【第8話 揺れる想いと試される距離】
過去の傷を乗り越えると約束した悠斗と梨央。
だが、穏やかな時間の裏で、ふたりの関係を揺さぶる出来事が忍び寄っていた──。
今回は「信じたい気持ち」と「揺れる不安」をテーマに描きます。
放課後の帰り道。
昨日の会話を思い返しながら、悠斗は歩いていた。
梨央の手の温もりは、今もはっきりと残っている。
「逃げない」──そう約束したばかりだった。
「悠斗くん」
横を歩く梨央が、少しだけ立ち止まった。
「明日ね、部活の後に用事があるから、一緒に帰れないかも」
「そっか、分かった」
ほんの小さなこと。
なのに、胸の奥がざわつく。
(……成瀬とじゃないよな)
そんな考えがよぎって、自分に苛立つ。
疑うなんて、約束したばかりなのに。
翌日。
放課後の教室で、悠斗は机に突っ伏していた。
「真壁、帰らないの?」
翔太が声をかけてくる。
「……ちょっと待ってる」
「もしかして姫野さん?」
「いや……」
答えを濁した。
そのとき、廊下から梨央の笑い声が聞こえた。
振り向くと、彼女は成瀬と並んで歩いていた。
手には部活用の大きな紙袋。
(用事……これ、だったんだ)
見てはいけないものを見たような感覚。
成瀬が梨央の荷物を受け取り、軽く肩を叩く。
その一瞬だけで、胸の中に重い何かが広がっていく。
夜。
布団に入っても眠れない。
スマホの画面を見つめ、未送信のままのメッセージを打っては消す。
『今日、成瀬と一緒だった?』
そんなこと、聞けるはずもない。
聞いた瞬間に、疑っていることが伝わってしまう。
(信じるって、難しいな)
土曜日。
商店街のカフェで、悠斗は偶然、梨央と加賀谷さんが一緒にいるのを見かけた。
机の上にはノートと参考書。
ふたりとも真剣な表情だ。
「あ……悠斗くん?」
気づいた梨央が、慌てて立ち上がる。
加賀谷さんが小さく会釈した。
「勉強会してたの。今度、模試があるから」
「……そうなんだ」
今度は疑うよりも、言葉にできない安心感が勝った。
同時に、自分がどれだけ不安定だったのかを思い知らされる。
「ごめん、変なとこ見せたね」
梨央が少し笑って、席に戻る。
帰り道、ふたりきりになった。
商店街の街灯がぽつぽつと灯る。
「昨日のこと、言わなかったのは……成瀬と話すのが、悠斗くんに悪いかなって思ったから」
「……なんで?」
「前に、ちょっと顔が曇ってたから。私、余計なこと考えさせたくなかったの」
梨央の声は少し震えていた。
「でも、隠したことで逆にモヤモヤさせちゃったかもしれない。ごめんね」
悠斗は立ち止まり、彼女を見つめる。
「俺のほうこそ、ごめん。信じるって言ったのに、勝手に疑って……」
ふと、梨央が笑った。
「そういうのも、含めて練習中なんだよね、私たち」
「……そうだな」
夕暮れの街で、ふたりの影がまた並んだ。
その夜、悠斗のスマホに1通のメッセージが届く。
送信者は──成瀬隼人。
《真壁、今度ちょっと話せないか? 梨央のことについて》
胸の奥で、また小さく波が立つ音がした。
読んでくださり、ありがとうございます!
今回は「信じたい気持ち」と「揺れる不安」をテーマに描きました。
ふたりが近づく一方で、第三者の影が確実に存在感を増していく回です。
次回、第9話では──成瀬が動き出します。
悠斗と梨央の関係に、新たな波乱が訪れる予感……。
お楽しみに!




