230 山脈を越えろ⑤
「心なしか寒くなってきたわ・・・」
ヴィーシャは無意識に腕をさすっている。
「6000メルト辺りだ、ここからガラリと変化する、上を見ろ、雲がかかっているだろう?あれは嵐だ!!」
マサカツが前方を指さす。
「みんな腰に括り付けたロープをフィスに巻いているロープに金具で止めるんだ!!」
マサカツの一言で全員がロープの輪っかになった部分に金具をカチカチととめていく。
「ぬぅ、風が強くなってきた」
リャヒは目を覆っている
「か、風が冷たい」
パムは顔をこわばらせている。
「マサカツさん!嵐の圏内に突入しそうです!」
「みんな身を低くしてロープにつかまれ!!」
ミードリはマサカツに報告し、マサカツは指示を出した。
嵐の中に突入すると、およそ考えられない暴風と寒さであった。
「かっ、身体が飛ばされそうだ・・・」
ヤヒスはロープにしがみついている
「ささ・・・寒い」
ヴィーシャはロープにつかまりながら小刻みに歯を鳴らしている。
「マスター!天辺を超えるぞ!ここから下降する!!」
フィスが大声でヤヒスに伝える。
「助かった・・・やはり8000メルトくらいだったか」
マサカツは頭をぐったりと下げてつぶやく。
下降する中で嵐は収まり、その圏内を抜けると地表が見えてきた。
「やった!地上が見えるよ!」
ヤヒスは喜んでいるがその横にいるヴィーシャは真顔で身体をさすっている。
「寒い寒い寒い」
「マサカツ!高度は下がったけどヴィーシャの寒さが収まらない!」
「体温は一度下がると元に戻すのが困難になるんだ!下山するまで待つしかない!!」
マサカツの言葉を聞いてヤヒスは不安そうな顔つきになった。
やがて地上の開けた場所に降りたち、全員がフィスから降りた。
ヤヒスは走り出して自分が着ている防寒着をヴィーシャにかぶせた。
「冷え切った体は防寒着をかぶせても大して温まらない、お湯を沸かすぞ」
「マサカツさん!水が全部凍っています!!」
ミードリが不穏なことを叫ぶ。
「ああっクソ!俺としたことが!ミードリ!その皮袋の水を火炎魔法の調整で水にすることは出来るい?」
「微調整は得意なので任せてください!」
ヤヒスは少し離れた場所で魔石コンロを接して大なべをドカンと置いた。
フィスとパムは両側からヴィーシャに抱き着いて体温を少しでも分けようとしている。
その間にはリャヒが周囲を警戒している。
「マサカツさん!氷が全て溶けました!」
「良し!ヤヒス!点火だ!」
「あいよ!」
点火された大なべに水を入れていく。
「うん、このくらいの温度からだな・・・ヴィーシャの脚装備を外して鍋に足を浸すんだ」
フィスはヴィーシャを背負って走ってきたかと思うと、足をゆっくりと鍋に浸した。
「ヤヒス、お湯を風呂の温度位に保ってくれないかい?」
「心得た」
マサカツの指示でヤヒスはコンロを操作している。
しばらくするとヴィーシャの顔に赤みが戻って来た。
「あったかい、ポカポカする・・・」
「よかった、ヴィーシャどうなることかと思ったよ」
「心配かけたわねヤヒス」
二人はにこやかな笑顔で話している。
「なんぞ腹が減ってきおったわい」
「おつかれフィス、いくらドラゴンでも消耗しただろうからからね、昼ご飯にしよう」
ヤヒスが声をかける。
「ご飯・・・お腹が減っている」
「私もです、本当にエネルギーを消耗するのですね」
パムもミードリも気が付いたらずいぶん消耗していると感じているようだ。
一息ついて安堵の空気が漂っていた。




