246 水車
ヤヒスとマサカツはゴブリンのピエールに案内され、故障したとされる水車の様子を見に来ていた。
中に入ると麦わらや布袋が積み重ねられており、確かに水車然としたものが設えてあった。
「うーん・・・中学の頃に校外学習で見たものとほとんど変わらないな」
マサカツは色々な箇所を見分している。
「マサカツ、こっちは破損がみられないけどそっちは?」
「うん、水車は専門じゃないけどそれくらいは分かるよ、破損は無い」
「うーん・・・なんだろ、ちょっと違和感があるな」
ヤヒスが腕組みをしていると、マサカツは水路の様子を見ている。
「ヤヒス、この規模の水車では水流のエネルギーが足りない気がするんだが、こんな物なのかい?」
「えっ・・・ああっこれは水がずいぶん少ないよ、どこかで水路が詰まっている」
「どこも壊れていないと思ったら電源が抜けているようなモノか」
マサカツは独り言を言っている。
しばらく水路を進むと、奥まった場所に土砂崩れで半分以上埋まった水路があった。
「あったあった!!」
「大体原因は平凡な所にあるんだよな」
ヤヒスとマサカツはすぐさま土砂の除去に当たった。
「よし、これで良いだろう!!」
「うん、だけどもここの地質からしてまた土砂崩れを起こすぞ、板と杭でなるべく崩れないようにする必要がある、それに今回は簡単な原因だったけれど可動部の故障だと困るだろうな」
マサカツは指を顎に当てている。
「それは誰でも直せるようにするってこと?」
ヤヒスが振り向いてマサカツに問いただした。
「ああそうだよ、僕は図面を書くのも得意でね、図面やマニュアルは学校でずいぶん書かされたもんだよ」
水車小屋に戻るとピエールが笑顔で待っていた。
「本当に直してしまうとはの、ありがとう」
「いやいや、農家として放っておけないからさ」
「はっはっは、農業は種族間も関係ないのう」
ヤヒスはピエールに気に入られたようである。
異邦人が水車を瞬く間に直したと言う話はすぐに広がり、黄昏パーティー一行は俄然興味を持たれる存在となった。
「ウチのバァさんの膝が良くなくて」
「どう直しても雨漏りがするんだが」
「農家の男が来ているって本当かい?ちょっとウチの畑を見て欲しいんだが」
村の人々が少なくない要望をヤヒス達に持ち込んできた。
パム、マサカツ、ヤヒスが主にそれにあたり、他の面々はいつの間にか縄をなう作業につかされていた。
夕暮れになると各々がどこやらかの家に招かれ、夕食をとっていた。
特にヤヒスとマサカツはよその家からも話を聞きにくるほど重宝されていた。
「だから、この島でも沿岸でイワシが取れるだろう?それを干して畑にすき込むんだ」
「イワシは沢山取れるけど食うもんだろ?そんなんで畑が肥えるのかね」
「俺の村は海から何日もかけてイワシを運んでもらって肥料にしていたんだ、間違いないよ」
「ふぅん・・・まぁやってみるか」
ヤヒスは食べる間もなく農作物のことで質問攻めであったが、本人は嬉しそうである。
翌朝
「おはようヴィーシャ」
「ああ、ヤヒスおはよう」
「どうだった?昨日は」
「ハァーッ・・・それが、ウチに嫁に来いって何度も・・・」
そこにリャヒが加わり、彼もまた昨夜のことを話しだした。
「と言うわけでな、顔がいい顔がいいとメスのゴブリンが来てな、ヴィーシャの様にウチの娘と結婚しろだのなんだのとな・・・・」
「なんだよ、いい男税みたいなものじゃん、こっちは野菜のことばかりさ」
ヤヒスはため息をついて麦畑を見やった。




