終わってしまう。

冬の夕暮れは早い。気分転換に外を見れば陽と大気が生み出す淡色は雲の淵を彩る。それはまるでキャンパスだと、そう言って考えを止めようとするが今日は何かと不機嫌だからか、普遍への反抗心が芽生えた。

今の私が望む心の情景、そう考えて納得する。そのおかげで少しは前向きになれた気がした。

冬は、夏と比べると長く感じる。それは生物学的にも心理的にも感覚としては一般的なものらしい。しかし、そんな冬でも年末には敵わない。年が変わる瞬間を基準とした前後の時間は一年の中で最も時間感覚がバグる。

気づけば既に1月15日、学校生活が始まって何も変わらない日が続いていた。

いや、変わったことといえば律希のことぐらいだ。あの日から連絡は全て途絶え、一緒に帰ることも無くなった。

奈雪はその事に触れようとはしなかった。

過ぎる時間と共に、私と律希の関係は途絶えていく。奈雪と別れた帰り道、ふと夜空を見上げると、その空間にふわふわと浮かぶ雲が純白の細雪を降らせ街を真っ白に染めてゆく。染まった街は前と比べるとどこか儚く、少し閑散としている。この心地良い雰囲気は私のお気に入りの空間だった。

いつか、このロマンチックな背景の中で好きな人と一緒に手を繋いで過ごす。馬鹿みたいな妄想が私の心を紅く彩どってゆくはず。

それが彼じゃなかっただけ。現に、想像しているのは初恋だった人の当時の姿。

誰もいない一人だけの暗闇の中、大きく手を広げながら振り返り、らるわはこう言った。

「悪いね」

次の日から私は彼女ではなくなった。

言動は特に変わらずいつも通りの日常を送る。

次の日も、その次の日も、らるわは何もなかったかのように振る舞う。

奈雪は気づいていた、表情と言葉の端に付いている澱んだ雰囲気を無意識に感じ取っていたんだと思う。

「ごめん」

学校で言われたその言葉がやけに心を抉った。奈雪の性格があまりにもお人好しすぎるせいだから、私は彼女を傷つけた事実についさっきまで気づかなかった。

私にとって、彼との恋愛はきっと彼氏じゃなかったと思う。こんなにも喪失感や失恋の感情がないことが、その推測を確実なものへと変わっていく。結果的に、私は自分のために周りを不幸にしてしまった。その事実は変わらない。

心は澱み、暗くなったその時、私は私に語りかける。

「初恋には敵わないっか」

その初恋の鳥籠を自ら飛び込んだ私は、恋というキラキラした毒のある不可解な精神異常の渦の外へ、一人で逃げ出した。

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