229 山脈を越えろ④
夕日が近付く時間、一行は山脈の麓に降り立っていた。
「改めて見ると高いねぇ・・・」
「うむ、荘厳だが怖くもあるな」
ヤヒスとリャヒが話している所にマサカツが近寄ってきた。
「やあ、二人とも不安なのかい?僕は少し不安だね」
「うん・・・」
「うむ、我は不安が無いと言ったら噓になる」
「実際に何メルトあるのか俺にもわからないんだ、だがこの世界が俺の住んでいた世界と同じ理ならば8-9000メルトが限界のはずなんだ」
マサカツがそう言うとリャヒが答える。
「根拠はあるのか?」
「ふーん、根拠・・・大学の授業で習ってね、プレートの動きと隆起が関係して重力も合わせると限界がある、それが8-9000メルトだと」
「相変わらずなんだかよくわからない話だなぁ」
「はははっ、ごめんごめん」
ヤヒスとマサカツは笑い合った。
「またすごい食べてる」
パムはフィスを見てそう言った。
「彼女だけじゃないぞ君たち全員、腹いっぱい限界手前まで料理を食べるんだ、前にも言ったが寒さはそれだけでエネルギーを奪っていくたとえ寝ていてもだ」
マサカツは厳しい顔で話しかけて来た。
「途中で食べるのはダメなんですか?」
ミードリが質問している。
「ん?君らしくないなぁ、あれだけの防寒着が必要な場所ではまともに物を食べられないよ」
「あっ、そうでしたね」
それを聞いていたヤヒスは椀に大量のコメを持ってわしわしと食べだし、味噌汁で流し込んでいる。
「コメはまだまだあるからみんな、むぐ、もっと、うんっ、食べるんだ!」
「うん、そうする」
小柄なパムがコメを山盛りにして勢い良くかきこんでいる。
しばらくすると全員が地面に寝転がっていた。
「うう・・・苦しい」
ヴィーシャがうめいている
「は・・・腹が」
ヤヒスも転がったまま腹をさすっている。
「うっぷ、みんな、腹がこなれたらすぐ寝るんだ、睡眠も重要になって来る」
マサカツがか細い声でそう言ってしばらくすると、誰とはなしに毛布にくるまって、全員が眠りについた。
翌朝日が登り切ったころに黄昏パーティーは朝食を取っていた。
「昨夜は沢山食べさせたのに、朝はドライフルーツを少しだけなのね」
ヴィーシャがマサカツに言った。
「理由は吐くからだ、酸素マスクがあるが、山は高い所に行くと様々な体調不良を起こす、その中には吐き気も含まれるんだよ」
「ううっそれはいやだなぁ」
ヤヒスは渋い顔を見せた。
朝食のあとは着替えである。
「この肌着と上着だけで良いのであるか?極寒の地に行くのであろう?」
「良いんだ、あっ、前のボタンは外しておいて」
マサカツが様々に指示する。
「汗をかいている人はいないか?」
全員首を横に振った。
「うん、良し、最初に肝心なのは汗をかかないことだ、汗をかくと高度が上がった時にそのまま凍り付いて体温を奪い、取り返しのつかないことになるからね」
「じゃあ出発ね!」
ヴィーシャの号令で全員がドラゴン形態のフィスに乗り込む。
「フィス!行ってくれ!」
「了解じゃマスター」
ヤヒスの言葉を受けてフィスがゆったりと舞い上がった。
「それなりに上がってきたけれども何メルトくらいなのかしら」
ヴィーシャがつぶやいた。
「上の方を見てくれ、今まで生えていた植物が無くなっているだろう?」
「本当ですね、何か魔素の影響とかですか?」
マサカツの言葉にミードリが返す。
「森林限界だ、2000メルトを越えている、皆、酸素マスクをつけるんだ」
ヤヒスが酸素マスクを取りだしてスキルを使う。
「結合!!」
「よし、これで酸素供給されるはずだよ」
そう言ってヤヒスはマスクを全員に手渡した。
しばらくは全員が無言で上を見ていた。
「雪だ!」ヤヒスがそう言った。
「全員重ね着をして酸素マスクを取り替えるんだ!」
マサカツが叫ぶ。
山脈越えはまだまだこれからである。




