-37- タワーダンジョン
トヨハの町に到着した次の日からヤヒス達はダンジョンを登り始めた。
下層はFランク向けの低レベルの魔物ばかりだったが、5階まで来ると歯ごたえのある魔物が出現するようになってきた。
魔物は主にミドルトード、ダンジョンラット、シルクゴースト、他様々なものであった。
「レベルも上がったし、もう3日目、だいぶ上の階へ行けるようになったわね」
ヴィーシャは剣を鞘に納めながら言った。
「火属性が効く魔物ばかりなので良かったです」
ミードリはロッドを撫でながら言う。
「魔石がすごく溜まるから、いくつか保存しているんだけどいいよね」
ヤヒスがそう言うと、パムが答える。
「良いと思う、いざと言う時に武器に結合できる」
「さて、今日は降りるとして、明日はもっと上の階に行くわよ、皆大丈夫そう?」
全員賛成の返事をしたので塔を降りて町に向かった。
「ここまで来たけどさ、宿代や食費を差し引いて収支はどうなっているの」
ヴィーシャがお茶を飲みながら言った
「十分プラスになっていますよ、朝から日暮れまでダンジョンに潜れますからね」
「王都へも一泊で到着するから、一度戻ってからまた来るのもありかな」
ヤヒスがそう言うとヴィーシャはそれを否定した。
「一気に攻略したいと思うの、と言っても8階を目途に考えているんだけど」
「良いと思う、ヴィーシャに従う」
パムは乗り気の様だ。
「下層の魔物は全部無視して、一気に8階まで行くのはどうでしょうか」
ミードリが地図の8階を示している。
そこに書いてあるのはスケルトン、ゴーストラット、シルクゴーストミドルなど死霊系の魔物が中心だった。
「そうね、どれも火属性が有効な魔物ばかりだわ、良いんじゃないの、ミードリ、あてにしているわよ」
とヴィーシャはミードリの肩を叩く。
その日は宿に向かい、早めに就寝した。
翌、早朝。
ヤヒス一行はダンジョンを登っていた。
「やっぱりザコは無視して正解だったわね」
ヴィーシャが階段を登りながら言う。
「魔法も節約できるので、効率がいいですね。
ミードリはそれに答える。
地図にあった通り死霊系の魔物が多く、ほとんどはミードリが火炎魔法で倒した。
「そこの階段から登れば8階だね」
地図を見ながらヤヒスが指で示す。
「8階、ここから未知の領域」
パムが不安そうにしているのが見て取れる。
しばらくフロアを進むと、悲鳴とガチャガチャと鳴る金属音が近づいてきた男性中心のパーティーが慌てて走っている。
「なんだろう・・・」
ヤヒスがつぶやくと走る一団の一人が、こちらに気付き声をあげた「逃げろ!!」
ヤヒス達は何やらわからないと言う顔をしている。
しばらくすると大きな羽音が聞こえ、巨大な蠅がフロアに現れた。
「リトルベルゼブブ!!」
ヴィーシャが叫びながら剣を抜く。
パムは支援魔法をかける、
ミードリは火炎魔法を放つが素早く避けられてしまう。
「ダブルスラッシュ!!」避けた位置にヴィーシャが剣を走らせるが、羽の一片が切れただけだった。
魔物は素早く飛んで停止するのを繰り返し、こちらの様子をうかがっていたが、一気に距離を詰めてきて酸を何発か放ってきた。
その内一発はミードリの服を溶かしもう一発はヴィーシャの太腿に当たった。
彼女は悲鳴を上げて膝をついてしまう。
パムがヒールをかけようと駆け出したところにも酸を飛ばしてきて、危ういところでヤヒスが抱き寄せ、着弾を防いだ。
(どうする!どうする!ほとんど戦闘不能状態だ、隅に追いつめられて逃げることもできない、クソ!この蠅野郎!!」
ヤヒスが心中で罵倒していた時に、ひらめきが起こった。
「結合!ミドルトード!」
ヤヒスは自分の持つメイスにミドルトードの特性を付与した。
「食っちまえ!!蠅野郎を!!」
ヤヒスが叫ぶとメイスがしなやかに伸びリトルベルゼブブに向かった。
魔物は素早く避けるが、メイスは軌道を変え魔物を絡めとった。
リトルベルゼブブは「ヴィイイイイ」と音を発している。
しばらくするとメイスはリトルベルゼブブを丸のみにした。
メイスが元に戻り始めると、塵と共に魔石が床に落ちた。
「パム!ヒールを」
パムははじかれたようにヴィーシャの元に向かい、酸でやられた太腿
にヒールをかけた。
全員がようやく落ち着いたところで、ヴィーシャが声をかけてきた。
「ヤヒス、何をやったの」
「メイスにミドルトードの属性を付与したんだ、蠅にはカエルってね」
急激な疲労からか4人はその場に座り込んでしまった。
しばらくしてヤヒスは言った。
「さあ、帰らないと」
全員笑顔で立ち上がり8階フロアを後にした。




