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269 塔の町11

塔を登り詰めていく黄昏パーティー一行は、何度かの魔物との戦闘を経て、開けた場所に出ていた。

ヤヒスはリュックをおろして中身を確認している。


「駄目だ・・・どう切りつめても帰りの食料が持たない、残念だけどここで引き返すしかない」


他の者は沈痛な面持ちでそれぞれに塔の中を見つめている。


「むぅ、ここで諦めるしかないか、惜しいのう」

「この一段上が頂点と言うことは無いの?」

リャヒとヴィーシャがヤヒスに話しかけてくる。


「それは何度も考えていたんだ、この上ならもしかしたらって、それでここが限界だと結論付けたんだ」


その時、壁の方から石がこすれるような音が聞こえてきたので、全員そちらの方を見た。


「ドア・・・あんなのあったっけ?」

「いいえ、私はあの辺りを見ていたけど何もなかったわ、突然出現したのよ」

ヤヒスの言葉にヴィーシャが答えた。


「トラップでしょうか・・・あからさまに怪しいですよ」

ミードリは困惑顔でドアを見つめている。


その後でフィスが鼻を鳴らしだした。


「食い物の匂いがする、あのドアの中からだ」


全員がフィスの方を見やった。


「まぁ、ここで引き返すのならば、あのドアくらい空けても良いんじゃないかな」

マサカツは首の後ろで腕を組み、左右を見て、パーティーの面々に視線を投げかけた。


結局ドアを開けることになり、フィスがドアノブを手に取って回した。


「ほ、施錠も何も無いわい、入ってくれと言うようなものだ、む、やはり食い物の匂いはこの中だな」

彼女は思い切りよくドアを開け中に入って行った。


しばらくして部屋の中からフィスの声が聞こえてきたので、全員入ることになった。


「ほれ、ちょうど全員分飯が用意されて湯気までたっておるわ」


広い室内の真ん中にテーブルが備え付けられており、確かに食事が用意されている。


「毒かもしれない、ツールレンズで調べるわ」

ヴィーシャはレンズを取りだして、食物一つ一つを確認してまわった。


「無毒よ、毒に該当するようなものは何も入っていないわ」

彼女は振り向いてそう言った。


「食料の枯渇、そのタイミングで食事の提供がなされる、塔の主はよほど頂点に到達して欲しがっている」

パムが部屋を見回してつぶやいている。


「ヤヒスダンジョンの管理者権限と同じだね」

ヤヒスはそう言うとスープを一口飲んだ。

「うん、うまい、おろおろ考えていても仕方ない、食事をとろう」


ヤヒスが椅子に座ったので全員が席に着き、各々食事を進めだした。

携行食ばかりだったので、こう言った食事はありがたく、皆かつかつと食器を鳴らして咀嚼していく。


「ふぅ、腹が良くなったわい、ワシはもう寝るぞい」

フィスはリュックから毛布を取りだして床に転がりすぐに寝息をたてた。


「ベッドもあると良かったんだけど」

ヴィーシャがそうつぶやくとミードリが言葉を返した。


「あくまでも必要最低限の援助をする、と言うことのようですね」

「妙なダンジョンだよ、突破困難な箇所があるかと思えば謎解きのような箇所もあり、食事も提供された、これは塔の主にぜひとも会いたくなったね」


マサカツは肘をついてテーブルを見つめている。


翌日も塔を上り詰めているとちょうど良いタイミングでドアが現れて食事が提供された。


「むう、しかし食事が提供されても、あといかほどで頂点に到達するかわからないのではさすがに士気が下がるな」

リャヒは腕組みして考え込むような表情をしている。


その後はたいしてすることもなく、全員毛布にくるまって就寝することになった。

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