227 山脈を超えろ②
ヤヒスは床に落としたじゃがいもを持ってマサカツを見つめている。
「ミードリ、黒色顔料は手に入るかい」
マサカツがミードリに投げかける。
「はい、染料もそうですけど特殊な魔法の媒体に使われます」
「何か進展があったのかい?」
ヤヒスは野菜の皮を剥きながらマサカツに声をかけた。
「うん、酸素を発生させる手段を思い出したんだ」
「なになに、何かあったの?」
ヴィーシャはそう言いながら階段を降りてくる。
「簡単に言うと空気が薄くなることへの対策が出来たんだよ」
マサカツは両腕を前に伸ばしながら答えた。
翌日は朝からマサカツとミードリが連れ立って市場へ出かけた。
昼食頃になると二人は大荷物を背負って買い物から戻ってきて、リュックを床にドスンと置いた。
「うわぁ・・・なんだいそれは」
ヤヒスは近寄ってきてリュックの中身を確認する。
「うは~スゴイ量のじゃがいも、こんなに料理できないよ、マサカツ」
「マサカツさんが言うには実験するのにたくさん必要になるからだって・・・市場の人が驚いていましたよ」
ミードリは苦笑いしている
マサカツはそれをよそに荷物の中から瓶やなめし皮など何に使うのかわからないような材料を取りだしている。
「うっわ!なにそのじゃがいも」
ヴィーシャがリュックをのぞき込んでいる。
「さっきから聞いておったがじゃがいもから空気が作れるじゃそうだ」
フィスがテーブルに顎を乗せながら答える。
「うわっ、なんだそのじゃがいもの山は!」
リャヒが驚いていると、ヴィーシャが話しかけた。
「さっきの私とおんなじこと言ってるわ、空気を作るのに必要なんだって」
「む、では山脈越えが可能になると言うことか!」
その後マサカツに話しかけようとしたリャヒだったが、マサカツがあまりにも集中しているためにやめることにした。
翌日から前庭でマサカツが何やら作業をはじめて、すりおろしたじゃがいもと黒色顔料を混ぜて瓶に入れ、そこに蝋燭を立てて何やら観察をしているようだった。
「どうだい?空気を作る実験は」
「ああ、ヤヒスか、様々な配合を試しているんだけれどもせいぜい5分ってとこだね」
「いくつも作って取り換えれば?」
「うん、だけど何か改善案がある気がしてね・・・」
「それってどういう仕組みで空気が生まれているの?」
「ああ、すりおろしたじゃがいもを黒色顔料と混ぜるだけだよ」
「・・・まぜる?なら俺の結合で2つを合わせたらどうなの?」
マサカツはぽかんとした表情になった後叫んだ。
「それだ!結合は魔素レベルで結合する、そうなればより精度が上がるかもしれない!!」
「じゃあその瓶の中身を結合すれば良いのかい?」
「うん、よろしく頼むよ」
「じゃ、結合!!」
その後マサカツは素早く蝋燭を瓶の中に入れた。
「前から思っていたけどその蝋燭は一体何なのさ」
「うん、これはね、酸素が無くなると火が消えるからそれまでの時間を計っているのさ」
ヤヒスは座り込みマサカツと同じように瓶を見つめている。
「5分を超えたぞ・・・良し」
二人はじっと瓶を見つめている。
そこへ買い物から戻ったヴィーシャが渋い顔をしてみている。
「あなたたち何やっているのよ」
ヴィーシャが話しかけるとヤヒスが言った。
「ろうそくの火が消える時間を計っているんだ」
「はぁ?なにやって」
ヴィーシャがしゃべりかけたところでマサカツが声をあげる。
「ヨシっ!50分だ!これなら一人2本あれば足りるはずだ!!」
「10倍にのびてるじゃないかマサカツ!!」
ヤヒスとマサカツがハイタッチをする横で、ヴィーシャはあきれたような顔をしていた。




