26 スピーチ
ヤヒスダンジョン解放式典当日。
ヤヒスは朝から式典会場にいたが、主賓でありながらも誰からも相手にされていない状態だった。
(国の偉い人ばかりだ、俺なんて浮いてしまうよ)
そう考えていたところに誰かから声がかかった。
急いで振り返るとそこには冒険者ギルド長がいた。
「ヤヒスさん、本日はおめでとうございます」
「ああ、ありがとうございます、ギルド長さんも呼ばれているんですね」
「私のギルドに所属する冒険者がダンジョンを発見したのですから、立場上どうしても」
と少し困った顔をしている。
「俺も緊張しています」
「そうですよね、私もまさかこんな日が来るなんて夢にも思いませんでした、しかし国の偉い方が何か話すだけだと思いますから、私たちは座っていればいいと思いますよ」
そのうち、ヤヒスは席に招かれそこに座る。
ファンファーレが鳴り響き全員が起立したので、慌ててヤヒスもそれに合わせた。
そして国歌が流れ、その場の皆で合唱する。
(国歌なんて一年に1-2回しか歌わないからほとんど覚えてないよ!)
ヤヒスはしどろもどろで何とか国歌を歌い終えた。
その後は摂政からはじまり何がしかの大臣が言葉を述べている。
(良かった、このまま何事もなく終われば家に帰れる)
「えーでは最後に、このダンジョン発見の功労者、ヤヒス殿にから一言頂戴いたします」
(え?いまなんて言った?俺が一言喋る?聞いてない聞いてない聞いてない!)
「ヤヒス殿、どうぞ」そう言われて壇上に上がる、遠くまで群衆が詰め掛け、国の偉い人たちが皆注目している」
「め、女神様、あのダンジョンは女神さまがもたらしたものだと思います、入ってしばらくしたところには女神像があります、ダンジョンに入る方は、ご自身やご友人、ご家族への祈りをささげてください」
ここでヤヒスは一息つく。
「ダンジョンは国や国民の皆様への恩恵がとても大きいと聞いております、そのような恩恵をもたらすものを発見出来たことを誇りに思います、以上です、ありがとうございました」
ヤヒスが礼をすると割れんばかりの拍手がわきおこった。
その後、式典は閉会して、冒険者が待ち望んだ入場選考会が行われた。
通常、新しくダンジョンが解放された場合、冒険者が殺到する場合があるので、少なくとも数カ月は入場制限がかかるのである。
冒険者パーティーのリーダーがくじを引き、日時が記載されている物は選考通過となり、白紙は本解放日まで待たなければならない。
当然、先行したパーティーが有利で、宝物も取り得なのだが、どのようなモンスターがいるか、トラップもあるため危険も大きいのである。
ヤヒスがその様子を遠巻きに見ていると、声がかかった。
「お疲れ様、良いスピーチだったわよ」
ヴィーシャである
「ヴィーシャ~~~緊張したよーー」とヤヒスは膝に手を置き地面を見ている。
「ヤヒスは良くやったわよ」
「おつかれさまです、これで王都一の有名人になりましたよ」
とミードリも声をかけてくる
「えっ」
「式典で一般市民がスピーチして、ダンジョンに名前もついているんですから、ほとんどの人が覚えたと思いますよ」
「私なら隠れて暮らす、衆目に晒されるのに耐えられない」
パムはそう言って顔がひきつっている。
「とにかく家に帰ろう」
そう言ってヤヒス達は人目を忍ぶようにして家に帰った。




