【第7話 気づいていた優しさ、知らなかった痛み】
ようやく心が少しずつ通いはじめた悠斗と梨央。
だけど、ふたりの過去には、まだ語られていない“痛み”が残っていた──。
今回のテーマは「気づかれなかった涙」と「すれ違いの根」。優しさの裏にある傷を、丁寧に描いていきます。
週明けの朝。
通学電車のなか、悠斗は窓の外を眺めていた。
金曜のデート──いや、“デートみたいなもの”──を思い出す。
あのときの梨央の言葉。クラゲの前で言われた「好きだった」という一言。
あれは“過去形”なのか、それとも……。
「……」
考えれば考えるほど、分からなくなる。
駅に着いて、改札を抜けたところで、梨央の姿を見つけた。
「おはよう、姫野さん」
からかうように声をかけたのは、2年A組の男子・成瀬隼人だった。
爽やかな笑顔。モデルのような整った顔立ち。
梨央とは中学時代からの知り合いらしく、最近よく話している姿を見かけるようになっていた。
(……別に気にすることじゃない)
そう自分に言い聞かせて、悠斗は黙って歩いた。
放課後、校舎裏のベンチ。
今日もふたりで並んで帰る予定だったのに、梨央は成瀬と何か話していた。
遠目に見えるふたりの距離感が、なぜか胸に引っかかる。
(俺、嫉妬してるのか……?)
そう気づいた瞬間、自己嫌悪のような感情が湧いた。
“演技”じゃない感情が、もう自分のなかで動いていることに、気づいてしまった。
その夜。スマホの通知が鳴った。
──梨央《明日、ちょっと話したいことがある》
翌日、放課後。
校舎裏のあの場所で、ふたりは向かい合っていた。
「昨日のこと、気になってた?」
梨央が、少し不安げに尋ねてくる。
「……まあ、ちょっと」
「成瀬くんね、中学の頃、私のこと好きだったんだって」
悠斗の心が、静かにざわついた。
「それで今日、あらためて言われたの。“付き合ってほしい”って」
「……そうなんだ」
その言葉をどう受け止めればいいのか分からなくて、思わず視線を逸らす。
「でも、断ったよ」
「……え?」
「“私、今は他に気になる人がいるから”って」
梨央の視線が、まっすぐ悠斗に向けられる。
「悠斗くん。私ね、ずっと聞けなかったことがあるの」
「……なに?」
「なんであのとき、“ふさわしくない”なんて言ったの?」
その問いは、まるでずっと心の奥で冷たく凍っていた記憶を突きつけられるようだった。
「本当は……好きだった。でも、梨央がみんなに羨ましがられてるのを見て、自分が壊しちゃう気がして……怖くなった」
「私ね、ずっと自分に魅力がなかったから、って思ってた」
梨央の声が震えていた。
「自分を否定されたみたいで、すごく、苦しかった」
「ごめん……本当に、ごめん」
その言葉しか、出てこなかった。
そして、静かに手を差し出した。
梨央は一瞬戸惑ったあと、そっとその手を取る。
「ねえ、悠斗くん。次は、ちゃんと伝えて。ちゃんと、逃げないで」
「……うん。逃げない。今度こそ、ちゃんと向き合う」
帰り道。手をつないだままのふたりの影が、夕焼けに重なっていた。
読んでくださり、ありがとうございました!
今回は、ふたりの過去にあった“言葉にならなかった傷”と、初めての真正面からの会話を描きました。
ラブコメでありながら、ちゃんと心に触れる会話──そんな回になっていたら嬉しいです。
次回は、新たな“恋の波乱”が訪れます。どうぞ、お楽しみに!




