74 ワアイの町①
ヴィーシャの提案でワアイの町にバカンスに行くことに決めた一行は、チヌックの背に乗り大空を飛んでいた。
遠くに海岸線が見えてきたのでみんなはしゃいでいる。
「ワアイって言ったら人気のレジャースポットで毎年夏になると大勢観光客が詰め掛けるのよ、海水浴もそうだけど海産物が美味しいらしいのよ、海上コテージもあって大人気なの、奮発してそこにしようかしら」
ヴィーシャが早口でまくし立てるのを全員黙って聞いている。
「水着はどうするの」
パムが聞いてくる。
「現地で買うのがツウなんだって、流行りがあるみたいなの」
「なんだか恥ずかしいですね」
ミードリが少し困った顔をする。
(女子ってのはやっぱそう言うのも気にするんだな、俺はいつもの短パンでも良い位なんだけど)
女性が多いパーティーなのでこういう時、ヤヒスは蚊帳の外である。
そうこうしているうちにチヌックが下降をはじめ、ワアイの町から離れた森に着地した。
チヌックはすぐに鷹の姿に戻り、ヤヒスの肩に乗った。
そのまま森を抜けて街道に出ると海岸線を目指す。
だがワアイの町は様子がおかしい、ほとんど人気が無く、閉店の看板を出している店も少なくない。
「おかしいわね、人が全然いないわ・・・多い時は海がいっぱいになるくらいだって聞いているのに」
ヴィーシャが怪訝な顔をする。
「そうだね、海に入っている人が誰もいない」
ヤヒスが同意する。
しばらく進むと観光案内所があったので、そこで話を聞いてみることにした。
「こんにちはー」
ヤヒスが室内に入ると椅子に座ったまま居眠りをしている中年男がいた。
「おじさん!」
ヴィーシャが声を張ると中年男が飛び起きた。
「おぉ、観光客かい?海なら今は入れないよ」
「どうして」
パムが質問する。
「海にな、出るんだよ、ロックヘッドシャークのデカいのが」
男は海を指さして言った。
「冒険者に討伐依頼は出しましたか?」
ミードリがそう聞くと男性は答えを返してきた。
「頼んださ、だがねぇ、海の中だから手が出せないってなんやかやしてみんな帰っちまうのさ」
男は椅子を軋らせて壁にもたれかかった。
ヤヒスは何か考え付いた様子で言った。
「俺たちも冒険者なんだけど、討伐したら何日かの観光代金は全員分無料にしてくれる?」
壁にもたれた男性は視線をちらりと投げて言った。
「出来たならその位聞いてやるよ、出来たらな」
「おっちゃん、言質取ったからね!」
ヤヒスは満面の笑みで言った。




