266 塔の町⑧
見張りを交代したヤヒスはすぐに眠りに落ちていった。
暗闇の中に男が立っているのが見える、若い男だ。
意味ありげな顔でこちらを見つめている。
「来訪者よ・・・私は塔の管理者、お前たちの来訪を歓迎する、必ず頂点にまで達すると私は信じている・・・」
ヤヒスが目を覚ますとパムが何人かを起こして回っている所だった。
「はぁ・・・変な夢を見たなぁ・・・」
ヤヒスがそうつぶやくと他の者たちが怪訝な顔をした。
「む、ヤヒスよ、我も夢を見たがどんな内容だったか?」
「うん?塔の管理者って言う若い男が頂点まで来いとかなんとか・・・」
「それ!私も同じ夢よ!!」
ヴィーシャが声を出すと他の者たちも声を合わせ、全員が同じ夢を見ていたことが分かった。
「うーん・・・塔の管理者は何でも悪人とされているんだろう?歓迎するとは挑発的な意味なのか、この塔自体を攻略されることを望む何かの背景があるのかもしれないね」
マサカツは耳の辺りを搔きながら眠そうな目で言う。
「ま、どちらにしても行けるところまで行くだけよの」
フィスは目をこすっている。
出立してまた螺旋階段を登り半日も過ぎたころ、開けた場所に出た。
「ふぅ、昼食にしようか」
ヤヒスが荷物をおろして荷ほどきしようとしていたところにミードリが声をかけた。
「待ってください、この場所、前回休憩した場所と同じ場所ではないでしょうか?、そこの小石は睡眠中、背中に当たって痛かったので壁に寄せたものとそっくりです、位置まで・・・」
「似たような場所なんじゃなくて?」
ヴィーシャは怪訝な顔をしている。
「・・・匂いがするのう、昨日ワシがこぼしたスープの匂いだ、良く見ないとわからぬが染みにもなっている」
そう言ったフィスは床に這いつくばって匂いを嗅いでいる。
「マスターと、その隣に寝ていたリャヒの匂いも残っておるの、ここは同じ場所だわい」
フィスが立ち上がると全員困惑した。
「ええっ?だってただ登って来ただけよ?ありえないわ」
「ミードリも感じていたと思う、ごく微量だけど空気中に魔力がある」
ヴィーシャとパムのやり取りを見て、ミードリは軽くうなづいた。
「ここまで来るまでにも妙なカラクリがあったからね、微量の魔力を感じると言っていたけれど、おそらくは魔力で塔を操作しているのだろう、ヤヒスもできるんだろう?」
「え?、俺はそんなこと出来ないよ?・・・あっ!ヤヒスダンジョン!!ダンジョンの配置や魔物を管理者権限で操作できる!!」
「でもどうすれば良いの?この場合延々とループしてしまうわよ」
「ふむ・・・」
マサカツは顎に手をあてて壁に近寄ったり遠ざかったりしている。
「・・・良く見ないとわからないが壁に隙間が刻まれている、多分ドアだろう、どこか、どこかにスイッチが」
彼はそう言いながら壁に顔を貼り付けて見ている。
「ふむ、良くわからぬがマサカツに任せるしか無いようだな」
リャヒは腕を組んで成り行きを見守っている。
「あった!ここだ!!この壁面の石は階段の壁と比べて極めて均一に等しい、すごく平らだ、だが、ここだけほんの少し飛び出している」
マサカツはそう言って石壁の一部をグイと押し込んだ。
すると扉はゴリゴリと音と誇りを舞い立たせ、ゆっくりと外側に開いた。
「おぉーーー!!って外じゃないか!!」
ヤヒスがそう言って叫ぶと確かに壁に向こうには青空が見えている。
マサカツは首だけ外に出して辺りをうかがうと、疲れたような顔で言った。
「外にまた螺旋階段が続いているよ・・・」




