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 何年前というのか、書いても時は進み嘘になってしまうので書く意味はないのだが、この世に僕が誕生してからの記憶を書こうと思っている。

 一番古い記憶がどれなのか、もはや時系列も定かではない曖昧な記憶なので、ここは母親に聞いた話をしよう。

 親が子供を親戚などの家に預ける時、普通は寂しくて泣くらしいのだが、僕は泣かなかったらしい。

 母親が離れることにさして意味を感じなかったのだろう。

 そのことがショックだったと母親は何度も僕に聞かせた。恨まれていたのかもしれない。

 そのようなわけで、僕から母親への愛情表現はほとんどなかったようだ。

 その代わりに反抗期もなく、ママ友などからは羨ましがられたとも聞く。

 覚えている限りで言うけれど、親に逆らってうまくいくことなんてない。

 それをわからされているから親の傀儡かいらいになることにさして時間はかからなかった。

 歌うことが好きだった。

 小学生の時、マイホームになったので歌い放題できた。

 だから歌手になって人気を博したかった。

 親にはこう止められた。

「いくら歌がうまくても、あんたの顔じゃテレビには出れん」

 ショックだった。歌うこと以外に楽しいことなんてない。

 その時から自分の顔を鏡で見るのが恐ろしくなった。

 確かに授業参観などの時、クラスメイトから「お前の母ちゃん綺麗だな」と言われる。

 それは裏を返せば僕のような醜い者の母親があんなに綺麗なはずがないという評価だ。

 だから母親の言うことに説得力しかなかった。

 そうして僕は夢を持たず親の傀儡くぐつとして育つ。

 いつも100点のテスト。

 最初は嬉しかったはずだ。

 しかしある時98点を採ってしまう。

 そこから以降、いつも母親には怒られた。

 なぜケアレスミスをするのか、とかだったと思うが、あまり内容を覚えていない。

 印象に残るのは母親のヒステリーな声と恐ろしい形相だけだ。

 99点でもこっぴどく叱られるし、他の子たちはもっと酷い罰を各家庭で受けているのかと思うと気の毒でしょうがない。折檻というやつか、はたまた拷問か。あまりに恐ろしいので想像しないことにしておいた。

 僕は勉強もスポーツもできたし自信家でもあったのでクラスの人気者だと最初は錯覚していた。

 しかし100点が採れなかった以降、仲間だったクラスメイトから手のひら返しを受け、いじめられることとなる。

 確かに僕の所業もエスカレートしていたし、今思い返せば当然の帰結だったかもしれない。

 どんな奇行かというと、男子に好きな女子TOP3を聞いて下敷きに記録するという馬鹿げたものだった。

 もちろんすぐに見つかって非難囂々だった気がする(あまり覚えていない)。

 他にはというと、クラスの女子にどういう経緯だったか失念したが、

「クラスの女子の半分は抱ける」と息巻いたことがあった。

 この「抱ける」というのは、もし女子全員が抱きしめて欲しいと懇願してきた場合のハグのことであって、決してRー18めいたことではなかったのだが(そしてそのような知識もなかったのだが)、女子全員からこれまた非難囂々となり、僕は訳が分からなかった。

 どうやら頭の良い(テストの点数がいいというだけの意味である)自分にも分からない世界が常識という世界には含まれているのだと知り、常識ってなんなのか分からなくなった。

 それなりに本を読み、百科事典を齧っていたりしたので、博識であるつもりだった。「茂み」という言葉が読めなくて先生に聞いたりと学習意欲があった。

 しかし母親は100点を採っても褒めてくれたことがない。それが当然であることを理解し、人生は100点を採り続けなければ落第するシステムなのだと理解した。

 また、ヘマをすれば人望も地に落ちると知った。

 こんな簡単に人間失格になってしまうなんて、人生は欠陥ゲームだなと思った。

 だから「死にたい」と思うのに、そう長い年月としつきはかからなかった。

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