【第9話 成瀬の真意、揺れる決意】
成瀬からの突然のメッセージ。
避けられない対話が、悠斗の胸に重くのしかかる。
梨央との関係を守るため──彼は、成瀬の言葉と向き合う。
夕食後の暗い部屋。
机の上に置いたスマホが、静かに振動した。
《真壁、今度ちょっと話せないか? 梨央のことについて》
短い文章なのに、指先が一瞬止まった。
何度読み返しても、文面は変わらない。
(……逃げたらダメだ)
頭ではわかっているのに、胸の奥に冷たいものが落ちてくる感覚があった。
しばらく迷った末、深呼吸をして送信ボタンを押す。
《いいよ。明日、放課後に》
送信済みのマークがついた瞬間、心臓が一つ、大きく脈打った。
* * *
翌日。放課後のチャイムが鳴ると、教室は部活へ向かう生徒たちで一気に賑やかになる。
その喧騒を抜けて、俺は約束の場所へ向かった。
校舎裏。
風が通り抜けるその場所には、ベンチと自販機が一台。
成瀬はすでにそこにいた。
制服のジャケットを脱ぎ、ペットボトルの水を握っている。
「悪いな、急に呼び出して」
「……で、話って?」
成瀬は少し黙り込み、ペットボトルをベンチに置いた。
そして、まっすぐ俺を見た。
「お前、本気で梨央のこと……好きなのか?」
予想していたはずの質問なのに、喉の奥がひどく乾いた。
うまく声が出ない。
「付き合ってるんだろ?……いや、“契約”なんだっけ」
その単語に、胸の奥が小さく波立つ。
「俺、知ってたよ。梨央から聞いた」
「……そうか」
「でもな、それがいつまで持つんだって、正直心配してる」
「心配?」
「梨央ってさ、他人に合わせすぎるとこあるだろ? 自分の本音、隠してまで。
あいつ、笑ってるときほど無理してることあるんだよ」
成瀬の声には、からかいの色はなかった。
ただ、真剣な眼差しだけがそこにあった。
「お前が嫌なやつじゃないのはわかってる。
でも、もし梨央が傷つく未来しかないなら……俺は止めるつもりだ」
静かな言葉なのに、胸にずしんと響く。
* * *
そのあと、しばらく沈黙が続いた。
校庭から聞こえる部活の掛け声と、ボールの弾む音が、やけに遠くに感じられる。
「……俺は、本気だよ」
やっとのことで口を開く。
「でも、まだちゃんと……言えてないだけで」
成瀬は少し目を細めた。
「だったら、早く言ったほうがいい。
あいつ、待ってくれるタイプじゃないから」
そう言って、立ち上がる。
その背中を見送りながら、俺は拳をぎゅっと握った。
* * *
帰り道。
街灯に照らされた歩道を、イヤホンもつけずに歩く。
成瀬の言葉が、頭の中で何度もリピートされる。
(俺は……本気なんだよ)
だけど、それを口にする勇気がまだ足りない。
悔しさと情けなさが入り混じる。
* * *
夜、自室で課題を広げたまま、ぼんやりとスマホを眺めていたときだった。
画面が光り、通知が表示される。
《明日、少し話したいことがあるんだ》
梨央からだった。
短い文章なのに、心臓が早鐘のように打ち始める。
(何を……話すつもりなんだ?)
画面を見つめながら、答えのない問いが胸の中で膨らんでいった。
第9話では、成瀬の本音を通して、第三者の視点から見た梨央の危うさを描きました。
悠斗は「本気」という言葉を胸に抱きながらも、まだそれを梨央に伝えられていません。
次回、第10話では梨央が切り出す「話」がふたりの関係を大きく動かします。
どうぞお楽しみに!




