68 一本
木剣が剥がしく当たる音が修練場に響いている。
ヤヒスとヴィーシャが模擬戦を行っている音だ。
「剣を交えたら方向を変えるか重心をずらして体勢をずらす!!」
「足元もおろそかにしない、すくわれたら倒れて首に剣を刺されるわ!!」
「大ぶり過ぎる!!懐に入られるわ!!」
ヴィーシャは大声でヤヒスの指導をしている。
今日で二週間、毎日この調子である。
(俺は上達しているのか?ヴィーシャに全然及ばない気がするぞ・・・いや、集中)
ヴィーシャの攻撃は止む気配は無い、実戦なら何度死んだかわからないほど攻撃を食らっている。
彼女は上段突きを放ってきた。
(剣を交えたら方向を変える!)
ヤヒスは突きを左側に流し、そのままヴィーシャの剣を滑らせるように彼女の肩に一撃入れた。
「イッツ!!」
ヴィーシャが肩を押さえる。
「ああっ、ごめん、止められなかった!!」
ヤヒスがしゃがみ込んでヴィーシャをのぞき込むと、木剣が顔面に差し出されて、額を小突かれた。
「油断するな!!これは模擬と言えども戦闘よ!!今のであなたは額を貫かれているわ!!」
「ああっ、そうか・・・油断しちゃだめだね」
ヤヒスがしょぼんとする。
「ふぅ、早すぎるわね」
ヴィーシャが汗を拭きながらつぶやく。
「え?なにが?」
ヤヒスが返事をする。
「上達速度よ、あなたの剣の上達速度が、今の一本は私を戦闘不能にする一撃だわ、私は10歳の頃から剣を握っている、7年間よ、あなたはせいぜい4-5か月、その差は埋まらないはずなのよ」
ヴィーシャは柵にもたれかかって話をつづけた。
「あなたの恩恵である女神の恩恵の効果だとしか考えられないわ、恩恵だとしても考えられない上達スピードなのよ」
ヤヒスは言葉を返せないでいた。
「今日はこのくらいね、あなたすぐに私に追いつくわよ、討伐の時は頼もしい限りだわ」
二人は並んで修練場を後にした。
ミードリとパムは先にホームに帰ってきており。
ちょうど風呂が沸いた頃だと言ってきたので、ヴィーシャを最初に入らせた。
ヤヒスは持ち帰った木剣を構えたりずらしたりして型をやっている。
「あらあら、帰宅しても練習ですか?家に帰ったら休んだ方が良いですよ」
ミードリにそう言われて返事をする。
「今日、ヴィーシャから一本取ったんだ、だから嬉しくて」
ヤヒスはそう言いながら木剣を片付けた。
「それはすごい、余韻に浸るのもわかる」
パムがそう言ったので、ヤヒスは頭をかきながら椅子に座った。




