240 言語
チヌックはあっという間に島に渡り岩礁に降り立った。
「チヌック、空から見た限りでは何か建物は見当たらなかったかい?」
「は、ここから森林を抜けると岩盤が露出している場所があり、そこに集落らしきものが見て取れました」
ヤヒスはチヌックに色々と聞き出している。
「集落があると言うことは住人がいることは間違いないか、ふむ」
「好意的な住人だと良いのだけれどね」
リャヒの話しにヴィーシャが乗ってくる。
「ここからは徒歩で進むのはどうですか?チヌックで降り立っていたずらに住民を怖がらせても良くないことですし」
「うん、そこに小道も見えるからあれを進んで行くのが良いかもねぇ」
ミードリとマサカツも話し込んでいる。
「では、徒歩であの道を集落まで進むわよ」
一行はその道を進み、ずいぶんと時間が経過したころフィスが鼻を鳴らしだした。
「む、なにかドルガンのような匂いがするのう」
「うん、確かに煙が上がっているのが見えるね、何か鉄工の町があるのかもしれないね」
マサカツは目を細めて先を見ている。
やがて集落が見えてくると誰にもはっきりと分かるほどに、石炭の匂いが漂ってきた。
集落に入ると近くにいた小柄で髭をおおいにたくわえた男が近づいて来た。
その姿は筋骨隆々である。
「・・・・・・・・」
「はい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「だめだわ言葉が通じない」
「じゃあ俺の出番だ」
マサカツは神なのでこの世界のあらゆる言語を話せるのである。
「・・・・」
「うん」
「・・・・・・・」
「ああ、やっぱりドワーフなんだ」
「・・・・」
「僕らはヒトとよばれる種族だよ」
「さすがマサカツね、言葉を理解している、でも彼だけが理解できても不便だわね」
「・・・ちょっと試してみたいことがあるんだけどいいかな?」
ヤヒスはヴィーシャに話しかけながらリュックをおろした。
「これ、トーキングヘッドの魔石、アイツら少し話しただけでぺらぺら人語を話し出しただろう?これを身体に結合したら、向こうの言葉が分かるかもしれないんじゃないかな?」
「そうですね、理屈は合います、試してみましょう」
ミードリが結合を促してきた。
「じゃ・・・結合!!トーキングヘッド!!」
魔石はヤヒスの手の平に吸い込まれて行った。
「よし、ためしに挨拶してくるよ」
ヤヒスは小走りにマサカツたちの所へ近づいて行く。
「こんにちは」
「おお、こんにちは」
「俺はヤヒスよろしく」
彼が手を差し出すと男も手を出して双方握手の形になった。
「俺はブントだ、よろしく」
「へぇ、ヤヒスは会話できるんだ・・・ん、ああ、トーキングヘッドの結合か」
「さすがマサカツは鋭いな、じゃあ俺は皆にトーキングヘッドの魔石を結合してくる」
ヤヒスはヴィーシャ達の元に戻り、結合の作業をしている。
「ふぅむ・・・驚いたな、お前たちワシらの言葉がわかるんだな、今まで来た連中は誰とも会話ができんかったがのう」
「そこは何て言うか魔法みたいな」
「魔法とはエルフが使うアレか・・・ならば納得は出来る」
「おい、なんだあいつら、ブントと会話しているぞ」
「俺たちの言葉が分かるのか?」
「こりゃ驚いたな、今までの奴らとは違うぞ」
ドワーフの村人が遠巻きにヤヒス達を見ている。
ブントは全員とあいさつを交わし、ようやく落ち着いたと言ったところで村の説明を始めた。
「見ての通り、鉄工の町だ、ワシらぁこれだけは誰にも負けんと自負しておる、さっきもそこの兄ちゃんに言ったがエルフやゴブリンと貿易をして平和にやっておるわい」
「ゴブリン・・・危険はないの?」
「ん?のほほんとした気の良い連中だぞ、奴らば農業に関してはピカ一でなぁ、ゴブリンがおらんとワシらもエルフも飢えることになろうて」
「どうも私たちの土地とは大きく常識が異なるようね・・・」
ヴィーシャは村を見渡して言った。




