228 山脈を超えろ③
「王よ、お久しぶりでございます、お身体の方は?」
「うむ、すこぶる良い」
リャヒはプルツ国の入り口で門番と会話をしている。
「ところで本日はどのようなご用向きであらせられますか?」
「うむ、防寒着が必要なのだ、西の山脈を超えるのにな」
「西の山脈!?あの頂が見えないほどの山を越えるのですか!!」
「そうだ、仲間が言うには上へ行くと極寒状態になるそうでな」
リャヒがしばらく門番と会話した後で全員揃って領内に入って行く。
「おーーー!!麦が青く伸びている!!順調だぁ」
ヤヒスは畑のことが気になる様子であちこちの作物を見て周っている。
「ヤヒスは根っからの農家ね」
ヴィーシャがそう言うとパムも言葉を合わせて来た。
「冒険者との兼業農家」
「ははっなにそれ、いいわね」
ヴィーシャはさらりとした表情で笑う。
全員で領内を歩いて行くとリャヒは方々から声をかけられて返事を返している。
「リャヒさんが王だってことを実感しますね」
ミードリがそう言うとパムが答える。
「人の本当の姿は見えにくいことが多い」
やがて大きな木造りの建物に近づいて中に入って行く。
「王よ、防寒着は定期的に日干しをして風を通して万全に準備しております」
「そうか、良くやってくれている、感謝するぞ」
「は!もったいなきお言葉!!」
「マサカツ、防寒着と言っても様々あるがどのような物を選べばよいかな」
「まずインナー、出来れば羊毛次にミドルウェア、これも羊毛で編んだもの、アウターは内側が毛で外が皮になっている物」
「ふむ、全て用意できるであろう?」
「はい、万全に」
「ではあとはブーツにグローブと言ったところかのう」
「それも万全に」
「じゃああとはサイズの合うものを選ぶだけね」
ヴィーシャが建物の中に入って行く。
しばらくすると各々自分のサイズに合う服を選んでいく。
「あっついなぁー」
ヤヒスは額に汗をかきながら全ての装備を身に付けている。
「それでも山脈越えに対応できるかどうかってところだけどね、いや暑いね」
マサカツは苦笑いをしながら言った。
そう言ったこまごまとしたことをしているうちに夕暮れが近付き、晩餐が用意された。
「うむうむ、以前と比べて格段に美味な料理になっているな」
「はい、ソヴィルバーレの村々から交易で手に入れている物です、今は養鶏に取り組んでおりますので卵も遠慮なく使えます」
(これぞ農家の醍醐味だね、誰かの食を支えてさらに発展させられる)
ヤヒスは笑顔で食事を進めていった。
翌朝は日が登ってすぐにプルツ国を発った。
プルツ国からはチヌックで山脈のふもとまで行き、そこからはフィスのドラゴン形態で山脈を越えると言う流れである。
「見て!みんな出てきて手を振っているわよ!」
地面を離れたばかりのチヌックの背でヴィーシャが言った。
「ほんとだ!」
「うむ、国をたのんだぞ」
皆で手を振り返して上空へと吸い込まれて行く。
「チヌック!今のペースだと山脈のふもとまでどれくらいかかるかな?」
「は、主、夕刻には到着するでしょう」
昼頃になると黄昏パーティー一行は草原に降り立ち昼食を取り始めた。
なかでもフィスはチーズやライ麦パンなどエネルギーになりやすい食品を片っ端から食べている。
「すごい勢いですね・・・」
「いつもよく食べる子だけれども今日は一層すごいわね」
ミードリとヴィーシャが会話している所にマサカツが割って入った。
「寒いと言うことはそれだけでエネルギーを消耗するんだ、彼女は炎龍で寒さは感じないと言っているがエネルギーの消費は必ず増大する、今から、夕食でも出来るだけ多く食べてもらうように言い含めてあるんだ」
ヤヒスはそれを聞きながら山脈越えへの不安を感じていた。




