232 疫病の町
建物の中は荒らされ、各部屋を周っても本が散らばりそこに白骨が横たわると言うようなありさまだった。
比較的大きな部屋の中に入ろうとした時に、半分焦げた看板が目に入った。
「リャヒ、その古代語を翻訳してみて」
マサカツが腕組みしながら言った。
「うむ、疫病対策・・・あとは焦げていて読めんな」
「疫病・・・」
ヴィーシャがつぶやいた。
「うん、いやな仮説が当たってしまったか」
マサカツが首をひねっている。
「ええと、私も推測して見たのですが、まず疫病が蔓延して人々が死んでいった、そのような事態になると少なからず恐慌状態になり、街や人を損壊する集団が増えていき、最終的に疫病で全滅、これが真相ではないかと」
「最悪の状態じゃな」
フィスが戸口に背中をもたれさせて苦い顔をした。
「まちなさいよ・・・疫病ってことは私たちも感染するってことじゃないの!?」
ヴィーシャが叫ぶ。
「そこなんだよねぇ・・・とりあえず資料を当たって対策を考えてみるよ」
マサカツは目を閉じて話す。
「ミードリ、そっちは?」
「あらかた燃えてしまっています」
「はぁ、そうか・・・」こっちも効果がみられた対策法は一つも無いよ、もっともそうであればこんなことになってないんだけどね」
マサカツは炭と化した椅子を蹴り飛ばした。
マサカツとミードリが建物から出てくるのに気付いたヴィーシャが声をかける。
「どうだった?」
「駄目だ、発症まで3日、嘔吐に下痢と高熱、1週間で衰弱死と言うことしかわからなかったよ。
「対策が分かっていれば町は滅びていない」
パムは足元見つめながら言った。
「とにかくすぐにここを離れて山脈を越えよう」
パーティー一行は早足で山脈のふもとまで戻り、装備を整えて山脈に突入した、前回と違いヴィーシャは厚着をし、山頂付近が快晴だったことで特に問題なく下山することが出来た。
言葉少なく食事の支度を終え、それを食しているとヴィーシャが言った。
「私たちの誰かが疫病にかかっているかもしれない、そうでしょうマサカツ?」
「そうだよ・・・」
「だとしたらそれを他の都市に持ち込んではいけない、恐ろしいことになるわ」
「うむ、我の言うことは残酷であるが、この一団はここで疫病にて息絶えるのが賢明」
「ふぅー・・・そうなるかのう・・・」
その場は沈痛な空気に支配され、誰も答えはしなかったが、ここで全滅するのを待つことになった。
それから3日後、その場にうめき声が響き渡っていた。
「うぅ・・気持ち悪い」
「頭が痛いです」
「はは・・・我の国が勃興するところを見たかったのう」
「うー・・・日本に帰れず死ぬか・・・」
ヤヒスとフィス以外は全員発症していた。
二人は食事の世話などをしているが、仲間がいずれ死ぬことを覚悟していた。
「頭が痛いな・・・フィスはドラゴンだから感染しないのは分かるとしても、ヤヒスだけ発症していないのはどういうわけなんだ抗体でもあるのか?いや考えにくい」
マサカツが顔をしかめて言う
「俺にもわかんないよ」
「うぅ・・・苦しい」
ヴィーシャがうめいているのでヤヒスが額に手をあてると、ひどく熱を持っていた」
「クソッ、こんな熱をパッと取り払ってやれればいいのに・・・あ、ああ!!」
ヤヒスが大きな声をあげる。
「剥離のスキルだ!病原体を剥離で取り除けばいいんだ!!何で気付かなかったんだ!!」
ヤヒスはさっそくヴィーシャに剥離のスキルを使用する。
「剥離!!病原体!!」
そう叫ぶとヴィーシャの額から黒いもやのようなものが揺れ出してきた。
「うわっなんだこりゃ!これが病原体か!?あああ、剥離しただけではまた戻っちゃう、どど、どうしよう」
ヤヒスは傍らにある薪を手に取り叫んだ。
「結合!!病原菌!!」
黒いもやが薪に吸い込まれたのでヤヒスはそれを焚火に放り込んだ。




