3 女神
ギルドで罵りを受けたヤヒスはそれでも食い下がった。
「なにかクエストはありませんか」
「危険ですよパーティーを組むことをお勧めしますが...」と受付嬢が困り顔で言う。
「くっつけるスキル野郎と組むヤツなんていねぇよ」大柄な男が叫び、その場にいる冒険者は皆笑った。
「危険はなくおそらく誰でも出来るクエストがありますが」受付嬢が言うと。
「あのクソクエストか?だーれも受けねぇヤツ」と誰かが声を立てた。
ヤヒスはもう引き下がれない気持ちになっていたので、そのクエストを受けることを申し出た。
「こちらのクエストです、下水道掃除のクエストになります」
また大勢が笑う。
奥に引っ込んだ受付嬢が何かを持ってきてヤヒスに手渡した。
それはぼろ布のようなフードと長柄のブラシだった。
「このクエストの報酬はいくらですか。」「一日3000ゴールドになります。」
3000ゴールドと言えば一日の食事代に宿代にあてて少し余るほどだ、その日暮らしの金額。
しかしもう後には引けなくなっていたヤヒスは絞り出すように言った。
「......受けます」
冒険者たちの間で再び笑いが起こった。
ヤヒスは手引き用紙と地図をもらいその場を後にした。
下水道は町のはずれにある寂れた一角にあった。
長い階段を降りると、魔石で照らされた下水道があった。
酷い匂いである、足元は水没しており、何かよくわからないゴミが散乱している。
ヤヒスは鼻を曲げたあとでブラシで掃除し、ゴミをバケツにためて出入口に積み重ねた。
同じ作業を繰り返すうちに匂いは気にならなくなっていた。
ヤヒスはいったん外に出ると、もう街は夜になっている。
フードとブラシ、バケツを置いて街に出て出稼ぎ者が使う最底辺の宿に向かった。
宿に入るとみなしかめっ面をする。
「なんだいアンタひどい匂いじゃないか、いくらウチが安宿だって言ってもそんな臭いモンは泊められないよ」宿の女将はそう叫び、ヤヒスを蹴りだした。
彼は路上に転がり、そのまま下水道の方へ引き返し、入口の前で寝ころがる。
ヤヒスは自分の誇りだった結合スキルを馬鹿にされ、ひどいクエストを受けてしまったことに泣いた。
朝日が昇るとそのまま掃除作業に戻り、昼頃にギルドに入った。
しばらくすると皆、臭いくさいと騒ぎ出し、ギルドプレートを受け取った受付嬢さえ顔をしかめた。
「プレートの表示が満タンになっていますね、クエスト完了です、あの、まだこのクエストを続けますか」
それを聞いたヤヒスは「続けます、全てを浄化するまで続けます」と鬼気迫る勢いで言い切る。
その場にいた誰もが黙ったままだった。
そうして一週間が過ぎた。
ある箇所まで来ると大きな女性像が倒れてかけらが散らばっているのに出くわした。
「下水の女神様かなあ、壊れてしまって気の毒に」
そう言うとかけらを丁寧に集め、結合スキルで修復していく。
最後のひとかけらをはめると、丁寧に祈りをささげた。
すると像が輝きだし、どこからともなく声が聞こえる。
「人の子よ我を元通りにしてくれたことを感謝する、ここは元宮殿であった、人はそこに城を建て下水を流した、恨めしいこと、だが我がよみがえりし今、この場所は永遠に正常化されんとす」
声が途切れると下水道全体が眩しく輝き、濁り水は清く、汚物は失せ荘厳な空気に満ちている。
「人の子よ、そなたの持つ能力、まだ先が見える、礼としてさらなる能力を付与せんとす」
ヤヒスの身体全体が光りに包まれ、収束していった。
「め、女神様俺に何を施されたのですか!」
そう叫んだがもう返事は無かった。