255 別れの時
「うーん、なにから・・・ああ、玉鋼、ものすごく純度の高い鋼を作り出す、それを君たちと同じように炉にくべて叩いて伸ばして・・・知識があいまいだからな、何度も折りたたんで叩いて行くと鋼の層がだいたい3万層になるね」
ドワーフは良くわからないという顔をしている。
「ええっと5桁になるんだけど、伝わるかな」
「うそじゃろう!?そんなに叩けるもんか!!」
マサカツは顎を掻きながら弱ったような顔をして言った。
「ええっと、倍々式で層が増えていくんだ、よく覚えていないけど、14-15回くらいで3万層になるね」
「うそじゃ!!たったそれだけでそんな数にならんわい!!」
「そうだよねぇー・・・そうだよ、そこが数学の恐ろしい所でね」
「同じようにやればええのか?三万層になるんか?」
「うーーーん・・・僕には何とも言えない、あと折れ目に見えている芯金も何通りもやり方が・・・あー・・・反り、もどうするんだっけ、端的に言うと無理だよそれ」
「そ、そうか、惜しいのう・・・しかしワシら以上の叩き屋がおったとは、がははははまだまだじゃのう!」
「ちっぽけな世界で喜んでおったわ」
「わ-ーーっはっはっは!!!!」
「エルフも独特だったけどドワーフの思考も良くわかんないなぁ・・・あんな感じの教授もいたけど」
マサカツは困惑しながらドワーフ連中の輪から離れた。
2-3日すると遺体の埋葬も終わり、黄昏パーティー一行はそれぞれに自分のスキルが生かせる村へと散っていった。
ヤヒスはゴブリン村で農作業を手伝い、自分の村ではどのように土壌改良していたのかを、細かく説明している。
パムもゴブリン村で老女と森に入り、野草を採取し、それの活用法を絵図入りで帳面に書き込んでいた。
エルフの村にはリャヒが出向き、長と治世や村落の回し方を互いに意見し合うようになっていった。
他にも、マサカツは弓の鍛錬をエルフと共に日々費やし、ていたが、その内に他の村落からも声がかかり色々と行き来している。
ドワーフの村ではヴィーシャが剣の技を教え、力一辺倒のドワーフに反らしや叩き落しなど細かい技を伝授して、ドワーフ達をうならせていた。
ミードリはホームに戻った時にと、各村で料理のレシピを帳面に書きつけている。
フィスはドワーフ達と力技や組み手をして、効率的な身体の動かし方を伝授していた。
「もう2-3日で島の流が止まって大陸に近づくぞ」
ブントがヤヒスに言った。
「そっかーあっという間だな」
「この島に上陸しても言語の壁で馴染めずに出て行ってたものは多く居る、それと敵対して戦になった連中もな、だがな、ここまで島に馴染んだのはお前たちが初めてだ」
「俺たちも知らない種族には初めて出会った、楽しいよ」
「お前は農作業や知らない野菜を見ることが楽しいんだろう?がはははは」
「ぷ、ははははは」
ブントとヤヒスは高らかに笑っている。
そして島が停止する時が来た。
「おぉー本当にシールドが消えて行くな、これなら陸地に戻れる、ブント、色々ありがとう」
「ヤヒスも元気でな」
他にも各々が握手したり抱き合ったりしている、パムと過ごしていたゴブリンの女性は涙を流してパムを抱きしめている。
リャヒはまだ語りつくせぬと言った様子でエルフの長と何事か話をしているようだ。
全員がチヌックに乗り、手を振りながらゆっくり島を離れて行った。
「あー・・・皆が見えなくなっちゃった」
ヤヒスが寂しそうな声をもらす。
そこに小さなすすり泣きのような声が聞こえた。
「あら、パムは泣いているの?」
普段あまり感情を見せないパムがポロポロと涙を落としているため、全員驚いている。
「おばぁちゃんみたいだった・・・優しかった・・・おばぁちゃんは死んじゃったから」
パムの様子を見て、各々が親しくしていたものを思い出し、島を振り返った。




