245 ゴブリンの村へ
「もう行っちまうのかあ、もっといても良いんだぞ」
「世話かけられないよ、それに一応調査が名目だからそんなに時間はかけられないのさ」
ヤヒスはブントと握手をしている。
「お世話になったわ、あなたたちのおかげでプチって名前も付けられたし」
「マスターヴィーシャ、運命はここにあったのです」
大剣のプチは気取った口調である。
「じゃあまたね!」
ドワーフ達に見送られながらヤヒス達はゴブリンの村に向かう。
「本当にゴブリンが平和に暮らしているのでしょうか?不安が残ります」
ミードリがもっともなことを言いだす。
「うむ、ゴブリンと言えば凶暴であると我でも知っておる」
リャヒもそれに賛同する形だ。
「なに言ってんの、ブントの言うことなら間違いないでしょ」
「ヤヒスは本当に疑うことを知らないのね」
「そうかい?」
ヤヒスとヴィーシャは肩を並べて歩きつつなにか細々した話をしている。
半日ほどで森が開けて麦畑が見えてきた。
「うわぁ・・・まだ青いけど麦が見事に実っている」
ヤヒスは感心したような声を出す。
「うん?煙が上がっているね、集落が近いのだろうね」
マサカツは空を指さした。
麦畑の道をぞろぞろと歩いて行くと麦の穂を手に取ってみている誰かがいた。
「服一式を着ているからゴブリンじゃないわね」
ヴィーシャの第一声にパムが声をはさむ。
「ブント達はゴブリンも被服を一式そろえていると言っていた、顔が土気色で耳が尖っている、あれはゴブリン」
「とにかく話しかけてみよう」
ヤヒスが先頭に立ち、件の人物に近寄る。
「こんにちは」
「ん?ああ、こんにちは・・・島の外から来た人だね、顔でわかるよ、しかしここでの共通語が通じるのは珍しいな」
ゴブリンはヤヒスを見上げながら言った。
「俺、ヤヒスって言います、今は何をしていたんですか」
「うん?私はピエールだよ、麦穂が色付きはじめているので粒の出来具合を見ておったのさ」
「うーん・・・痩せていないし倒伏もない、見事な畑ですね」
「ほぅ、わかるかね?」
「俺は農家ですから」
少しの間ヤヒスとピエールは麦畑の話しに集中し、しばらくするとヤヒスが仲間の紹介をしだした。
「なるほど、今年は違う地域に島が流れ着いたのか、それでそこの領主にここの調査を頼まれたと、この島が有益であれば自分たちが奪おうという腹だろうね」
ピエールは髭をこすりながらヤヒス達を見つめた。
「はい、正直なところ私もそのための自分たちが派遣されたのだと感じています、ですが温厚なこの島の人々に介入させるつもりはありません」
「そうだと良いがね」
ピエールは中々に聡明なようで、こちらを見通しているように思えた。
「まぁ、上陸するとしたらドワーフの村にだろう、あんたがたは彼らの能力を見たかね?」
「巨大化なら拝見しました、正直な話特別なことが無ければ領主の側が用意した軍勢がかなうとは思えません」
ミードリが真剣な顔をする。
「ま、良いだろう、村を案内しよう、着いて来たまえ」
村まで到着したが住人はまばらで、それにヤヒス達にも対して関心が無いという雰囲気だった。
一通り案内されたが簡素な村ゆえにたいしてみるところも無かった。
「昼間はみんな野良に出ておってな、夕方には戻るよ、そこらでくつろいでおってくれ」
ピエールが一行の元を離れるとヤヒスがそこに駆け寄った。
「じいちゃん、さっき見かけたんだけど水車は動かしていないの?」
「うん?それがな、水車の管理人が数カ月前に事故で亡くなってなぁ、そのあとに水車が故障して困っておったんだ」
「じいちゃんちょっとまって、マサカツーーー!!」
ヤヒスがマサカツを呼ぶと彼はやってきて、何事かと聞いてくる。
「なるほど、水車の故障か、そりゃ困るね、中世は水車が命綱だからな・・・うん、せっかくだから図面かいてマニュアル化しよう」
マサカツはそう言って帳面を取りだした。




