258 平等の都市③
黄昏パーティー一行は早朝から都市ソビエルの街路を急ぎ、城門を目指していた。
「向こうの方が早かったみたいだね、兵士がたくさん構えている」
ヤヒスはため息をついた。
「このような早朝にどちらへ?」
兵士の一人が問いかけて来る。
「私たちは旅人、この都市から旅立たせてもらうわ」
ヴィーシャの答えに別の兵士が話を返して来る。
「この都市は一度入ったらその民となってここから出ることはできません、それにあなた方は余計なことまで知りすぎた」
「そう、私たちの邸宅のことをね」
民長が兵士をかき分けて出て来た。
「やっぱり盗聴していたか、しかしあの小声も聞き洩らさないのはすごいね」
マサカツは頭の後ろで手を組んで民長に投げかける。
「我が国の特技ですからな、さてこの国にとどまるか外に出られる代わりに土の中、二つの選択肢を選んでください」
「どちらも選ばないよ」
ヤヒスが声をあげると兵士たちが槍を向けて前進してきた。
「お前らごとき一瞬でなぎ倒すことが出来るが、それは勘弁してやろう」
小柄な少女にしか見えないフィスの言葉に兵士は笑い声をあげた。
ヴィーシャは腕組みして仁王立ちし、微笑みを浮かべている。
その後ろでヤヒスが叫んだ。
「チヌック!!」
すると、どこからともなく一羽の鷹が現れて、地面に降り立つと巨大なグリフォンへと変化した。
「ば、化け物だ!!」
「なんだこれは・・・」
「民長様!!いかがいたしましょう!?」
兵士たちがそのようなやり取りをしている隙にパーティー一行はチヌックの背に乗り上空に吸い込まれて行った。
「民長さんーー!!この国はいずれ崩壊するぜ!!逃げる準備でもしといたほうがいい!!」
マサカツが叫んでいる。
高く舞い上がったチヌックは旋回してソヴィルバーレの方向に滑空していく。
ソビエルから旅立った黄昏パーティー一行はその後も続く森林地帯を飛び日が落ちる前に開けた場所に降り立った。
「いやぁお腹が空いた、すぐに食事にしよう」
ヤヒスはてきぱきと準備を始めた。
「さて、食べるぞい、腹が減った」
フィスはライ麦パンにかぶりつく。
「ドワーフにもらったお茶、美味しいな・・・」
マサカツは美味しそうにコップを傾けている。
それぞれに夕食を片付けると各々平たい場所を選んで毛布をかぶった。
翌日は早朝から空を行くとチヌックが声を出した。
「我が主、遠方に高い塔が見えます」
それにヤヒスが答える。
「塔?町があるのかな」
「塔の下部は森におおわれていて確認できません」
「とりあえず暇が無くなって良かったわ、この森林地帯はどこまで行っても同じに見えるもの」
ヴィーシャが嬉しそうな声を出した。
しばらくするとうっすら塔のシルエットが見えて来た。
「高い塔ですね・・・何の用途なんでしょう」
「これだけ土地があれば塔の中に住む必要はないな、うん?薄く煙が上がっているのが見えるな、町があるようだな・・・しかしここの文明度合いであのレベルの塔を建設出来るものなのか?」
ミードリとマサカツは塔に興味津々と言ったところだ。
やがて麦畑が広がる開けた土地に入ると、町の規模がはっきりと見えて来た。
「比較的大きな町、塔との関係性が気になる」
パムがそう言うとヴィーシャもそれが気になると言うような話をしはじめた。
町の外れに降り立つと徒歩で町の門を目指す。
「城門が開かれていますが門番はいませんね」
「うん、平和な町なのかな・・・しかし大きな塔だなぁ・・・」
ミードリとヤヒスは並んで空を見上げているが、黄昏パーティー一行以外の者は、塔にはお構いなしで各々の生活を営んでいた。




