56 絆の腕輪
ヤヒス達はタイガーの討伐依頼を受け、あらかたのタイガーを倒した後に、巨大なキングタイガーと相まみえ、まるでかなわない中、ヤヒスをかばったミードリが魔物に食われてしまっていた。
「よくも・・・オレの仲間を咀嚼して、飲み込んでくれたな」
ヤヒスは怒りの表情をしている。
「ほう、怒ったか、ならば次は貴様かな」
キングタイガーは余裕の表情を見せる。
ヤヒスは出店で買った全員揃いの腕輪を無意識に撫でていた。
「ヴィーシャァーーーー!合わせてくれ!」
ヤヒスは突然叫び、ヴィーシャはビクリとした。
彼は腕輪に巻いていたミードリの髪の毛をちぎり、手のひらに乗せ顔の前で激しく合わせた。
「結合!ミードリ!」
ヤヒスがそう叫ぶとキングタイガーの腹がぼこりぼこりと膨らみ始めた。
「なんだ!?ワシの腹が!」
キングタイガーの腹はさらに突っ張り、魔物はうめき声を漏らし、叫んだ。
「グオオオオオオオオ!!!」
ついにキングタイガーの腹は割けて破れ、ミードリの身体が飛び出して来る。
それがヤヒスの腕の中に集まり人型を形成していく。
一方ヴィーシャはミードリの身体が飛び出したのを確認し、魔物の内臓に剣を突き立て横なぎに切り裂いていく。
そして返す刀で反対側の腹に攻撃を加える。
「ダブルスラッシュ!!」
斬撃はキングタイガーの喉元まで達し、魔物は強烈な咆哮を発した。
そのうち魔物は動かなくなり、塵となって消え、魔石が転がった。
ヴィーシャが振り返るとパムがミードリにコートをかけて心音や脈拍を見ている。
ヤヒスは肩で息をして、厳しい表情を崩さないでいる。
「大丈夫、生きている」
パムがそう漏らすとヤヒスは膝に手を付き前かがみになった。
「結合のスキルにこんな使い方があったなんて・・・」
ヴィーシャは驚いたような目でヤヒスを見ている。
背を伸ばしたヤヒスがヴィーシャに言葉を返す。
「俺もどうなるかわからなかった、だけど理屈では可能だと思った、いや、やる以外方法は無かったんだ、結合の力はあまりにも強力だったし、アイツの腹を破るなんて造作もないかなと考えたんだ、ミードリも無事に元通りになる感触があったんだよ」
ヤヒスはキングタイガーの魔石を手に取った。
「それ、どうするの」
パムが聞いてくる、ヴィーシャも同じような表情をしている。
「使えば強力な武器になるだろうね、だけどミードリをあんな風にした魔物の魔石を持っているなんて嫌だ、ギルドに報告して騒ぎになるのも嫌だ」
ヤヒスは魔石を強く握り込む。
「だからこうする」
そう言ってヤヒスは魔石を草原の濃い部分に向けて思い切り投げた。




