270 塔の町 12
ヤヒス達はひときわ大きなフロアに登り立ち、その中央にある重厚な扉の前に立っていた。
「ここが最上階なのか?」
「階段も見当たらないからここが最上階だと考えるのが妥当だわ、最も仕掛けが無ければの話しだけど」
ヤヒスとヴィーシャは他のパーティーメンバーと並び、ドアを見つめている。
「むぅ、中に悪人とやらがいるのか?」
「戦闘になるとこっちが不利になるねえ」
リャヒは槍を握り込みマサカツは弓をくるくるともてあそんでいる。
「なんだ、ほんなものミードリのエクスプロージョンボール投げ込めば先制を取れるだろうに」
「あなたねぇ・・・それやっちゃうと姫様を巻き込むでしょうよ」
フィスの言葉にヴィーシャが割って入る。
「あの、塔の主は私たちをここまでたどりつかせないこともできました、いきなり攻撃をしてくるとは思えません、まず入ってみて出方を見たらどうでしょう」
「賛成、こうしていても時間が惜しいだけ」
「む・・・それもそうだね、じゃあ入ってみよう」
ヤヒスはそう言うとドアに近づいてノックをした。
「すみませーん、お邪魔しても良いですか」
「あなたねぇそう言うことじゃ・・・」
ヴィーシャがヤヒスの腰をパンと叩く。
「どうぞ、お入りください」
ドアの向こうから声がかかった。
「だって、入ろうよ」
ヤヒスがそう言うと全員複雑な顔をして目を合わせている。
ヴィーシャがドアを押し開けて中に入ると、広々とした空間が広がり、大きなソファーに男女が向かい合って座っている。
「もしかして、ソフィアの姫様?」
ヤヒスが声をかけると、彼女は微笑みを浮かべてうなづいた。
「うん?とすればその男が悪人とされている輩か?」
リャヒは目を細めて怪訝な顔をしている。
「はい、そう呼ばれているのは私です、名をボーシと申します」
彼は礼儀正しくお辞儀した。
「うん、訳ありだね、その人はおそらく悪人ではない、何かの理由で姫様をかくまったのだろう、多分、塔の生成と今でも生きていることにも何か魔法的な要素がある」
マサカツは手のひらをボーシの方に向けてそう言った。
「なぜわかるのです・・・?塔のことまで・・・」
ボーシはあっけに取られている
「ああ、僕の世界ではそう言う物語が良くあるのさ、例えば王が死に継承権争いにそこのお姫様が巻き込まれた、多分護衛か何かのあんたが塔を建設した、そういう所かな」
マサカツは顎に手をあてて首をひねっている。
「大まかな事情はお察しの通りです、最も私は宮廷付き魔導士で直の護衛ではないのですが・・・ふむ・・・ここまで頭のまわる方々ならここまで来たのも納得です、お話ししましょう」
王位継承で殺されそうになっていた姫は、魔法の力と普段からの友情を信じてボーシにすがる、彼は魔導士として非常時のために日々貯蓄していた魔力を使い、古びた尖塔を基礎に魔法を発動する。
その媒体として姫とボーシが使われ、巨大な塔が出現したが、特定条件を満たす一団がたどり着くまで、カッキリ24時間で同じ日を二人は繰り返すことになった。
特定条件とは「知恵・勇気・善性」を持ち合わせた一団であった・・・・
「条件が間違っているわよ、私たちは善人じゃない、他の二つは知らないけれどね」
ヴィーシャがソファーに座り込んで言った。
「善人は善人だとは言いません、それに悪人が住むかもしれない部屋をノックして声をかけて来た、争いごとを避ける最低限の配慮です、これは善人と出来るでしょう」
「え?なにが?農村でも教わっている最低限の礼儀だよ」
ヤヒスはなんてことはないと言う表情で周囲を見つめていた。




