94 帰還
全員が荷物をまとめてもと来た道を戻ろうとしたとき、ヤヒスをマスターとするダンジョンの意志が声をかけてきた。
「マスター」
「なんだいヤー」
「このまま徒歩で帰るおつもりですか」
「それしかないだ・・・もしかして入口ににすぐ帰れる機能があるの?」
「はい、管理者権限のフロア移動を使えば入口まで戻れます」
ヤーは平坦な口調で返事をしてきた。
「だって、どうする?」
全員が真剣な目で「使う」と言った。
管理者権限で最下層から入口まで一瞬で移動したヤヒス達一行は重い疲れを全身にまといため息をついた。
「マスター、またのおこしを」
ヤーがそう言ったので、ヤヒスは返事を返して手を振った。
ヤヒスダンジョンから出て、通りを歩きパーティーホームに戻ると、ヤヒス達は椅子やソファーにへたり込んだ。
「・・・40日以上、あの中にいた」
ヤヒスがつぶやく。
「私、思ったんだけど、私たちがダンジョンを攻略したことを報告しない方が良いと思うの、だって最下層まで行ってドラゴンと仲間になったけど、管理者権限を使っているものね」
ヴィーシャがテーブルに顔をくっつけた形で言った。
「私もそう思います、確実にトラブルになります」
ミードリも賛同する形だ。
「とりあえずお風呂沸かして来る・・・」
とヤヒスがふらりとバスルームに消えた。
ドラゴンから少女へと変化したフィスは、人間の家を珍しそうに見て周っている。
「良く考えたらあの子ずっとあの中にいたのよね、物珍しいのも・・・」
ヴィーシャが定まらない目でそう言った。
その内ヤヒスが戻ってきて言った。
「部屋がひとつ余っていてよかったよ、フィスの部屋にちょうどいい」
そこにフィスが飛び出してきて言った。
「2階の部屋にある空いている部屋を使っていいのか??」
フィスが嬉しそうな顔をしている。
「もちろんだよ、仲間なんだから」
「床で寝ろと言われるかと思っていたぞ」
そんなことは言わないと全員が声に出す。
「今までも床で寝ておったし、マスターに従う場合その位の立場だと考えていたが」
「フィスには主従関係が刷り込まれているのかもしれませんね」
ミードリが静かに言うと、フィスが笑いながら言う。
「ヤヒス、もといマスターヤヒスとは契約の糸で結ばれているからな!」
フィスは楽しそうにしている、それは人間の見た目相応の無邪気さと真面目さを持っているように見えた。




