29 オオツメカワウソ
踏み跡を進んでいくと小川が見え、そこに黒い何かがうごめいていた。
「オオツメカワウソよ」
ヴィーシャはそう言うと剣を抜いてゆっくりと歩み出した。
ミードリとパムもそれに続き、パムは支援魔法をかけた。
いつもの段どりでミードリが火炎魔法を放つが、水の中故か効果は薄いように見える。
ヴィーシャは突撃してオオツメカワウソに切りかかるが、その爪で剣を防がれてしまう。
「ギィン!」と音がしてオオツメカワウソをパリィで引き剥がし、その腹に剣を突き立てる。
一体目の討伐。
パムはフラッシュを放ち魔物たちをひるませる。
(こういう場合俺はどうすればいいんだ、結合?剥離?そうだ!オオツメカワウソは爪が無ければ犬同然だと言っていたな)
ヤヒスは荷物を降ろし、前線に走った。
「危ないわよ!下がって!」
ヴィーシャは叫んだ。
その後すぐにヤヒスが叫んだ。
「剥離!」
「パチィイン」と言う音とともにオオツメカワウソたちの爪がはじけ飛ぶ。
「ヴィーシャいまだ!」
ヤヒスが叫ぶと同時に彼女は斬り込んだ。
オオツメカワウソはとっさに斬撃を爪で止めようとするが、爪はそこに無い。
ヴィーシャはそのまま魔物の腕を切り裂くと、敵は塵となって消えた。
魔物は爪を紛失したことでうろたえている。
そこにミードリが火炎魔法を浴びせるが、混乱しているオオツメカワウソの群れは防御の体勢を取れず、火炎に飲み込まれた。
その後は残った魔物をヴィーシャが端から斬り倒し、戦闘は終了した。
彼女は肩で息をしている。
ヤヒスは魔石を拾い集めて袋に入れていく。
(ふぅ、役に立てて良かった、爪が無くなれば本当に弱いんだな)
「クエスト完了よ!かなりの数がいたから魔石もたくさん拾えて上出来ね」
ヴィーシャはにっこりと笑ってこちらを振り向いた。
「ヤヒス!やっぱりあなたをパーティーに入れて正解だったわ!奴らの爪を全部はぎ取っちゃうんだから」
「役に立てたならうれしいよ」ヤヒスは笑い、一行は帰路についた。
「やっぱりこの辺りで日没ですね」
ミードリが夕日を背にそう言った。
「久々の野宿ね、その前に食事よ、お腹が減ったわ」
ヴィーシャの言葉にパムもうなづいている。
「じゃあ、準備するか」
そう言ってヤヒスはリュックをおろして荷ほどきをしていく。
「お昼に食べたスープキューブってまだある?」
ヴィーシャが聞いてくる。
「まだあるよ、気に入ったの?」
「美味しかったわ、今度からアレを使っても良いかもね」
「ところがあれは高価なんだ、中級クラス冒険者から使うようなアイテムみたいだね」
「なーんだ、残念」
ヴィーシャはそう言って寝転んだ。
夕日はもう地平線に届こうとしていた。




