50 バルドルド
ドルガン王国はどこか鉄臭い匂いがする。
鉄工を生業としているのだから当然である、煤塵も発生する。
だがそれらは魔石によって清められ人体に悪影響を及ぼさない段階まで薄められている。
匂いがするのも、工作によるものではなく、商品と、その見た目のイメージによるものが大きいだろう。
ドルガン王国は鉄の国ぞと言わんばかりに。
ヤヒス達一行は冒険者ギルドへの道を歩いていた。
店はどこまでも続くように見え、同じような物を売っているように見える。
「ここね」
ヴィーシャは星形のマークが掘られた大きな鉄看板を指さした。
「ギルドの看板まで鉄製なんだ・・・さすがだなぁ」
ヤヒスが独り言を言う。
全員で冒険者ギルドに入ると、何人かがこちらをじろりと見てきた。
「アンタたちどこの人?」
「ソヴィリバーレだよ」
とヤヒスが返事する。
「そんじゃ仲の良い冒険者いる?」
「イエールかな」
「イエールか!?」
名も知らぬ冒険者が声をあげた。
「あの野郎元気してるか?」
「うん、こないだ賭けでもうけたって喜んでいたよ」
「・・・お前、ひょっとしてヤヒスって名前か?」
「そうだよ、ヤヒスだよ」
ギルド中にざわめきが起こる。
「お前がヤヒスダンジョンのダンジョンマスターか!!」
「おかげで稼がせてもらっているぜ!」
「俺はバルドルド、イエールのダチだ、ダチのダチなんだから歓迎するぜ」
バルドルドはここら一帯のオススメクエストや、日用雑貨店を地図に書き込んで教えてくれた。
彼は気さくな性格のようで面白おかしく説明をしてくれる。
「で、これが一番大事なんだが、冒険者が利用する店はどこもボッてくる、そのままの値段じゃ足元みられるぜ、だからこれを渡しておく」
彼はそう言って腰に付けたポーチから、鎖に結わえられた金属製の小さな板をヤヒスの首にかけてきた。
「これを見せれば、ボられない、俺たちのパーティーのお墨付きって印だからな」
「ありがとう!」
ヤヒスが笑顔を見せるとバルドルドも嬉しそうに笑う。
ヤヒス達一行は冒険者ギルドを出て宿屋に向かった。
「あのバルドルドって男は信用できるの?変なものもらって」
ヴィーシャはヤヒスがバルドルドにもらった板を指さして言う。
「大丈夫だよ、イエールの友達なんだから」
「私はまずそのイエールが怪しいのよね」
「そんなことないよ、最初はギルドで悪口言われたりからかわれたりしたけど、あとで素直に謝ってくれたし、自分の非を認められるのは良い人だよ」
ヤヒスの笑顔を見て他の三人はもう何も言うことは無かった。




