259 塔の町①
高く伸びる塔の元には活気ある町が広がっていた。
辺りを見渡していたヴィーシャは、地面に座り込んでカードゲームに興じている一団に声をかけた。
「この町は何て名前なの、あと通貨は何なのかしら?」
「うん?おお、ここはタワーヒルズってんだ、通貨はセンだよ、デカい塔があるだろ?ソフィアの塔ってんだ、あんた達は武装しているから塔に挑みに来たんじゃないのかい?」
「塔がクエスト対象なの?」
「そうさ、何百年も前から伝わる話でな、塔のてっぺんにな、悪い奴が姫様を幽閉していて、それを救うと報奨金が出るんだ」
「その姫様も悪い奴も何百年も生きているの?」
「ああ、塔の中は時間がおかしくなっていると言われていてな、中にはまだ姫様と悪い奴がいるって噂だ」
「ふーーーん、教えてくれてありがとう」
そう言うとヴィーシャは振り向いて言った。
「だってさ、どうする?」
「む、それは姫様を救い出すか否かと言うことか?」
リャヒがヴィーシャに答える。
「まぁ取りあえず町に入って情報収集してみよう」
ヤヒスは先に立って歩き出した。
町では「姫様」のグッズがいたるところで売られていた、店主によると塔を見たさに来訪し姫様のグッズを買うのが旅のコースになっており、一部ではいまだに塔を攻略しようとする面々が来ているとのことだった。
「チヌックで上まで行ってそこからフィスに天井を崩してもらっちゃダメなのかな?」
マサカツが短絡的なことを言いだした。
「私が聞いた話によると、フロアを登る以外に姫様を救出する手段はないと言い伝えられているそうです」
「なるほどね」
「マサカツ、私たちは冒険者よ、塔に一から挑むのが本筋ってモノよ」
「ああ、そうだったね、どうも効率重視に考えるところがあってね」
マサカツはヴィーシャにたしなめられている。
「しかしここでの通貨が無い、何かで稼がないといけない」
パムが現実的なことを言いだした。
それを聞いたヤヒスはリュックをおろし、ナイフを取りだした。
「これはドワーフに渡されたシースナイフだよ、皆が俺も俺もってたくさん手渡して来てね、そんなに使わないからって言うと、売って路銀にでもしろって言うから・・・売っても良いかなって思って」
「あなたが貰ったものだからあなたが自由にするべきよ、と言ってもまぁここは売ってしまうしかなさそうだけど・・・」
ヴィーシャは少しもったいないと言うような表情をした。
結局売ることに決まり、刃物専門の露店に持ち込んだ。
「む・・・シースのなめしがいいな、オイルも特別な物を使っている・・・」
そう言って店主はシースからナイフを抜くと目を細めた。
「こりゃ驚いた・・・ここんとこまれに見る上ものだ、ん、刻印があるが・・・これは確か・・・そうだドワーフだ!!遠い地にすむあの・・・これ一本で家が建つぞ・・・あっとしまった」
店主はうっかり口を滑らせ物の価値を話してしまった。
「聞き逃さなかったわよ、家一軒分のお金で売るわ」
「そりゃ暴利だ!!」
「どうせその倍とかで売るんでしょ?安くないかしら」
「ふーーーん、そんなまとまった金はここにはない、調達してくる
「遅いわね・・・店主」
「いや、家一軒分のお金はそうそう集まらないよ」
ヴィーシャとヤヒスは並んで何事か話している。
「いや、遅くなった、ほれ!3000万センだ!」
店主は大きく膨らんだ皮袋を台に置いた。
「ちょろまかして無いでしょうね?」
「信用商売だぜ?ごまかしたなんて知れたら商売にならなくなる」
黄昏パーティー一行は露店を後にして観光案内所に向かった。
観光案内所にも姫様関係の物がたくさん置いて有り、観光で栄えている町だと言うことが良くわかる。
「こんにちは、この町で一番豪華な宿はどこかしら」
ヴィーシャは臆することなく話をすすめていく。
「おう、そりゃ景気の良いこった、それならホテル・ソフィアって宿が一番歴史があって豪華だぜ、唯一姫様の名前を冠することを許された宿だからな」
「姫様はソフィアって言うのか・・・」
ヤヒスは壁の張り紙を見つめていた。




