248 秘薬
「と言うことは肥料は糞尿だけなのかい?」
「そうだよ、他には使ってない」
「堆肥は知っている?
「何だいそれは」
ヤヒスは朝から農業のことで村の若い衆に聞き込みをしていた。
「堆肥は麦わらや落ち葉に、家畜の糞尿を少しばかり混ぜて積み重ね、発酵させたものを言うんだ、これがあるとないとでは大違いだよ」
「ふん・・・外の者は色々知っておるな、それで詳しくは?」
ヤヒスは地面に棒切れで絵図を書いて説明しだした。
そのころマサカツは水車小屋に手先の器用な者を集めて水車の勉強会をしている。
「まあ、そう言うわけでこの部分が一番傷みやすい、あと水車羽は定期的に交換した方が良いだろう、水に浸かるから腐りやすい」
「水路の整備もするだか?」
「もちろん、動力源は水力だ、最も原始的な動力源だね、今回はその水が通らなかったことで水車に異常が発生した、これも異常が出た場合真っ先に確認する箇所だよ」
それぞれ得意分野で村人にスキルを伝授しているが、農村で役立つスキルを持ち合わせていないリャヒとヴィーシャは、相変わらず縄をなっている。
「あ・・・だいぶ慣れてきたわ、もう流れ作業よ、今はどれだけ品質を上げるか思案中」
「うむ、集中力が高まっている、これは国に帰った時国民の役に立つな」
「王が縄をなっていて良いのかしら・・・」
昼食の時間になると子供たちが大勢やってきて、隣に座ったり脚にまとわりついて来たりする、来訪者に慣れて楽しくなってきたのであろう。
「フィスねーちゃんはつええな!岩持ち上げちゃうもんな!」
「ねぇねぇどんなとこ探検して来たの?」
特にフィスは子供たちに人気がある。
見た目の年齢層とふざけた感じが受けるのであろう。
「でもさ、秘薬があればフィスねーちゃんくらい強くなるぜ!」
「秘薬な!どっちが強いかな?」
「む、秘薬とは何だ?なんぞ強化薬でもあるのか?」
フィスが子供たちに話を聞いている。
「秘薬を飲むと身体がバキバキになって、早く動いてパンチとかもすごくなるんだ、ピエールじいちゃんでも素早く動いて岩なんか投げちゃうんだ」
「それは面白いわね、ドワーフは巨大化、ゴブリンは秘薬があるから外敵にも対応できる余裕がるのね」
ヴィーシャは頬杖をついてピエールに呼び掛けた。
「やれやれ・・・話してしまったか、これが秘薬じゃよ」
ピエールはポケットから小瓶を出して机に置いた。
「持ち歩いているのね」
「いざと言う時はいつ起こるかわからん」
ヴィーシャはピエールから話をされ、なるほどと納得した様子である。
「ふーん・・・興味があるね、この場でピエールが服用すのはダメかな?」
「そう言うと思っとったわい、それほど貴重と言うものではないから、まぁええじゃろ」
ピエールがそう言うと村人から喝さいが沸き起こった。
その後にピエールは秘薬を服用すると、ビキビキと音がして彼の身体は色艶を増し、肥大こそ少ないがしまった美しい体形に変化した。
彼は瞬歩で距離詰ると、立木に拳打や鋭いハイキックなどを叩き込んだ。
「ドワーフとは違う強さだね」
ヤヒスがそう言うと、村の青年が話し出した。
何でもタンク役がドワーフで、敵を速さと鋭さで翻弄するのがゴブリン、後衛は弓の名手であるエルフが狙撃してサポートするのがこの島の防衛手段だそうだ。
「どんな軍勢が来てもイチコロよ、種族が違えど協力すれば大きな力になる、そうだろ?」
「うん!そうだね!」
ヤヒスは自身の所属する一団がばらばらの個性であることを思い出してこの島により一層親近感がわいた。




